幕間:静かなる語らい
(あすかに促され、対談者たちはまだ少し興奮した面持ちで、スタジオの隣接する別室へと移動する。そこは「失われた星々のサロン」と呼ばれる空間。壁や天井には、まるで夜空から星々をすくい取ってきたかのように、無数の淡い光が瞬き、室内を優しく照らしている。部屋の中央には滑らかな黒曜石のような丸いテーブルがあり、座り心地の良さそうな椅子が4つ置かれている)
あすか:「さあ皆さん、こちらへどうぞ。『失われた星々のサロン』です。ここでは、しばし激論を忘れ、ごゆっくりおくつろぎください」
(4人がそれぞれの椅子に腰を下ろすと、目の前のテーブルの上に、ふわりと光が集まり、それぞれの好みを反映した飲み物が音もなく現れる。次郎長の前には湯気の立つ緑茶、忠治の前にはなみなみと注がれた冷や酒のグラス、カポネの前には琥珀色の液体が入ったロックグラスと氷、そして秀吉の前には美しい織部焼の茶碗に入った抹茶)
清水次郎長:「(感心したように湯呑みを取り上げ)ほう、こりゃ驚いた。気が利いてるじゃねえか。…ふぅ。(一口すすり)いやはや、さっきはちぃと熱くなりすぎたな。お互い、譲れねえモンがあるってことだ」
国定忠治:「(ぐいっと酒をあおり)へっ、俺ぁまだ言い足りねえくらいだぜ。だが…(ちらりとカポネを見て)異国の親分さんも、口だけじゃねえようだな。あの迫力は、修羅場をくぐってきた奴のモンだ」
アル・カポネ:「(ロックグラスを軽く回し、氷の音を立てながら)フン、当然だ。アンタらこそ、見かけによらずタフなようだ。特に…(次郎長を見て)アンタの言う『仁義』ってやつは、俺には理解できねえが、それを貫こうとする意地は感じるぜ」
豊臣秀吉:「(抹茶を一口味わい、満足そうに頷き)うむ、良き茶じゃ。…カカカ!実によい議論であったわ!価値観がぶつかり合うからこそ、互いの輪郭がはっきりするというものよ。(カポネを見て)そなたの言う『ビジネス』も、(次郎長と忠治を見て)お主たちの言う『渡世』や『意地』も、突き詰めれば、己の信じる道で『上』を目指すという点では同じやもしれぬな」
(再びテーブルに光が集まり、今度は軽い軽食が現れる。次郎長の前には香の物、忠治の前には干し柿、カポネの前にはオリーブとチーズ、秀吉の前には小さな干菓子)
清水次郎長:「(香の物をつまみながら)上を目指す、か…。確かに、俺も若い頃は、ただただ強くなりてえ、名を上げたいてえって、がむしゃらだったな。食うや食わずで、喧嘩に明け暮れて…。(カポネを見て)異国の親分さんも、苦労した口か?」
アル・カポネ:「(オリーブを口に運び)まあな。俺もブルックリンの貧しい移民の出だ。ガキの頃から、自分の拳と頭脳だけが頼りだった。のし上がるためには、手段を選んでる余裕なんてなかったぜ。その点じゃ、太閤殿とも似てるかもしれねえな」
豊臣秀吉:「(干菓子を優雅につまみ)うむ。わしも百姓の子じゃからのう。信長様に見いだされなければ、今頃どうなっておったか…。じゃが、ただ運が良かっただけではないぞ。常にどうすれば人の役に立てるか、どうすれば上に行けるか、寝る間も惜しんで考え、働いたわ。(忠治を見て)なあ、忠治とやら。そなたのその反骨精神も、見方を変えれば、現状を変えようとする強い意志の表れじゃ。そのエネルギーを別の方向に向けておれば、あるいは…」
国定忠治:「(むっとした顔で)へっ、説教はごめんだぜ、太閤さんよ。俺ぁ俺のやり方でしか生きられねえ。だが…(少し間を置いて)アンタらみてえにデカい組織を動かすってのも、そりゃあ、骨が折れるんだろうなとは思うぜ。俺にゃあ、とても真似できねえ」
清水次郎長:「ああ、そうだとも。子分が増えりゃあ、それだけ心配事も増える。一人一人の暮らしも、一家全体の面子も考えなきゃならねえ。頭ってのは、楽なもんじゃねえよ」
アル・カポネ:「(頷き)ファミリーがデカくなれば、それだけ敵も増える。内部の裏切りにも気を配らなきゃならん。常に疑心暗鬼だ。トップってのは孤独なもんさ」
豊臣秀吉:「(静かに目を閉じ)…孤独、か。天下を取れば、誰もがわしを恐れ、敬う。じゃが、心から腹を割って話せる相手は、数えるほどしかおらぬ。上に立てば立つほど、風当たりは強くなるものじゃ…」
(しばし、4人の間に静かな時間が流れる。激しい議論の後だからこそ、互いの立場や苦労への共感が、言葉少なながらも通い合っているように見える)
あすか:(サロンの入り口から静かに声をかける)「皆さん、話が尽きないところ申し訳ありません。そろそろお時間です。次のラウンドへ参りましょうか」
清水次郎長:「おっと、もうそんな時間か。…さて、もう少し手加減してやるかな、異国の親分さんよ(笑)」
アル・カポネ:「フン、望むところだぜ、次郎長のボス」
(4人は再び立ち上がり、スタジオへと戻っていく。先ほどまでの険しい表情は少し和らぎ、互いに対する理解が少しだけ深まったような雰囲気が漂っている)




