1137 「遠見」
三十章開始。 よろしくお願いします。
視点戻ります。
俺はぼんやりと眼下に広がる風景を眺める。
ここはジオセントルザムの南方に配置された山の頂上だ。 見下ろす先は均されて平らになった世界ノ影の出現ポイントなのだが現在は街から出て来た戦力が展開――布陣を始めている。
俺が居る山々も既に要塞化が済んでおり、大砲などの射撃兵器が大量に展開。
これまでに色々と準備を進めて来たのだが、そろそろ時間がなくなったようだ。
辺獄でタウミエルの侵攻を食い止めていたのだが、穴の拡大が抑えきれなくなってきた。
その為、そろそろこちらに出て来るという事で迎え討つ準備を始めていたのだ。
来なければ来るまで戦力強化を行うつもりだったので、来た事に対しては何とも思わない。
あぁ、そろそろかぐらいの感想だった。 タイミングに関してはこちらの布陣が完了した段階で、封印を緩めて出て来させる予定だ。
いつ出て来るか分からんよりはこっちでコントロールした方が何かと都合がいい。
センテゴリフンクスの方にも通達済みなのでこちらが決壊すれば向こうも同時に出て来るだろう。
この戦いは俺が神剣を手に入れるまでの時間稼ぎがメインなので基本的に飛び道具で削る事になる。
難しい所は俺が突入するタイミングだ。 策は用意しているが、一人で突っ込む事になるのでタイミングはかなり慎重に見極める必要がある。
当初は護衛を付ける予定ではあったのだが、あそこは奥に行けば行く程に敵が強くなるので誰を連れて行ってもすぐに死ぬ事もあって無駄死にさせるぐらいなら陽動で使い潰した方が効率的だ。
俺がやられれば元も子もなくなるのだが、タウミエルとその眷属は基本的に大本が一つでそこから分離した存在が個々に襲って来るらしい。 その為、雑魚を削れば削る程、本体の勢いを殺せるのだ。
つまりは強敵一体潰すより雑魚を十体潰した方が相手に与える損害としては大きい。
加えて連中はいちいち生み出されているらしく精製される手間をかけさせる意味でも雑魚を削る意味合いは大きい。 俺が単騎で突っ込む理由もこれだな。
大人数で行くよりは少数で速攻をかける方がいいのだ。 内部に関しては情報が少ないが、同様に湧いて来るまでに間があるらしく最大限に上手く行けば無傷で神剣に辿り着く事も不可能ではない――らしい。
つまり俺の出番は雑魚がある程度減って生産ペースを上回る数を撃破し、最低限の拮抗状態を作った瞬間となる。 そうなれば雑魚の生産にリソースが割かれ奥が手薄になるとの事。
ただ、早すぎると侵入を感知されて内部で敵が生産され、遅すぎると穴の拡大により生産ペースが抑えきれない程に上がる。
要は注意をある程度向けさせたところでの侵入となる訳だ。
その辺の見極めはファティマがやるので俺が考える事じゃない。 何やら俺の知らない所で色々と企んでいるようだが、邪魔になる事は一切しないと言い切ったので好きにさせている。
研究所も決戦の日時が決まった事でエグリゴリシリーズや各種兵器生産を停止。
現在は損傷した機体の受け入れ準備などのバックアップ体勢を整えている。
今回は過去最大の戦いとなるので出し惜しみは一切しない。 使える人員は全て導入する総力戦だ。
レブナント、改造種、魔導外骨格、オラトリアムが今までに得た全てを投じて臨む決戦となる。
少なくともこれで負けたら諦めるしかない万全の布陣だ。
背後で小さく唸り声が聞こえる。 振り返るとサベージがじっとこちらを見つめていた。
「何だ? まだ、納得していないのか?」
サベージは答えずに不満げな唸り声をあげる。 今回はサベージも置いて行くので本当に俺一人だ。
連れて行っても良いが移動手段の関係で余計な荷物は積みたくない。 それに無理に連れて行ってもすぐに死ぬのが目に見えているのではっきり言って邪魔だった。 かなり手を入れた事もあってそんな事で消費するぐらいならファティマの護衛でもやらせた方がマシだ。
俺が行った後は好きにしろと言ってあるので適当に戦うだろう。
布陣は万全でアイオーン教団という囮も用意した。 連中は魔力に群がる習性があるのでとにかく派手にやればそこに寄って来る。 ここだけでなく穴が開いているセンテゴリフンクスの方にも聖剣がある以上、確実に分散するのでそれが突入の成功率を引き上げるらしい。
わざわざ聖剣を四本もアイオーンに持たせたままにしているのもそれが理由だ。
聖女の二本はともかくガリズ・ヨッドだけは回収するべきといった意見は――主に首途から上がっていたが、回収はなしとなった。
こちらにも聖剣が複数ある上、大出力の魔力兵器を大量に運用するので優先的に狙われるが少しでも散ってくれればそれでいい。
簡単に負けられても困るので向こうにもテコ入れを行った。 生き残った世界各国から軍を派遣させ、対タウミエルの連合軍を組織。 接点の少なかったリブリアム大陸南部のアタルアーダル、ポジドミット大陸南部から中央部のバフマナフ、アルドベヘシュト辺りはグノーシスの影響力が強かった事もあって難色を示したが、首途の新型エグリゴリシリーズの実戦演習を行った結果、数日程で素直になったそうだ。
お陰で数十万規模の軍勢をかき集める事に成功。 時間稼ぎぐらいなら問題なくできるだろう。
視線を遠くへ向ける。 抜けるような青さの空が広がっていた。
……最後の戦い、か。
負けるつもりはこれっぽっちもないので考えるのは勝った後の事だ。
この戦いが終われば俺は何をすればいいのだろうか。
旅を続ければ色々と見えて来るものがあるのかとも思ったが、この世界は粗方回ってしまったので見るべきものが大して残っていないのだ。
オラトリアムはこのクロノカイロスを手に入れ盤石とも言える地位を確立した。
何故か俺を神と崇める怪しい宗教を始めていたのは何の冗談かとも思ったが、士気を上げたり結束を強化するのに非常に有効だと言われれば特に異論を挟む理由もないので好きにすればいいと放置している。
……まぁ、すれ違う連中に「おぉ、神よ」とか言われるのは少し鬱陶しいが。
見つかるまでいつまでも旅を続ければいいと考えていたが、その欲求もやや薄くなってきていた。
教皇の知識と記憶を得た事でこの世界で知らない事の方が少なくなってしまった事もあって、まだ見ていないリブリアム大陸南部や、ポジドミット大陸を見て回ろうといった気持ちがあまり湧いてこないのだ。
誤字報告いつもありがとうございます。




