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6.幸せの味

「『王国の学園都市にて、次々発見される遺体。犯人は未だ逃走中』ねえ。向こうじゃ物騒な事件が起きてやがんな」

「いやいや、武術大会の事件も相当物騒だったでしょうが! 結局、瘴気の原因を吐かせる前に、あのローブ男が急に吐血して死んじゃうし……」

「またいつ同じような事件が起きるか分からない、というのは王国も帝国も変わりませんね〜」


 いつの間にかすっかり恒例となった、ゲラートさんやレオールさん、ゼル先生も集まる植物園でのお茶会。

 帝国内の新聞でも取り上げられる程の事件が起きているのか、と私はクッキーを齧りながら、レオールさんが読んでいた記事を横から覗き込む。


「うわぁ〜。年齢層もバラバラな遺体があちこちで見付かるなんて、物騒すぎません?」

「少なくとも、ティータイムでお喋りしながら見るようなニュースではありませんね」


 私の零した感想に、フェルさんが紅茶のおかわりを注ぎながら言う。


 あの武術大会の後夜祭で、私が陛下と本当の婚約関係となってから、もう二週間が経った。

 今日はまた珍しい薬草の育成実験を進める日だったので、魔力の回復効果が高い薬草を練り込んだクッキーで午後のお茶会をしている最中だ。

 レシピはゲラートさん考案で、焼いてくれたのはエリザである。

 

 ふと他の記事に目を通してみると、思わず視線が引き寄せられるタイトルがあった。



『【純血思想】が招いた悲劇! シルリス貴族社会の闇が暴かれる』



 ──ミリー様の事件、とうとう(おおやけ)になったのね……。


 その記事には、公爵家が取り潰しになった事や、ミリー様や私に対する非人道的な扱いが報道されている。

 ただし、陛下の配慮で私の実名は伏せられていた。

 これで公爵家に対しては、一応の決着が付いた。


 次の課題は魔道プレートを普及させて、お金を稼ぐ事。

 教団に支払ったレドとの婚約破棄手続きの違約金を立て替えて下さった陛下に、そのお金を返して……。

 後はマリゴルドお母様が代理当主となった伯爵家に、援助をする資金も必要だからね。


 魔道プレートの試験運用も無事に終わり、既に大量注文の入った貴族街から順に施工が始まっている。

 貴族街なら下水道も整っていたから、まずはそこから。

 それ以外のエリアは老朽化している所もあるから、そこの修理を先にしなければならないそうだ。

 以前手紙を送ったルーシア商会のエベルさんのツテを頼って、腕の良い職人さんに協力してもらえたのもあり、当初の予定よりも早く本格的に商売を進められている。

 来月にはプレートと専用インクの売り上げの一部が入るから、私の計画も順調に進みそうで嬉しい限りだった。


 すると、ジュリウス陛下が足早にこちらへやって来た。


「おい、また俺を抜きにして休憩中か!?」

「あ、ジュリくんお疲れ様です〜」

「でも陛下を待ってたら、せっかくフェルが淹れてくれたお茶が冷めちゃうじゃないですか」

「これが皇帝に対する態度なんだから爆笑モンだよなあ」

「お前らなぁ……!」


 額を抑えながら、陛下が私の隣の椅子に腰を下ろす。

 すかさずフェルが淹れたての紅茶のカップを差し出した。

 そこで私は、ふと思い付きでクッキーに手を伸ばしてみた。


「陛下、このクッキー美味しいですよ? はい、あーんして下さい」

「んんっ……! そ、そういう不意打ちは、心臓に悪い……!!」

「……食べてくれないんですか?」


 ちょっと悲しそうな声で言ってみると、陛下は照れながらも素直に私の手からクッキーを食べてくれる。

 ……彼のこういう所が歳上なのに可愛くて、ついついちょっかい出したくなっちゃうんだよね!


「美味しいですか?」

「美味しい……が、一つ不満がある」

「不満……?」


 心当たりが無くて首を傾げていると、陛下が口を引き結びながら、めちゃくちゃ視線で訴え掛けてくる。

 ……あ、もしかして。


「……“ジュリウスさん”、もう一枚食べます? はい、あーん」

「あー……」


 私の予想は的中していたらしく、またクッキーを食べてくれる彼にニヤニヤしてしまう。本当に可愛い人だわ。

 あの舞踏会の後から、彼に『陛下呼びは距離を感じるから寂しい』と言われて、ジュリウスさんと呼ぶように頼まれたのよね。

 本当は呼び捨てにしてほしいそうなのだけれど、実は私も流石に恥ずかしかったので、今のところはさん付けで妥協してもらっていたりするのだ。


「あらま、まーたやってるよこのバカップル」

「ロミア様と陛下が幸せなら、それで良いのではありませんか?」

「……ま、それもそうかぁ」


 そんな双子のやり取りに苦笑しつつ、今度は陛下がクッキーを摘んで「ろ、ロミアも、あーん……してくれ」と、頬を染めて遠慮がちに差し出して。

 

 その幸せの味を噛み締めながら、私はこれからも愛する人が治める、この素敵な冬幻郷で過ごしていきたいと思った。




 【第一部 完】

広告下↓↓の☆☆☆☆☆のところから、 1〜5段階で評価出来ます。

このお話が面白かったら、ブックマークやリアクションでの応援よろしくお願い致します!


第二部からの連載再開については、活動報告とTwitter(新X)でご報告します。

もしかしたら番外編とか挟むかもしれないです。

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