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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
30章

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1138 「愛形」

 片付けた後の事をぼんやりと考えるがどうにも形にならない。

 やる事がなくなった訳ではない。 単に時間を潰したいだけならオラトリアムに居るだけでいくらでもやる事は作れるだろう。


 問題は最終的な目的が存在しないのでどこかで必ず飽きが来る事だ。

 俺があちこちを旅している理由はあくまで「俺の生きる目的を探す」事にある。

 この世界で最大の勢力であるグノーシスを滅ぼしたが結局なにも感じなかった。 精々、手こずった程度の感想だ。


 存在している間は鬱陶しかったが消えてしまった今は興味が消え失せ、今となってはただの過去でしかない。

 そこでふと思い出した事があった。 以前に殺した男の言葉だ。

 ウルスラグナの前国王だったその男は退屈な人生は渇きを齎すと俺に言った。

 今、思ってみるとなるほどと納得できる話だ。 恐らく――いや、間違いなくこのまま行くと俺は詰む(・・・・)


 やる事がなくなれば俺は植物のように無気力となるだろう。 実質、それは死ぬ事に等しい。

 どうにかしたいと思っているが自分の事である以上、理解できてしまうのだ。

 今はタウミエルの撃破という大きな目的があるので戦力の拡充の名目でこの場に留まっており、何をするにもモチベーションを維持する事ができている。


 俺にとって物事に対するやる気は非常に重要なものだ。

 行動に直結しているので、ある意味では俺自身の命よりも重い。 それが枯渇すればただそこに朽ち果てるまで存在する置物となる。


 一応ではあるが打開する可能性に当たりは付けてあった。

 こちらもタウミエル撃破と同様にかなりのギャンブルとなるので、ファティマ辺りは露骨に難色を示していたが俺の知った事ではない。 どちらにしても目の前の問題を片付けた後にはなるが。


 勝てるかどうかもギャンブル、その後もギャンブル。 完全に運を天に任せるような事はあまり好んでやりたくはないが、それしか道がないので仕方がない。

 今はタウミエルに負けて死ぬか勝って次のギャンブルに進めるか。 それだけを考えるべきなのかもしれないが、ついつい後の事を考えてしまうのだ。


 別に確実に勝てるとは思っていない。 ――というよりは九割方死ぬ作戦だからな。

 最大限上手く行けば取り巻きは無視できるが、神剣はタウミエルの本体が抱えている可能性が高いので交戦自体はほぼ確実に発生する。 本体だけあって想定される能力は「在りし日の英雄」以上。


 こればかりはグノーシスにも具体的な記録が残っていないので詳細は不明だ。

 過去に撃破した例がある事から倒す事自体は不可能ではないが、非常に困難と言わざるを得ない。

 

 ……まぁ、負けたら負けたでただ死ぬだけだ。


 それはそれで俺にとっては悪くない結末なのかもしれない。

 自殺ができない以上、敵わない相手に挑んで散る事は俺の最期として想定される最も可能性の高い結果だ。 偶に自殺を試みるのだが、心理的に強いブレーキがかかるのでどう頑張っても不可能だった――にもかかわらずタウミエルの所へ行く事に抵抗感が生まれない事は勝算があるからだ。


 思えば遠い所まで来た。 オラトリアムの片隅から始まったこの世界での旅もそろそろ終点か。

 死んで終わるのか新しい何かを始められるのかは俺次第だ。

 

 「……行くか」


 俺は未だに不満そうなサベージに跨ると自分の持ち場へと向かう事にした。

 



 ――愛とは何か?

 生み出された存在である私――ファティマにとってそれは至上とも言える命題でした。

 現在は開戦に向けての準備中で私は王城内に用意した指揮所で静かにその時を待っています。


 空いた時間で私は思考する。

 他者を愛する事は尊い。 それは元々のファティマの根底にある考えで、彼女の場合はその発露の仕方が他と少し違っただけの話でした。


 新たに生まれた私は創造主であるロートフェルト様へ奉仕する事を主として行動しています。

 それは今も昔もこれからも永劫に変わることはないでしょう。 創造物が創造主に逆らう事はあってはならない。 あくまで私達はあのお方の手足なのだから。


 ……でも、それでも私の中には燃えるような大きな感情が存在しています。


 あの方の視線を全て自分だけに向けさせたい。 思考の大部分を私で埋め尽くしたい。

 つまりはロートフェルト様のありとあらゆるものを独占したいといった欲望(・・)です。

 それを自覚したのはあの方が旅立ってから少しの時間が経過した後でした。


 時間が空けばあの方の事ばかり考え、どうすれば喜んでいただけるのか、どうすれば褒めて頂けるのか、そんな事を考えている内に胸にある結論がすとんと落ちて来たのです。

 私はあの方へ恋をしているのだと。 ファティマという存在は愛の何たるかは知っていましたが、こうなって初めて恋というものを理解したのでした。


 それとは別にこの思いは永遠に届かない事も分かってはいます。

 あの方にとって私は手足――精々、指の一本でしかありません。 欠けた所で作り直せばいいだけの替えの利く消耗品。 えぇ、分かっていますとも。

 

 ……ですがその程度の事は理解しています。


 だから、私の最初で最後の恋は冷める事はないでしょう。 この太陽の如き熱を放つこの感情が止まる時は私が死ぬか、あの方が死ぬかのどちらかでしかありえない。

 本音を言えばあの方と戦場で肩を並べて戦えれば良かったのですが、残酷なまでの現実がそれを許してくれません。


 いくら戦闘能力を上げたとしてもあの方の下位互換程度の性能しか発揮できない上、適性面でも私は前線での戦いに向いていない。

 ファティマという個を運用する上での最適解は自陣の最奥での全体指揮。

 どこまで行っても私は戦士にはなれません。 理解はしていますが、やらずにはいられなかったので色々と理由を付けて改造して頂いたりしましたが……。


 あの方は確実に負ける戦いはしない。 それに最も勝算の高い作戦はアレしかない事も分かっています。

 そして仮に勝利した後にどうなるのかも――。

 タウミエルとの決戦に対してあの方にはお伝えしていない策が一つだけあります。


 それを使えば低い勝率を僅かながらも上げる事が出来るでしょう。

 幸いにもサベージがこちらに残っているので実行するに当たっての問題はほぼ解決しています。

 そして何よりサベージ自身がその作戦に乗り気である事もあって問題は私の気持ちだけでした。


 確かに勝てる確率は間違いなく上がる。

 ですが、それはあの方が死ぬ可能性を同様に引き上げるものでした。  

 恐らく私はそれを実行するでしょう。 あの方を危険に晒すと理解しているにもかかわらずです。

 

 その危険はやろうと思えば簡単に回避はできるはず。

 ですが、あの方は間違いなくそれを選ばない。 その結果、命を落とす事になっても。

 

 ……結局の所、私は信じる事しかできないのでしょうね。


 どうか、あの方が無事に戻ってきますように。 形のない何かに縋るのは好きではありませんが、今の私には祈る事しかできそうにありません。

 それに歯がゆさを感じながらも私は祈り続けるでしょう。 戦いが始まり、そんな余裕がなくなるまで。

誤字報告いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この作品にもヒロインは存在していたんですね! (白目 [一言] 主人公の為に祈りを捧げるファティマさん。 久しぶりに嫁というか妻というか、女性らしい雰囲気を醸し出していますね。 百足に…
[一言] ローやファティマ視点も久しぶりな気がしますが、この二人は良くも悪くも変わりませんね。 なんとなくですが、ゼロから創造されたサベージやエンティカとは違って、元の人格をトレースしてるタイプの眷属…
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