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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第一部 王太子の婚約者

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第12章 国王への直訴2

 エドワードが来た時には、ヘンリーは椅子に座っていた。案内の侍従を下がらせ、息子自身に扉を閉めさせる。そして、情報漏洩防止の結界を作動させる。


「お呼びでしょうか、父上」

「座れ。アシュフォード家のことで話がある」


 エドワードは向かいの椅子に座ったが、家名を聞いただけで不満そうな表情になった。


「またあの兄妹ですか」

「先ほど、アーサー君が父親と共に来た。学園を襲った灰狼傭兵団に、お前が関わっているのではないかとな」

「私が傭兵を? 証拠もなく、そのようなことを申し立てたのですか」

「表向きは証拠はない。だから処分の要求は取り下げた」


 エドワードは椅子の背にもたれた。ヘンリーはその様子を見て、膝の上で拳を握りしめた。今から話すことを、身分の低い者からの言いがかりだと思ったまま聞き流されては困る。


「だが、お前があの兄妹にしてきた非礼まで消えるわけではない。今度また彼らを害すれば、命は保証できないと言われた」

「王太子の命を脅かすなど、不敬にも程が――」

「最後まで聞け」


 ヘンリーは、抗議を続けようとする息子を止めた。


「お前はアーサー君の本当の実力を知らない。今までは国家機密として、お前にも隠していた。何より、お前には気持ちよくマチルダ嬢との婚約を続けてもらいたかったのだ」

「あの男が勅命騎士という特別な身分だという話なら、知っております。昔の戦で功績があったのでしょう」

「二年前のレグナ平原だ」


 エドワードが怪訝そうにした。ヘンリーはゆっくりと息を吐いた。あの戦いを天災として伝え、息子にも真相を明かさないと決めたのは自分だった。


「グランデル帝国の侵攻軍が撤退した理由を、言ってみろ」

「隕石による天災でしょう。流星群が落ちたため、敵が壊滅したと」

「偶然ではない。アーサー君が大規模儀式魔法メテオスウォームによって落下させたのだ。私の命令でな」


 エドワードは何も言わず、ヘンリーを見つめた。


「彼の本来の属性は重力だ。基本六属性以外の系統外魔法で、引力そのものを操る。あの時は宇宙を浮遊する巨大な岩塊を引き寄せ、敵の巨大なドラゴン数体と大半の兵士、補給、本陣を破壊した。約二万の侵攻軍を、十五歳の彼一人が退けたのだ」

「一人で、帝国軍を……」


 グランデルは、人間を遥かに越える魔力を持つ竜人族の国家であり、竜帝国と呼ばれている。その軍を人間一人で退けたと聞かされて、すぐに信じられる話ではなかった。

 だが、ヘンリーには息子が受け入れるまで待つ余裕などなかった。


「敵の位置に正確に落下させた。逃げる暇も与えず、ほとんど壊滅状態。狙う場所も被害の大きさも、彼の自由だ」

「しかし、それほどの力なら、父上の許可がなければ使えないはずです」

「確かに、重力魔法は全て私の許可なしには使わせない。それは私が命じ、彼が守っているというだけだ。私に彼の魔法を封じる力があるわけではない。さらに、彼には、高速起動が可能な重力魔法グラビトンがある。発動の遅い大規模な儀式魔法が無くても、彼を止めるのは困難だ」


 ヘンリーはテーブルに両手を置いた。アーサーの言葉を聞いた時の震えが、まだ完全には止まっていなかった。


「彼には、一人でこの国を滅ぼせるだけの実力がある。その彼から、国の敵になる可能性まで示された。お前を守るために戦えと兵を出しても、止められないのだ」

「ですが、勅命騎士というのは、他にも何人かいると聞いています。その者達を使えば」

「何を言っている。アーサー君の実力は我が国の勅命騎士達の中でも随一だ。ただでは済まない。彼等の戦力が損なわれれば、我が国は竜帝国を始め、敵国にすぐに滅ぼされるだろう」



 エドワードはテーブルに置かれたヘンリーの手を見てから、その顔を見た。


「ですが、アシュフォードは男爵家ではありませんか。なぜ、その家にそこまでの実力者が……」

「男爵家というのは、外からそう見えるようにしているにすぎない。あの家は、王国の諜報活動を担っている。表立って王家のために働くと知られず、国を脅かす動きを探るためだ。アーサー君とマチルダ嬢は、ヒュー・アシュフォード、セドリック・アシュフォードの兄弟が見つけてきた特別な逸材」


 家格を測り違えただけだと思わせてはならない。ヘンリーは息子が聞いているのを確かめ、続けた。


「アーサー君も、単に昔の褒美として役職を与えられたのではない。私だけが命じられる極秘の任務に就き、有事には軍を動かす権限を持つ。男爵令息として学園に通っているが、勅命騎士としては侯爵待遇だ」

「侯爵と、同じ……」

「そうだ。彼を男爵の息子と呼んで侮ることが、どれほど愚かなことか、分かっただろう」



 ヘンリーは向かいの息子を見た。エドワードは椅子に浅く座り直したが、まだ返事をしない。

 そのまま立ち上がろうとしたので、ヘンリーは座っているよう命じた。


「今後、アシュフォード家には決して非礼を働くな。マチルダにも、アーサー君にもだ。お前自身はもちろん、周囲の者を使って害することも許さない」

「父上は、私にあの男を恐れて暮らせとおっしゃるのですか」

「だから隠しておきたかったのだ。お前から害を加えるなと言っている。王太子としての役目を忘れ、何度同じことを繰り返すつもりだ」


 エドワードは答えず、椅子の肘掛けを握り締めた。

 ヘンリーは叱責を重ねかけて、いったん言葉を止めた。先ほどは国を守れないことが恐ろしく、今は目の前の息子を失うことが恐ろしかった。


「これは、お前を生かしておくためにも必要なことだ。次にアーサー君がここへ来た時は、私が頭を下げれば済むとは思うな」


 今度こそ、エドワードが顔を上げた。


「父上が、頭を下げられたのですか」

「私の息子がしてきたことだ。セドリックとアーサー君に詫びた」


 ヘンリーは逃げずに息子を見た。国王が男爵家の父子に頭を下げたと知って、不満に思うだろう。それでも、その事実ごと受け止めさせるしかなかった。


「今話した秘密も、この部屋の外へ持ち出すな。誰にも話してはならない」

「……承知いたしました」


 エドワードは、時間を置いて答えた。ヘンリーはもう一度、アシュフォード家へ手を出さないよう念を押す。息子が頷いたのを確かめてから、退出を許した。

 エドワードは礼をして立ち上がり、部屋を出ていった。ヘンリーは扉が閉まった後も、その返事を信じてよいのか考え続けた。



 私室へ戻ったエドワードは、扉を閉めるなり、父の言葉を思い返した。

 国王である父が頭を下げた。アーサーと、その父親に。


 侯爵待遇だというなら、初めからそう教えておけばよかったのだ。自分には男爵の息子として扱わせておき、今になって愚かだと叱る。国家機密を知らされなかった自分に、どうしろというのか。


 エドワードは椅子に座り、白地に金縁の制服を見下ろした。学園でこの特別な制服を前にすれば、誰もが礼をする。アーサーも、これまでそうしていた。

 従っているように見せながら、内心では自分を見下していたのではないか。


 灰狼傭兵団も失敗した。ギデオンなら片づけられると思ったが、相手が一軍を退けるほどの男だというなら、当てが外れた理由は分かる。

 だからといって、これからあの男の機嫌をうかがうつもりはなかった。


 エドワードは席を立ち、窓辺へ歩いた。ガラスに映る自分の顔を見て、ようやく怒りを抑えようとした。

 人間の傭兵では歯が立たなかった。だが、人間より遥かに大きな魔力を持つ竜人族ならどうだ。大規模儀式魔法が使えない小規模戦ならば、どんなに強い人間でも勝ち目はない。


 レグナ平原で敗れた竜帝国は、まだ天災だったと信じているはずだ。二万の軍勢を退けたのが、アーサー・アシュフォードだと知れば、放ってはおくまい。


 父が隠していた秘密を、竜帝国へ教えてやればいいのではないか。

 そうすれば今度こそ、あの男を亡き者にできるかもしれない。必ず暗殺に出るはずだ。


 もう、一人の学生の顔色をうかがう国にいるつもりはない。アーサーの秘密を土産に、マーガレットを連れて竜帝国に亡命するのだ。

 竜帝国がアーサーを倒せなくても、もう自分を害することは出来なくなる。

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― 新着の感想 ―
こいつ(バカ王子)を野放しにしてる国王が一番の戦犯で亡国野郎では 可愛い息子かもしれんが幽閉くらいはできるやろ
こんばんは。 このクソ人間はさぁ…(呆れ) 庶子でも良いから、その人を後継ぎにした上で廃嫡した方が良かったですねマジで。もしかしてその庶子すらいないのかな?
え。売国奴になるのか。
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