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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第一部 王太子の婚約者

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第17章 最初のダンスは、これからも3

 踊り終えると、お兄様は私と手をつないだまま、ヘンリーのもとへ歩いた。

 まだ涙が残っていて、どんな顔をしているのか自分でも分からない。けれど、お兄様の後ろに隠れようとは思わなかった。


「陛下。ご報告したいことがございます」


 お兄様の声に、近くの方達が会話をやめた。

 ヘンリーは私達のつないだ手を見てから、続きを促した。


「マチルダが、私の求婚を受けてくれました」


 広間がざわめいた。

 私はヘンリーに向かってお辞儀をした。お兄様が言ってくれたからと、黙ったままではいけない。


「私も、お兄様との結婚を望んでおります」

「そうか。二人とも、おめでとう」


 ヘンリーは笑顔で言った。

 私は顔を上げた。叱られなかったことより、自分で望む相手を伝えられたことに、ほっとしていた。


「皆も、二人を祝ってやってほしい」


 再び拍手が起こった。

 今度は私も、その中に立っている。誰かに選ばれた婚約を、言われるまま引き受けるのではない。お兄様と結婚したいと、自分で決めたのだ。


 人々の間から、アグネス母様が近づいてきた。隣にはヒュー父様もいる。


「お母様」

「よかったわね、マチルダ」


 お兄様がつないだ手を離すと、アグネス母様は私を抱きしめた。

 我慢していたことを見抜かれていたようで、私は母のドレスに顔を寄せた。涙で濡らしてしまう前に離れようとすると、もう少しだけ抱いていてくれた。


「自分でお返事できた?」

「はい。私からも、お願いしました」

「そう。それなら、よかった」


 ヒューが私のそばへ来た。


「幸せになりなさい」

「ありがとうございます、ヒューお父様」


 その隣で、アグネスがお兄様に話しかけていた。


「今度は、あなたが決めたのでしょう?」

「はい。俺が望んで、申し込みました」

「ええ。それを聞きたかったの」


 お兄様は私を見た。

 何を前から話していたのか、私は知らない。けれど、今のお返事は嬉しかった。


 セドリックとマリアンヌが来たので、アグネスは私を離した。

 私は育ててくれた二人に向き直った。幼い頃からお兄様と同じ家で暮らしてきたことが、急になくなるわけではない。だからこそ、この二人にはどう言えばよいのか迷った。


「お父様、お母様。私……」

「聞こえていたよ」


 セドリックが答えた。


「二人で決めたのなら、それが一番だ。アーサー、マチルダを頼む」

「はい、父上」


 マリアンヌは私の頬に残る涙を見て、微笑んだ。


「今夜は、嬉しくて泣いているのね」

「はい」


 それだけ答えると、また泣きたくなった。

 婚約を破棄されて帰った夜、この母は何も責めず、温かい紅茶を淹れてくださった。今は、お兄様と並んだ私を喜んでくれている。


 少し遅れてアリス様が来た。私を見て、お祝いより先に笑い出した。


「ほら、踊ってよかったでしょう」

「アリス様……」

「おめでとう、マチルダ。本当に」


 私はアリス様の手を取った。

 何とお礼を言えばよいのだろう。あそこで背中を押してもらわなければ、私はお兄様を見ないふりをしていたかもしれない。


「ありがとうございます。今夜、いらしてくださってよかったです」

「これからも友達でいてよね。忙しくなったから会えないなんて、言わないで」

「もちろんです」


 ジュリアン会長がレオポルド様とともに歩いてきた。


「二人とも、おめでとう。学園でも、きっと皆が驚くよ」

「ありがとうございます、ジュリアン会長」


「いや、誰も驚かないと思う」


 レオポルド様が真面目に言うので、ジュリアン会長まで笑ってしまっていた。

 私は恥ずかしくなり、お兄様を見た。お兄様も照れくさそうだったが、否定はしなかった。


 リチャード公爵が娘であるアリス様の横へ来て、お兄様に祝いを述べた。


「今夜は、私が相手を勧めるまでもなかったな」

「はい。最初から、マチルダを誘うと決めていました」

「よいことだ。二人とも、幸せになりなさい」


 私はアリス様から手を離し、お兄様と一緒に礼を言った。

 ガレス近衛騎士団長も近づいて、お兄様に「おめでとうございます、殿下」と告げた。ヴィクターはその後ろで私達に頷き、ベアトリス学園長とトバイアス先生は、まだ拍手を送ってくれている。

 窓の近くではオズモンド公爵が拍手をし、その隣でマーガレットも手を叩いていた。ドロシーがこちらへ深くお辞儀をするのも見えた。

 誰が何を考えているかまでは分からない。ただ、私達が結婚を望んだことは、もう皆様に伝わっていた。


 入口の方を見ると、クララがこちらを見守っていた。

 私が笑うと、クララも微笑んで礼をした。さっき直してもらったリボンには、もう触れなかった。


 お兄様が私に手を差し出した。

 私は自分から、その隣へ並んだ。マントが腕に触れ、白い手袋の上から指を重ねる。


「お兄様」

「どうした?」

「嬉しいです」


 まだ伝え足りなくて、言った。

 お兄様は私の手を握り、同じように答えてくれた。


「俺もだ」


 この日、私はアーサー・ヴァレンティス王太子殿下の婚約者となった。



第一部 王太子の婚約者 完。

ここまで、お読みいただきありがとうございました。

星で評価いただけると嬉しいです。


「第二部 竜姫の報復」をお楽しみに。第一話は明日アップロード。

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