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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第一部 王太子の婚約者

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第13章 銀獅子賞と、譲れない一曲1

 私はエルデン王立魔法学園の講堂で、お兄様と並んで舞台に立っていた。

 その隣にはレオポルド様、アリス様、ジュリアン会長がいる。私達の前には、学年ごとに席を分けた生徒達がずらりと座っていた。


 演壇には、学園長のベアトリス・ウィクリフが立っていた。銀白色の髪を高く結い上げ、炭灰色の長衣を着ている。銀縁の眼鏡越しに私達五人を一人ずつ確かめてから、客席へ向き直った。


「先日の襲撃で、皆さんはこの講堂へ避難しました。ですが、外で敵を食い止めた者がいなければ、ここも安全ではありませんでした」


 あの日、私達は傭兵達と戦った。講堂へ来るのが、こんな晴れがましい機会になるとは思っていなかった。


「アーサー・アシュフォード、マチルダ・アシュフォード、レオポルド・ハワード、アリス・ヨーク。この四人は自ら迎撃に出て、灰狼傭兵団を撃退しました。そしてジュリアン・ペンブルックは敵の接近をいち早く察知し、知らせました。この通報によって、私達は避難の時間を得たのです」


 ジュリアン会長が礼をした。会長が最初に襲撃を告げた時のことを思い出す。戦うのは苦手だと言っていたけれど、あの時は誰より早く危険を察知していた。


「五人の勇気と行動を称え、エルデン王立魔法学園の銀獅子賞を贈ります。学園と、ここに集う者達を守った功績の証です。誇りを持って受け取ってください」


 学園長が演壇を離れると、教員が脇の台から記念盾を取り上げた。両手に収まる大きさの木の盾に、前脚を高く掲げた獅子の銀細工が付いている。その下の銀板には、学園の名と受賞者の名が刻まれていた。台には同じ形の盾が五人分、並べられている。


「アーサー・アシュフォード。前へ出てください」

「はい」


 お兄様が一歩進み、礼をした。学園長は教員から受け取った記念盾を、お兄様へ差し出した。


「よく学園を守ってくれました」

「ありがとうございます」


 お兄様は両手で盾を受け取り、もう一度礼をした。今日はいつもより少し硬い表情をしている。私は拍手をしながら、お兄様がいただいた銀の獅子を見つめた。


「マチルダ・アシュフォード」


 自分の名を呼ばれ、慌てて拍手をやめた。一歩前へ出て礼をすると、学園長が次の記念盾を差し出してくださった。


「仲間と共に、よく戦いましたね」

「光栄に存じます」


 両手で受け取ると、思ったより重かった。銀板には、確かに私の名がある。私は盾を胸に抱えて、お兄様の隣へ戻った。お兄様と同じ賞をいただいたのだ。早くお父様とお母様にお見せしたかった。


 次に呼ばれたレオポルド様は、記念盾を受け取ると深く一礼した。アリス様は堂々と前へ進み、授与された盾を客席へ見えるように持って、私達の隣へ戻った。

 最後はジュリアン会長だった。


「あなたの通報がなければ、避難は間に合いませんでした。的確な判断でしたね」

「ありがとうございます」


 会長は両手で記念盾を受け取り、礼をした。私達の隣へ戻っても、何度もご自分の名を確かめていた。


 拍手が起きた。前の列から後ろまで、生徒達が私達を見て手を叩いている。

 私も四人と共に頭を下げた。顔を上げると、お兄様がこちらへ微笑んでくださったので、緊張していたことを今更思い出した。


 拍手が収まるのを待って、学園長は演説を続けた。


「貴族は平民より高い魔力を持ちます。この学園で魔法を学ぶ皆さんは、生徒であっても、平民の警備員より強い。その力を持つ貴族には、平民を守る義務があります」


 舞台の端に控える警備員達へ、学園長が目を向けた。


「敵が来た時、自分達より力の弱い警備員に戦いを任せ、守られるのを待っていては、その義務を果たせません。自らの力で平民を守ってこそ、貴族である意味があるのです」


 レオポルド様は姿勢を正したまま、演説を聞いていた。


「今回の五人は、それぞれの力を尽くして襲撃に立ち向かい、自分達と共に、警備員や学園で働く平民を守りました。この自治自衛の行動は、貴族としての義務を果たすものです。私は学園長として、その行動を称賛します」


 今度の拍手には、歓声も交じった。アリス様は堂々と客席を見渡し、ジュリアン会長は照れたように微笑んだ。

 お兄様へ拍手を送る生徒達の中には、婚約破棄の夜に私達を遠巻きに眺めていた顔もあった。私は胸を張って、もう一度礼をした。



 式が終わり、私達は舞台の脇から講堂の出口へ向かった。出口へ進む生徒達から、お礼やお祝いの言葉をかけられる。

 お兄様も一人ずつ丁寧に答えていたが、人が途切れると講堂の中を振り返った。


「殿下は、今日も来ていないんだな」

「マーガレット様もいらっしゃいませんでしたね」


 王族用の席は、式の間ずっと空いていた。二人とも授業に出ていない。私も知っていたが、顔を合わせずに済むことを、少しありがたいと思っていた。


「襲撃の日から休んで、表彰式にも出ない。二人ともというのが気になる」


 お兄様は出口を見た。けれど、そこに殿下が現れることはなかった。


「皆、今夜は空いている?」


 待っていてくださったアリス様が、私達へ声をかけた。


「父がお祝いをしたいと言っているの。うちへ来ない? もちろん、レオポルド先輩とジュリアン会長も」

「公爵家のお招きなら、喜んで伺うよ」


 ジュリアン会長が答え、レオポルド様も頷いた。


「俺も伺おう。父上に礼を伝えてくれ」

「お兄様、私達もよろしいですか」

「ああ。マチルダ、二人で伺おう」

「待っているわ。今日はアーサー君の話ばかりで終わらせないでね」


 アリス様は私の手を取って、嬉しそうに笑う。公爵邸でのお祝い。何を着ていけばよいのか考え始めた。


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