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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第二部 竜姫の報復

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第19章 予想外の歓迎1

 アーサーは王宮の執務室で、リチャードが差し出した受け入れ案に目を通した。

 王太子になってから、誰もがアーサーを頼りにした。もはや、彼は王国の実権を握っていると言っても過言ではない。


「留学中の住まいは、まだ決まっていないのか」

「王宮で迎え、厳重な監視の上で軟禁するのが適当と思うが、君の意見を聞いておきたくてね。彼女は兄を、例の戦役で失っている。警戒が必要だ」


 宰相のリチャードは、向かいの椅子に腰を下ろした。アーサーは紙を机へ置き、窓際で待っていたヒューとアグネスを呼んだ。


「二人には、リゼリアを自宅で預かり、その動向を監視するよう命じる」


 ヒューとアグネスは、姿勢を正してアーサーの言葉を聞いていた。二人とも諜報活動のプロだ。特にアグネスは、人から話を聞き出すことに長けている。

 エドワードは既に帝国へ送られている。今度は、その交換相手であるグランデル帝国第一王女リゼリア・ドラグニスを迎える番だった。彼女の真意を知るには、ヒューとアグネスの夫妻以上の適任はいない。


「行動の制限は、どの程度までなさいますか」

「魔法学園への通学が希望だそうだ。自由にさせよう。ただ、誰と会い、外で何をしているかは把握しておけ。不審な動きがあれば、俺に報告するように」

「承知いたしました」


 ヒューが答え、アグネスも頷いた。アーサーは二人を見て続けた。


「王女として丁重に扱え。監視していると気づかせるな」

「かしこまりました。家での接し方は、私にお任せいただけますか」


 アグネスが尋ねた。アーサーは、その意図を確かめた。


「どうするつもりだ」

「まずは、安心させ、警戒を解くのが大事かと。食事の時にでも、その日にあったことを自分から話してくれるようになれば監視も楽になります」


 人質として来る王女が警戒するのは当然だ。それでも、親しげに迎えられ、何かと世話を焼かれれば、無下にもできないだろう。叔母が人との距離を縮める巧みさは、アーサーもよく知っていた。


「任せる。ただし、親しくなっても監視を緩めるな」

「心得ております」


 アグネスは真面目な顔で答えた。その返事を聞いてから、アーサーはリゼリアを迎える準備に取りかかるよう命じた。

 夫妻はそろって一礼した。



 エルデン王国に着いたリゼリアは、案内された屋敷の玄関で、出迎えの夫婦と向かい合った。

 ここが、留学中の住まいになるという。一応貴族の家らしいが、王女を迎えるには、あまりに小さい屋敷だ。ここで軟禁されるのかと思うと気が滅入った。


「ヒュー・アシュフォードです。子爵位をいただいております。滞在中は、私達がお世話をいたします」

「妻のアグネスです。よく来てくれたわね。疲れたでしょ。ささ、中に入って」


 栗色の髪を結い上げた夫人が、親しげに微笑んだ。

 アシュフォード。その姓を聞くだけで、リゼリアは警戒せずにはいられなかった。アーサーが育った家と同じ姓だ。迎えに出てきたからといって、安心できる相手ではない。


「リゼリア・ドラグニスです。滞在中はお世話になります」


 礼をすると、アグネスがすぐに近づいてきた。


「リゼリアちゃんでいいわね」

「……ちゃん、ですか?」

「ええ。私のことも、堅苦しく呼ばなくていいのよ。アグネス叔母さんと呼びなさい。何ならアグネスお母様でも」


 よいとも悪いとも答えていないのに、呼び方は決まってしまったらしい。

 リゼリアはヒューを見た。妻をたしなめるどころか、穏やかに頷いている。


「リゼリアちゃん、困ったことがあったら遠慮なく言いなさい」


 二人共、ちゃんづけなのか?

 冷たく迎えられても、王女として堂々としていようと思っていた。名前にちゃんを付けて呼ばれた時、どうするべきかまで想定していなかった。


「お気遣い、ありがとうございます」


 あたふたしながら、どうにか礼を返し、二人に続いて屋敷へ入った。

 案内された部屋には、大きなベッドと書き物用の机があった。窓際の小さなテーブルには花が生けられ、湯も用意されている。部屋の隅には、先に運び込まれた自分の旅行鞄が置かれていた。


「お湯を使って、楽にしてからいらっしゃい。食事はその後にしましょう。今日は私が腕をふるっちゃったんだからね」

「そこまでしていただかなくても……」

「まあ、遠慮しなくていいのに。なんなら、背中を流しましょうか?」

「いいえ、結構です」


 アグネスは着替えが済むまで待つと言って、ヒューと部屋を出ていった。扉は閉まったが、鍵をかける音はしない。

 リゼリアは旅行鞄を開けた。しかし、中を探られた様子はない。

 王女だから馬鹿丁寧にしているだけかもしれない。そう思うことにしたが、浴槽の湯は温かく、乾いたタオルもすぐ取れるところにあった。


 着替えてから食堂へ行くと、アグネスが椅子を勧めた。

 鶏肉のクリームシチュー、白身魚の香草焼き、ほうれん草とチーズのキッシュ。その他にも、テーブルには一人で食べるには多すぎる料理が並び、給仕がいるのにヒューが自分の皿へ魚を取っている。


「どれが好きか分からなくて、いろいろ作っちゃったわ。苦手な物は残していいのよ」

「いえ、好き嫌いは……」


 答えている間に、アグネスがクリームシチューを取り分けてくれた。湯気と一緒に、バターの香りが立ち上る。

 せめて、これ以上子供扱いはされたくない。リゼリアは自分でキッシュを取り、勧められた料理を食べた。


「おいしいです」

「よかった。お代わりも、たーくさんあるからね」

「まだ、こちらをいただいていますので!」


 つい強く返事をしてしまい、慌てて笑顔を作った。

 疑われないためには、もっと明るく振る舞わなければ。アーサーに復讐するまで。この国で、他人に真意を知られてはならない。どんな扱いを受けても愛想よく応じようと決めてきたのに、調子を崩される。

 食事を終える頃には、満腹のリゼリアの前へ、食後の紅茶まで用意されていた。

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