1107 「海沈」
ちょっと早めに。
続き。
旧クロノカイロスはその名をオラトリアムと改め、大陸全てがその領地となった。
同時に各地に存在するであろう残党の心を折る為にグノーシスの壊滅を大々的に公表。
聖騎士達は唐突に身の振り方を考える事となった。
早々に信仰を捨てて新しい職を探す者、受け入れられずに絶望する者と様々だが、一部の者達は信仰を捨てる事も出来ず、絶望する事もしなかったのだ。
そんな者達の取った行動とは何か? それは反撃だった。
かき集めた戦力を大量の船に乗せ、教皇とクロノカイロス、そして砕かれた信仰を取り戻す為に彼等は最大の戦いに赴く。 船に揺られながら彼等は使命感に燃えていたが、その表情が絶望と後悔に彩られるまでそう時間はかからなかった。
――こんな所に来なければよかった。
次々と船が沈没し、仲間達が海へと引き摺り込まれて行く。 海中は無数の触手を持った異形の魔物の巣窟で、満足に動きを取れない彼等は碌な抵抗も出来ないまま次々と喰い殺されて行く。
咀嚼された彼等の肉体から溢れた血液が海中を真っ赤に染め上げる。
――応戦、応戦しろ!
――クソッ、クソッ! どこに攻撃すればいいんだ!?
あちこちで悲鳴が上がり、口々に聖騎士達は様々な事を叫ぶ。 落ちそうになった者に手を貸して引っ張り上げようとしていたが、その足に触手が巻き付いているのを見て慌てて蹴り落とすといった光景が散見され、唐突に始まったこの戦いと呼べるのかすら怪しい出来事は半日も経たない内に終わりを告げようとしていた。
そして、その光景をぼんやりと見つめている者達がいた。
ゴブリンや改造種で構成された者達で、背の高い物見櫓の上からグノーシスの残党が海の藻屑になっている姿を何をするでもなく眺めていた。
下では後どれぐらいの時間で全滅するのかの賭けをしている始末。 彼等の仕事は見るだけなので、非常に退屈な時間だった。 本来なら苦痛と思うかもしれないが、彼等には支給されたある物があったので退屈は苦にならない。 そろそろ始まる頃だろう。
ゴブリンの一人が貸し出されたそれを起動させる。
すると――
『はい、皆さんこんにちは! オラトリアムラジオ、略してオララジの時間がやってまいりました。メインパーソナリティーは毎度おなじみ瓢箪山 重一郎がシュドラス城放送局からお送りします』
――ラジオから瓢箪山の声が響く。
放送が始まった事で一部の者達が続々とラジオの傍に集まって静かに耳を傾ける。
『そろそろ引っ越しのあれこれも片付いた頃ですかね。 配置換えされた皆さんは新しい仕事には慣れましたか? 俺はやる事あんまり変わらないので、その辺の苦労は良く分かりませ――え? 魔石による映像撮影を利用した番組作り? え? は? いやいやいや、初耳なんですけど。 俺のスケジュール知ってるなら無理って分かるでしょ? 割とカツカツなんですけ――その為の収録? …………はは、ご冗談を――マジっすか? ひっ!? もうその笑顔勘弁してくださいよ! うん、まぁ、取りあえず今のは聞かなかった事にして、そろそろお便りコーナー行ってみましょう!』
ガサゴソといった何かを探る音が響き、瓢箪山が紙を開く音が響く。
『えーと、ラジオネーム『教皇』さ……ん? いや、マジかよ。 このタイミングでお便り送って来るって強すぎない? ま、まぁいいか。 えーっと『ここに送ると文を読み上げて自分の主張を大々的に広める事が出来ると聞いて送ってみたのじゃ! グノーシスとかいう滅んで当然の邪教は消えてなくなったので、この世界を統一した唯一神ロートフェルト様を崇めるロートフェルト教を皆で崇めるのじゃ! 皆、神を信じよさすれば救われる!』……色んな意味で頭が痛くなってきた。 いや、これ、突っ込み待ちなのか? 俺は何かを試されているの? 大した長さじゃないのに突っ込み所しかな――え? これからこの世界で唯一の宗教になるからお前も入信して神を称えろ? いや、敬ってはいますが流石にそこまで――ひっ!? 分かりました。 入信します! ロートフェルト教サイコー! はい、次のお便り! えーっとラジオネーム『馬紳士』さん。 あ、誰か何となく分かるわこれ。 『いつもお疲れ様です! 最近、個人用にラジオを買ったのでいつも楽しませて貰ってます。 これからも頑張ってください』 うん。 真っ直ぐな応援が心に染みる。 ありがとうわだ――じゃなくて『馬紳士』さん。 俺は今日も頑張りますよー。 さて、お便りコーナーはこれぐらいにしてお天気コーナーに入ります。 えーっと今日の夜までの天気ですが――』
昼から夜にかけての天気が読み上げられ、聞いていた者の一部は小さくメモを取っていた。
『夜までは問題ありませんが、深夜から一雨来そうなので気を付けてください。 さて、天気コーナーが終わった所で本日は何とゲストが来てくれました! やったぜ! ささ、自己紹介をお願いします』
『ど、どうもこんにちは! 梼原 有鹿です! 作物の収穫とかやってます!』
『今日は来てくれてありがとうございますよ先輩!』
『え? いや、先輩? いやいや、わたしそんなのじゃないですので!』
梼原はやや慌てた様子の声を上げる。 瓢箪山からすれば梼原はオラトリアムに入った直後に世話になった相手であり、立派な先輩だった。 はっきりと口には出さないが、今の上司に引き抜かれるまでの間にオラトリアムでの過ごし方を教えてくれた事も深く感謝していた。
『はは、御謙遜を。 ラジオは初めてって事ですが、感想とかありますか?』
『緊張しています!』
『ガチガチっすね。 まぁ、時間までゆるっと喋るだけなんで気楽に構えてください。 折角なんで収穫班の様子とか聞いていいですか? 確か畑って根こそぎ持って来たんですよね?』
『うん。 ジオセントルザムから北に行ったところ――ここからだとちょっと東寄りの所に広がっているけど、設備関係もそのままだからあんまり変わったって感じはないよ。 強いてあげるんだったら気候が変わったのが気になるぐらいかな?』
『あぁ、何かこっち来てからちょっと暑くなった感じっすね』
『後は山脈がなくなったから輸送関係の仕事が殆どなくなった事もだね』
これは山脈がジオセントルザムの南側に移動した事により街から直接物資のやり取りができるので、専門の輸送隊を作って行き来させる事になった事が原因だった。
結果、梼原達臨時の輸送隊の出番がなくなったのだ。 近々、輸送用の設備を作るとの事で、その輸送隊の出番もなくなりそうではあったが。
『じゃあもう仕事は収穫関係一本ですか?』
『うん。 呼ばれたら臨時で人を出したりするけど、基本的にはそれだけだよ』
『やっぱり地形が変わった事がデカい感じですかね。 シュドラス山も周りが平地になったから、出入りがすっげー楽になりましたよ。 畑からも近いから梼原さんも呼べたんでいい事っすね!』
『あはは、呼んでくれてありがとう』
『それとちょっと聞きたかったんですけど、戦闘訓練とか結構やってるんですか? 正直、試合形式とはいえ瞬殺されたの割とショックだったんですけど』
『来た時から結構、色々やるように言われてからずっと訓練はしてたから多少は動けるけど、本格的なのはちょっと……』
『いや、あれだけ動けるんだったらいいセン行けるんじゃないですか? 流石にオラトリアムの上位勢の人に勝てるとは思わないけど、改造種あたりなら充分に戦えると思うんですけど』
『実は相手して貰った事あるけど、イフェアスさんを筆頭に惨敗だったよ……』
『あーイフェアスさん超強いからなぁ……。 おっとそろそろ時間となりましたので、演奏コーナー移ります。 では聞いてください。 曲名は――』
それからしばらくの時間、瓢箪山の演奏が響き渡る。
聴衆は目を閉じて味わうように聞き入り、海の向こうから悲鳴が微かに聞えるがその場にいた全員が無視した。 一通り済んだ後、梼原の拍手が響く。
『やっぱり上手ですね! 来た時より上達してる?』
『どうもっす。 練習には結構時間を割いているので、我ながら多少は上達してるつもりっすよ。 ――さて、そろそろお別れの時間ですね。 どうでしたか?』
『正直、あっという間だったから気が付けば終わってたけど、楽しかった!』
『そりゃよかった。 よかったらまた来てくださいよ』
『時間があったらね』
『はい、という訳で本日はこれで終了となります。 お相手は瓢箪山 重一郎と――』
『梼原 有鹿でした!』
『またねー。 いやー、何か久しぶりに平和に終わったような気がするなぁ……』
ガチャガチャと片付ける音が響き。 放送が終了した。
誤字報告いつもありがとうございます。
長くなるので分割します。 その為、今回で二十八章は終了となります。
キリもいいので三十を最終章とさせていただきます。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
感想返しの方でも少し触れましたが、最終章――三十章で少し苦戦中なので考える時間を頂く意味でも追加でもう一章お付き合い頂ければ幸いです。




