娯楽を見つけるが……
階層が上がっていくほど魔物は弱くなっています。
それもそうですよね。下から上に上がっているのですから。
道中の魔物は既にお金にしか見えません。
討伐して回収。その繰り返しで虚しかった【異次元収納箱】も今では容量の4割近くは埋まっています。
ただ、現在の所持金を考えると、売れる素材はもっと欲しいところ。
とはいえ、容量が大きくなってまだ余裕はありますが、どちらかと言えば、地上に向かう方を優先しなければいけません。
そういうわけで地上に向かうことを優先。そのついでに魔物を討伐して素材を回収しましょう。
さて、【オルフェノク地下大迷宮】を進んでいると思わぬ光景に遭遇しました。
通路の先に広がっていたのは大きな湖です。
最下層にあったものより大きいですね。
通路を出ると少しだけ足場が広がっていましたが、それ以外は水です。他の陸地は今のところないです。
辺りをよく見回してみると天井から自然によって作られた石柱が湖に刺さっているだけ。
しかし、先へ繋がる通路の場所には今立っている場所と同じような足場が広がっていました。五感強化で視覚を強化してやっと見える距離です。
状況を確信したところで私が取れる行動は──
1,浮遊魔術で一気に向こうの足場まで渡る。
2,獄炎魔術で湖全域を蒸発させて湖底を歩く。
3,氷獄魔術で湖全域を凍らせ歩いて渡る。
4,泳ぐ
まあ1が妥当ですよね。
浮遊魔術で空を飛べるのだから使うべきでしょう。
水中にも魔物がいると思いますが、急に飛び出して襲い掛かってこられても魔力障壁自動発動があるので問題ないです。
2と4は論外ですね。
まず2については一応可能です。
獄炎魔術──【獄炎魔弾】という魔術で湖を蒸発させることが出来ます。魔物も一掃することが出来るでしょう。
しかし、炎系統──というよりは爆発に近い魔術は空間を崩壊させる危険があるので使用は極力控えています。
あっ、でも面倒だから天井に魔術を放って地上への直通ルートを作るのも悪くありません。
ダンジョンの壁や天井は堅牢です。生半可の攻撃では傷一つ付きません。
でも私の魔術であれば破壊出来るかもしれません。
出来たとしたらそれこそ浮遊魔術でひとっ飛び。あっという間に地上へ出られます。【オルフェノク地下大迷宮】の崩壊と引き換えに。
三年間の思い出もありますし【オルフェノク地下大迷宮】の上層には他の冒険者が探索に来ているかもしれないので巻き込まれたら確実に死にます。なので止めましょう。
4については──ちょっと事情がありまして……。
ここだけの話、私は泳げません。
底が深ければ沈みます。
必死に手足をバタつかせても沈んでいきます。
私とて苦手なことの一つや二つあるのですよ。
これを機に克服をなんて馬鹿なことは考えません。
水中には魔物がいるかもしれないんですよ。
襲ってこられたら焦ってタルトから獲得した『崩壊魔術』なるものを使ってしまうかもしれません。
字面からして危険な香りがするので屋外で試そうと思っていますが、うっかり使って【オルフェノク地下大迷宮】を〝崩壊〟させるわけにはいかないでしょう?
だから4は2以上に論外なのです。
3に関しては可もなく不可もなし。
デスサイズの時に使った【絶対零度】を湖に向かって使えば全域は凍るでしょう。同時に魔物も凍るので処理出来ます。
ですがツルツルになった地面を歩くのは転んでしまう恐れがありますね。
魔力障壁があるので生命力が削られませんが痛いものは痛いです。
後ろから転んで後頭部を強くぶつけた日には悶絶しますよ。
昔、足を滑らせて岩に後頭部をぶつけた時がありますから経験済みです。その時は既に魔力障壁自動発動を獲得していたので大事に至りませんでしたが。
私って意外にドジなところがあったり?
気のせいでしょう。私がドジな子なわけありませんよ。
しかし、滑る、ですか……。
いえ、とある北の国で底に刃がついた靴を履いて氷の上を滑る遊びがあると聞いたことがあるのです。
確か……アイススケートという遊びでしたか。
実際にやってみようにも場所がなかったですし興味もそこまでありませんでしたが、出来る環境があるならやってみるのもアリです。
この三年間、一切の娯楽が無かったのでたまには遊んでも良いでしょう。
時間の無駄では? 地上を目指すのを優先?
人間張り詰めてばかりではいずれ壊れてしまいます。息抜きも必要なのですよ。
そうと決まれば即実行。
まずは【絶対零度】で湖全域を凍らせます。
一瞬で凍りましたが凹凸はありますね。これでは引っ掛かって十分に滑れません。
適当に暴風魔術でカットしましょう。
杖を薙ぎ払い、隆起している部分を切り平面へ。切られた部分は暴風魔術で粉々にしておきます。
あとはいろいろ調整して。
さて、これで場所が完成しました。
試しに触ってみると、いい感じにツルツルです。これは言うまでもなく滑るでしょう。
では、早速アイススケートというのを遊んでみましょうか。
この時の私は目先のことだけを見て重要なことを見落としていました。
それに気付くのは5秒ほど後の事。
私は氷の上に一歩踏み出します。
「キュイ!?」
急にタルトが驚くような声をあげたので何事か振り返ろうとしましたが視界に入ったのはタルトではなく部屋の天井。そして頭への響く激しい鈍痛。
「……くぅぅぅぅっ…」
私は後頭部を両手で押さえて地面をバタバタと転がります。
私としたことが普通の靴で氷の上に立ってしまいました。
おそらくアイススケートは靴底に付いている刃が重要なのでしょう。無知ゆえに犯した失敗。滑って転ぶのも納得です。
後頭部が当たった場所は地面と氷の境界線。
しかもこういう時に限って綺麗に段差にぶつけます。
正直に言わずとも滅茶苦茶痛いです。
私ってやはりドジなところがあるのでしょうか……。





