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婚約破棄されましたが、最強のお兄様がただでは済ませません  作者: 百鬼清風
第一部 王太子の婚約者

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第9章 妹を狙った代償2

 夜会帰りの馬車の中で、ナイジェルは革表紙の手帳を開いていた。


 揺れる車内では文字を書きにくい。膝の上で手帳を押さえ、翌朝になれば不要になる記述を読み返す。次の登校日、林に挟まれた街道、アシュフォード家の馬車。灰狼傭兵団へ渡した情報にぬかりはない。

 襲撃が終われば、このページは処分する。灰狼傭兵団は軍用魔法で二人を殺した後、姿と物音を消して退く。依頼した側へたどり着く証拠は、これで残らない。


 ナイジェルは手帳を閉じ、上着の内側へ戻した。


 レオポルドを失ったのは王太子派にとって痛手だったが、代わりに自分の働きを殿下へ示す機会が生まれた。武術に秀でた男爵令息であろうと、軍用魔法で馬車ごと攻撃されれば抵抗などできない。妹も同じ馬車に乗っている以上、一度で片づく。

 殿下の怒りを、実行できる計画へ変えたのは自分だ。灰狼傭兵団が仕事を終えれば、殿下もその価値を認めざるを得ない。これは、卒業後の出世にも繋がる。


 車輪が深い轍を踏み、馬車が大きく揺れた。


「もう少し静かに走れないのか」

「申し訳ございません。森へ入ってから道が悪くなっております」


 御者の返事に、ナイジェルは舌打ちした。王都からそれほど離れていないのに、街道の整備さえ満足に行われていない。自分が王太子の側近として地位を得れば、このような不便も役人へ命じるだけで改めさせられる。


 窓の外には木々と暗闇しか見えなかった。人家も、行き交う馬車の灯りもない。

 誰にも見られずアーサー達を始末するには、よい場所だ。

 計画中の襲撃を思い浮かべた。自分がその場を見ることはない。殿下へ成功を報告すればよい。それこそが、危険を引き受ける者と、使う者との違いだとほくそ笑む。



 やがて深い森の間を通る道に入った。

 アーサーは黒い青毛の馬を木々の陰に止め、風魔法によって集音し遠くから近づく車輪の音を聞いていた。月は雲に隠れ、街道に人影はない。報告どおりなら、まもなくナイジェルの馬車が来る。


「対象を確認しろ」


 屋敷でマチルダと話す時の柔らかさは、もうアーサーの声にはなかった。実戦に入った彼は必要な命令だけを告げる軍人の話し方になる。


 クララは街道を見据えたまま答えた。


「紋章、車体、御者、全て報告と一致します。車内はナイジェル・フェアファクスです」


 馬車が近づいてくる。アーサーは光魔法で視力を増幅し、自分でも確認する。扉にはフェアファクス伯爵家の紋章があり、御者台には一人の男が座っていた。

 彼は黒い青毛の馬から下り、ソードウルフを鞘から抜いた。白銀の刀身が、わずかな月明かりを受ける。


 ナイジェルは王太子の命令を傭兵団へつなぎ、マチルダを殺す日時と場所を決めた。事情を聞く必要はない。計画を立案、実行できる立場にいる者を残せば、次は違う手段を選ぶだけだ。


「クララ、退避」

「了解」


 赤い鎧が鹿毛の馬を下げた。アーサーはソードウルフの切っ先を街道へ向け、剣に保存された土の術式を起動する。


「《グランド・デトネーション》」



 馬車が盆地の底へ入った瞬間、地面の下で魔力が爆発した。床が跳ね上がり、ナイジェルは座席から投げ出される。

 地中で土の魔力を爆発させる、この威力。自分が灰狼傭兵団へ使わせるはずだった《グランド・デトネーション》に間違いない。


『なぜ、今ここで自分が狙われる』


 灰狼傭兵団が裏切ったのか。だが、依頼を果たす前に手配した者を殺す理由などない。まさか、計画が漏れて――。

 ナイジェルが考え終える前に、馬車は横転した。砕けた車体と土砂が重なり、その意識も途切れた。



 アーサーは土煙が薄れるのを待った。街道には大きな穴が残り、馬と馬車は原形を失っている。車輪の破片が穴の縁に刺さり、フェアファクス伯爵家の紋章も形を保ってはいない。


 彼は剣に付いた土を一度払い、鞘へ戻した。


「全員の死亡を確認後、適切に処理しろ」

「確認後、処理します」

「夜明けまでに戻れ」

「了解」


 クララは鹿毛の馬から下り、崩れた街道へ向かう。アーサーは振り返らず黒い青毛の馬へ乗り、王都への道を戻った。

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― 新着の感想 ―
罪無き馭者とお馬さんは可哀想
こんにちは。 殺ると決めたら一切の躊躇も慈悲も無し…お兄さま怖過ぎィ!?
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