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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第二部 竜姫の報復

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第19章 予想外の歓迎2

 教室の扉が開いた時、私は窓の外から入口へ目を戻した。

 先生の隣に、銀色の長い髪を背中へ流した女の子が立っている。ドレスを着たすらりとした姿は私達とほとんど変わらないけれど、額の左右には短い黒い角があり、髪の間から尖った耳が見えていた。


「グランデル帝国の第一王女、リゼリア・ドラグニス様です。交換留学生として、今日から皆さんと一緒に学びます」


 竜帝国から王女が来ることは、登校前にお兄様から聞いていた。私の実家で暮らすことになったとも。

 アグネスお母様が世話をするのなら、困ることはないだろう。むしろ、何でもしてあげたくなって、王女を困らせていなければいいのだけれど。


「リゼリア・ドラグニスです。リゼリアと呼んでください。こちらの学園に通えるのを、とても楽しみにしていました。皆さん、仲良くしてくださいね!」


 よく通る声だった。笑顔を向けられ、教室のあちこちから挨拶が返る。私も拍手をしながら、案内された机へ歩いてくるリゼリアを迎えた。


 彼女は、まだ制服が届いていないのか、背中がお尻の上まで開いた大胆なドレスを着ていた。


「マチルダ・アシュフォードです。よろしくお願いします、リゼリア」

「あなたがマチルダなのね。ええ、よろしく!」

「リゼリア、それはナイトドレスでしょう? アフターヌーンドレスを持ってないの?」

「え!? うちの国では、いつでもこれが普通なんだけど」


 リゼリアは私の名前を聞くと、立ち止まって顔を見た。すぐに鞄を机へ置き、隣の椅子に座って喋り出す。

 私も王太子の婚約者になったのだから、名前くらいは伝わっているのだろう。それに、滞在先の家は、私の実家だ。何か聞いていてもおかしくない。

 それにしても、アグネスお母様は、彼女のドレスを注意しなかったのだろうか?

 いや、絶対にわざとだ。面白がっているに違いない。


「リゼリア王女、教科書はこちらをお使いください」


 先生が本を渡すと、リゼリアは丁寧に礼を言った。早速表紙を開いて確かめている。明るいだけでなく、勉強にも熱心な子のようだ。


「私もマチルダちゃんって言っていいよね?」

「いいえ、マチルダでお願いします」


 距離の詰め方が変だ。アグネスお母様の影響に違いない。私は、心の中で溜息をついた。


 授業の後、私は次に使う教室へ案内するため、リゼリアと廊下へ出た。分かれ道で、リゼリアが先に足を止める。


「ちゃんと調べてきたのよ。ここを曲がるのね」

「反対です」

「あら、この国の建物は複雑で困るわ。うちの国は、どこも簡単なのに」


 そう答えながら、リゼリアは私の後ろを歩く。

 私は、次の教室に着くと、指をさして教える。リゼリアは、不安そうな顔をする。


「もう一度、案内をお願いしてもいい?」

「もちろんです。何でも言ってくださいね」


 初日から学園全体を覚える必要はない。そう伝えると、リゼリアは少し照れたように礼を言った。

 自分も最初は迷ったと伝える。リゼリアはその話を聞き、今度は私と並んで歩いた。



 翌日の休み時間、私が教科書を閉じると、リゼリアが椅子をこちらへ寄せた。


「マチルダの婚約者の王太子殿下は、学園でも忙しいの?」

「いいえ、お昼には会えます」

「お昼か。その後はどうしてるの? 授業が終わってからよ」

「最近は、執務で忙しいようですよ」


 何をそんなに知りたいのだろう。王太子になったばかりのお兄様が、学園に、ちゃんと通えるのか気になるのかもしれない。


「今は王宮でのお仕事も増えましたから、その日によります。勉強の時間までなくなってしまわないか、心配なのですけれど」

「それでも授業についていけるのね」

「ええ。お兄様なら、私が心配するまでもありませんでした」

「簡単ないきさつは噂で聞いたけど、婚約者をいつまでもお兄様と呼ぶのは、おかしくないかしら?」


 急に力のこもった口調で言われた。私は瞬きをしたが、すぐに隣の机から別の女の子が話しかけた。


「リゼリア王女は、帝国ではどんな勉強をなさっていたのですか?」

「魔法の勉強よ。こちらと同じようなことも習ったわ。さっきの問題だって、答えは分かっていたの」

「ええ、きちんと答えていましたね」


 私が言うと、リゼリアは満足そうに頷いた。それから、授業の最初の問いを、解説し始める。

 彼女の知識は、私達より数段上のようだ。


「次は、もっと難しい問題がほしいわね」


 休み時間が終わるまで、お兄様の話へは戻らなかった。


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