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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第一部 王太子の婚約者

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第14章 不名誉な交換留学2

 数日後、エドワード王太子はヘンリー国王からの呼び出しを受け、王宮の一室を訪れた。

 扉を開けて入った途端、窓際に立つアーサーが見えた。思わず足を止めると、彼は笑顔で一礼した。


「お待ちしておりました、殿下」


 アーサーとヘンリー国王だけではない。アリスの父である宰相のリチャード・ヨーク、アーサーの父セドリック・アシュフォード男爵、近衛騎士団長ガレス・ヘイルまでいる。

 その隣にいるヴィクター・ハワード侯爵は、元北部方面軍司令官で、レオポルドの父親だ。その息子が自分から離れたことを思い出し、エドワードは挨拶をしかけたまま黙った。

 リチャードの隣には、マーガレットの父親であるオズモンド・ブラウン公爵もいた。エドワードが助けを求めるように見ても、オズモンドは微笑むばかりだった。


 全員が、笑顔でこちらを迎えていた。

 叱責のために呼ばれたのなら分かる。だが、これだけの顔ぶれが揃い、誰一人として険しい顔をしていないことが、かえって気味悪かった。


「来たか、エドワード。素晴らしく栄誉ある計画が決まったぞ」


 ヘンリーが部屋の中央へ来るように促した。エドワードは父の前まで進み、背筋を伸ばした。


「計画、と申しますと」

「お前を竜帝国へ留学させる。その代わり、帝国の第一王女を我が国へ迎えることになった」


 エドワードは、父の顔を見たまま動けなくなった。

 竜帝国。今、確かにそう言った。


「交換留学でございます、殿下」


 リチャードがにこやかに続けた。


「両国の将来を担うお二人が、互いの国で学ばれる。実に喜ばしいことです」

「帝国の第一王女が、こちらへ来るのですか」

「そうだ。お前には王国を代表して行ってもらう」


 ヘンリーは、褒美でも与えるように言った。

 エドワードは何とか返事をしようとしたが、すぐには言葉が出なかった。帝国へ渡るつもりではあった。マーガレットを連れ、この国を見限って、自分の意思で出ていくはずだったのだ。

 父に送り出される留学生になってしまえば、亡命を持ちかけることさえできない。


「いつまで、ですか」

「期間はまだ決めていない」


 父はためらいもせずに答えた。

 エドワードは、近くにいるセドリックを見た。その向こうではガレスが微笑み、ヴィクターも黙って頷いている。最後にアーサーを見ると、彼もやはり笑顔だった。


 エドワードは一瞬で悟った。知られている。

 帝国へ逃げるつもりだったことも、アーサーの秘密を持ち出して自分の身を守ろうとしていたことも。自分だけが計画を隠しているつもりだったが、いつの間にか、ここにいる者達に全て先回りされていたのだ。竜帝国とも、全て話がついているのだろう。


「父上。私は王太子です。いつ戻るとも分からない留学など」

「王太子だからこそだ。帝国も第一王女を寄越すのだぞ」


 王家と帝国が、互いの子供を相手の国に送る。

 学ぶという名目で、勝手に帰ることもできない身になるのだ。これは人質交換だった。しかも自分には、帰国する期日さえ用意されていない。おそらく、このまま一生飼い殺しになる。


「しかし、私には、この国で果たすべき務めが」

「そのお務めを、竜帝国で果たしていただくのです」


 リチャードの口調は変わらなかった。異を唱える者は一人もいない。エドワードは一歩下がりかけ、踏みとどまった。

 アシュフォード家の二人も、近衛騎士団長も、軍務を知る侯爵も、この場で決定を聞かされた様子ではなかった。


 これは、追放だ。

 栄誉などという言葉を付けて、王国から自分を遠ざける。父は息子を守るためにアシュフォード家へ頭を下げたはずではなかったのか。

 オズモンド・ブラウン公爵がいるということは、おそらくマーガレットが口を割ったに違いない。


 『あの女め!!』


 エドワードは、心の中で言ったが、その言葉を伝えることは、もう出来ない。


「エドワード。王国のため、引き受けてくれるな」


 ヘンリーが返事を待っていた。

 断ったところで、父が翻意するとは思えなかった。アーサーの前で亡命のことまで問いただされたら、今度は留学ですら済まないかもしれない。


「……承知、いたしました」


 エドワードは、どうにか答えた。


「うむ。期待している」


 父の満足そうな返答を聞き、エドワードは退出の礼をしようとした。これ以上、彼らの笑顔を見ていたくなかった。

 その時、アーサーが一歩前へ出た。


 突然、全身が重くなった。

 踏ん張ろうとしても耐えられず、エドワードは両膝を絨毯についた。前へ倒れかけて両手をつくと、今度は上体を起こせなくなった。


「な、何をする……!」


 父から聞いた魔法だった。重力を操作し、相手を地面へ押し潰す。周囲の者達は平然と立っているのに、自分だけが床へ押さえつけられていた。

 エドワードは歯を食いしばってアーサーを見上げた。ほんの少し顔を上げるだけで、腕が震える。


「妹への婚約破棄を、これほど丁寧に詫びてくださるとは。光栄です、殿下」


 アーサーは笑顔で言った。

 違う。詫びようとしたのではない。そう叫びたかったのに、重みが増し、エドワードは額を絨毯へ押し付けられた。

 両膝をつき、両手を前に置いて、深々と頭を下げている。彼は、土下座のような格好にさせられていた。


「見事な心がけだ。自ら過ちを認められるとは」


 ヘンリーの声に、エドワードは顔を上げようとした。父なら止めてくれる。国王である父なら、この男に命じられるはずだ。

 だが、聞こえてきたのはヘンリー国王の拍手だった。


「娘のために、ありがとうございます」


 セドリックが礼を言った。リチャードも「まことに立派なお姿です」と褒め、拍手を送っている。

 エドワードは首に力を込め、絨毯からわずかに額を離した。父も、ガレスも、ヴィクターも手を叩いていた。オズモンドも笑顔で拍手を送っている。アーサーまで、目の前で拍手をしている。


 誰もが笑顔だった。しかし、自分を見る目は冷ややかで、助けようとする者は一人もいなかった。


「父上……」


 許しを求める声は、情けないほど震えた。

 もう一度、上から押さえられた。エドワードは両手を突っ張ったが、頭を上げていられず、額を絨毯へ伏せた。

 涙で濡れた頬に、毛足が触れる。まだ拍手は続いていた。


 エドワードは泣きながら、絨毯に額を擦り付けるしかなかった。


2026年09月19日 12時00分 次話アップロード予定。

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― 新着の感想 ―
えっ温い… 母国を親兄弟含めて民ごと滅ぼそうとした奴を人質に出す程度のことでいいの こいつバカだから成功はしないだろうけど行った先でまた母国を攻撃させようとするよ? 自国内で療養名目で幽閉一択じゃね?
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