異界のユニークスキル
分割も考えましたが、一話で締めたかったのでいつもより少し長いです。ご了承ください。
それは一瞬の出来事。
クラウスとシスティーナの体は硬直していた。いや、硬直していると表現してしまうほどエルトリアは速かったと言える。
気付いたときにはエルトリアはその場から姿を消していた。
まるで神速。僅か一秒にも満たない時間だ。
互いに相手の間合いに入るには余裕があるほど距離が開いていた。だがそれを最初からなかったと言わんばかりにエルトリアはシスティーナの懐へと潜り込む。
彼女の姿を目視し、状況を理解する時間を二人には与えられなかった。
エルトリアはシスティーナの胴体を躊躇なく左下から右上に向けて斬り上げる。システィーナの胴体は"赤晶・血染桜"の血に濡れたような赤い刀身によって綺麗に斬られた。
そこでやっと二人は硬直から解放された。
クラウスは妹が直刀によって両断されたこと、そして今までとは確実に違うエルトリアに驚愕していた。システィーナは自分の体が鈍い音を立てて地面に落ち、初めて自分が斬られたと理解する。
『システィーナ!!』
妹に向かってそう叫ぶクラウスだったが、既に彼の顔面には赤い刀身が迫っていた。
確実に命を狙いに来てる一撃。それをクラウスは身を後ろへ反らし紙一重で回避する。そしてそのままシスティーナの側へは行かず――いや、エルトリアが前にいる以上は近づくことは出来ないと言った方が正しい。クラウスは距離を取るために一度後退した。
「駄目……です……。主に伝えなければ……。あの女は普通じゃ……」
「エルちゃんなら大丈夫。かなりブチ切れてるけど、ああ見えて冷静だから。ロザリーちゃんもそれは知ってるでしょう?」
重症のロザリーは無理にでも体を起こし、彼女だけが知っているシスティーナの本当の恐ろしさをエルトリアへ伝えようとしたがアスモデウスはそれを止めさせた。
そう。エルトリアは知らない。システィーナには首を斬っても死なず、ロザリーをあそこまで追い込んだ奥の手があることを。
だがそれはシスティーナの胴体を斬ったエルトリア本人も何かあると薄々感じていた。
「まず一人──と言いたいところじゃが、そう上手くはいかないのじゃろ?」
エルトリアは横目でシスティーナを見た。
普通であれば胴体を両断されて生きているはずはない。たとえ生きていたとしても数分足らずで死に至る。
だが、例外も存在する。例えば"不死"など。それならば死を免れる可能性は大いにある。
斬ったはずのシスティーナに抱く違和感。それはロザリーがシスティーナと交戦した時と同じものだ。
手応えはあったものの殺害した感じではない。何となくだが長年の経験がエルトリアにそう感じさせる。
何よりクラウスに焦りを感じない。システィーナが殺されたのであれば取り乱し、発狂し、激怒し、その憎悪をぶつけるが如く迫ってくるだろう。
しかし現状それが見られない。ということはシスティーナは死んでおらず、まだ何かあるという結論に至る。
『ああ、そうさ……。俺たちにはアンタを殺す力がある。アンタら『勇者』や『魔王』を殺すための力だ。雑魚相手に使うなと言ったがシスティーナはアンタの連れに使ったみたいだけどな』
「それは何とも複雑な気持ちじゃなぁ……。妾が育てたロザリーを雑魚呼ばわりされて怒ればいいのか、その力を出さざるを得ないほどロザリーは善戦したのか」
少し考え、やはりロザリーを侮辱されたことが許せなかった。
だがまあ生きているのであれば強くなる機会は沢山ある。ロザリーもこのままでは終わらないだろう。きっと全てが終われば修行をつけてほしいと願うに決まっている。エルトリアもそれはわかっていた。
「で、出さんのか? その力とやらは」
『……相手を殺害するのに一番楽なのは如何に奥の手を出させないか。でもアンタはわざと俺たちに時間を与えている。俺たちは随分と舐められたものだな……。俺たちがその力を使っても問題ないというわけか』
「何をしようと先程言った通り御主らは妾に勝てぬ。であれば御主ら以外の同郷の者も妾の命を獲りに来るじゃろうし、ある程度力量を測っておいた方が賢明だと判断したまで。にしても「舐められた」か。まさか御主の口からそのような言葉が出てくるとはなぁ」
『……何が言いたい』
「御主はこう言ったな。「相手を殺害するのに一番楽なのは如何に奥の手を出させないか」と。ただ「相手を殺害するために最初から本気を出せば楽に済ますことが出来る」とも言える。妾の前に現れた時に本気でかかってきたら可能性はあったかもしれない」
実際にはエルトリアは不死であるため死ぬことはない。それは八百年も生きているエルトリアが既に何度も試している。だからクラウスとシスティーナは不死の存在を殺せる術がない限り絶対に殺すことは出来ない。
ちなみに、今の彼女からは想像も出来ないがエルトリアにだって死んでしまいたいと思う時期があった。それだけ彼女には辛く凄惨な過去がある。故にその過去から解放されようと何度も自害しようとしたが全て無駄に終わった。あの日手に入れてしまったスキル『不死』によって。
今となっては「世界のごく一部しか知らないのに自害しようとしていたなど馬鹿なことをしていたな」と思う。今更くだらないことを思い出した、とエルトリアは思いながらも言葉を続ける。
「すぐに本気を出さなかったのは妾を舐めていたということじゃろ? それでよく御主の口からそのような言葉が出たなと思っただけじゃ。まあ妾もこうして御主らに時間を与えているのだから舐めていると言われても仕方ないか」
『……確かにな。アンタの言う通りだよ。俺たちは心の何処かでアンタを軽視していたんだと思う。この世界の『勇者』や『魔王』なんて簡単に殺せるってな。だから殺してしまう前にアンタの連れを使って遊んだ。結果的にはシスティーナの洗脳も解けてアンタのもとに帰ってしまったけどね』
「あれは本当に愚策じゃったな。ただ、あの場でロザリーを殺していたのならば御主らは一切の抵抗を許されることなく、地獄をその身で体験していたじゃろう。そう考えると御主らはある意味正しい選択をしたのかもしれないな」
『ここからは当初の目的通りアンタの殺害に全力を尽くす。アンタのその余裕がいつ無くなるのか楽しみだよ』
するとエルトリアに向かって何かが横から飛んできた。
大剣だ。それを振るうのは当然システィーナ。エルトリアに斬られた胴体は既に修復されている。
少女が繰り出す一撃とは思えない重さと衝撃だがエルトリアはシスティーナの大剣を表情一つ変えずに"赤晶・血染桜"で受け止めた。
『キャハハッ! 『魔王』さんも簡単に止めちゃうんだ! でもあのお姉さんよりは余裕あるみたいだし、やっぱり『魔王』さんは違うなぁ』
「ロザリーは妾が鍛えたからな。この程度の一撃、簡単に止めてもらわないと困る。それにしても妾の読み通り胴体は元に戻ったか」
『おかげさまでね。『魔王』さんが兄さまと喋ってる間に治したんだ!』
互いの武器が交差する状況でエルトリアはそのまま横へ薙ぎシスティーナを大剣ごと容易く吹き飛ばした。
体勢を崩したシスティーナは吹き飛ばされている途中で片手を地面に着いて何とか着地する。そして、その反動を利用した再びエルトリアへと迫った。
考えがあるのか無策なのか。どちらにせよ、システィーナの攻撃はエルトリアにはあまり効果がないためこの行動はあまり得策ではない。少女の接近に対しエルトリアも迎撃しようと構えを取るが――彼女が相手をしているのはシスティーナだけではない。
背後から迫る殺気。クラウスも自分の剣を片手にエルトリアへ斬りかかろうとしていた。しかし、エルトリアはそんな状況の中でもクラウスの持つ剣に注目した。
見た目は何処にでもあるような片手剣。だが性能は別格だ。"赤晶・血染桜"に勝らずとも優秀な武器である。
だがクラウスがそれを振り下ろした瞬間、エルトリアは避けたが彼の剣の刀身は伸びて斬るというよりかは地面を叩きつけた。
クラウスの剣は蛇腹剣という種類である。扱いに難しい武器なためエルトリアもあまり見たことはなかった。
あわよくば手に取って試してみたいと思ったが今はそんなことを考えている暇ではない。
回避したのも束の間、システィーナの大剣が勢いよく振り下ろされる。
取るに足らない敵とはいえ、やはり二人同時に相手するには面倒だ。それなりに実力もあるため尚更。だがそれはエルトリアも対策している。もうその種は巻き終えているのだから。
エルトリアはシスティーナの一撃を再び躱して距離を取った。クラウスとシスティーナが合流した今、奥の手とやらを見せてくれるのだろうと思いながら。
その予想は的中しており、二人は懐から何かを取り出した。
「あれは……」
それは真っ黒で歪な形をした喇叭だった。
演奏会でもするのだろうか、などと絶対にあり得ないことを考えつつもエルトリアは直刀を構え直す。
『見せてやるよ。これがアンタを殺す力だ』
クラウスとシスティーナは各々の喇叭を吹く。
歪な形をしている割には綺麗な音色を奏でている。だが何故だろう、それは何処となく不気味にも感じ取れる。
この場に尋常ではないほどのエネルギーが集結する。そのエネルギーはクラウスとシスティーナのもとへ宿り二人は姿を変えた。
クラウスは髪の色や肌色が全体的に白くなり、背中には結晶のようなもので形成された枝分かれした翼が。システィーナには触手のようなものが幾つも生えており、歪んだ笑顔でエルトリアを見つめていた。
「なるほどのぅ。その"変身"が御主らの奥の手というやつか」
『ああ。俺たちに与えられたユニークスキルだ』
異界からの使者が持つユニークスキル。
それは喇叭に宿る膨大なエネルギーと大気中に存在するエネルギーをスキル所有者の体内へと流し、圧倒的な力を誇る破壊の化身と化すものである。強力故に負担は大きく長時間の使用は厳しいが『勇者』や『魔王』を殺すには十分な力だ。
クラウスはユニークスキル『第二の喇叭』を。システィーナはユニークスキル『第三の喇叭』を用いて一時的だがエルトリアを超える力を手に入れた。
『アンタは確かに強いよ。でも今の俺たちはアンタ以上に強い。覚悟しておいた方がいいよ。問答無用で殺すけどね』
「カッカッカ! 力を得て威勢がよくなったか。まだまだ子供じゃなぁ。せっかくじゃ、御主らに教えてやろう。確かに御主らは先程とは比べ物にならないほどのエネルギーを体内に有しておる。だがそれが何じゃ? 妾からすれば"呆気なく終わってしまう戦い"から"少しは楽しめて終わってしまう戦い"へと変わったに過ぎない。御主らの変身は所詮その程度なんじゃよ」
それに、エルトリアにだって隠している手の内など一つや二つあるに決まっている。しかし現状クラウスとシスティーナが力を得てもそれを使うのは不要だと判断しているためこのままで行くつもりだ。何故ならこれでも十分過ぎるくらい戦えるのだから。
『まあ好きなだけ言っていればいいさ。すぐにその余裕はなくなると思うけどね』
そう言うとシスティーナが駆ける。
速さは今までよりも格段に上がっている。常人では迫られた瞬間に首を撥ねられているだろう。
だがエルトリアからすればこれは想定内の速さ。あれだけ大口を叩いていて想定の範囲内だというのだから敵ながら呆れてしまう。
強いて言えば手数が多くなったくらいだ。
以前は二本の腕で大剣を振るっていたわけだが、今は変身し背中には触手のようなものが幾つも生えているため手数が多くなっている。
更には触手から放たれる一撃はシスティーナが振るう大剣の威力と等しい。当然のことながらシスティーナ自身が強化されているため大剣での一撃も大幅に威力が向上している。
だが所詮はそれだけ。何も問題はない。
八百年近く生きているエルトリアの直感がそう伝えている。
目にも止まらぬ速さで繰り出されるシスティーナの連撃を一つ一つ丁寧に、且つ迅速に捌いていくエルトリア。異界からやってきた少女の攻撃はこの世界の『魔王』に掠り傷すら与えることはできない。
表情一つ変えず冷静に対処するエルトリアを見て流石のシスティーナもその顔から笑みが消えた。それは余裕が無くなったようにも見て取れる。
「どうした、変身しても大して変わらんぞ」
『……ッ!』
「もういい。御主の相手は飽きた」
エルトリアがそう言い放つとシスティーナの動きが止まった。
『えッ!?』
動きを止めたのは少女の意思ではない。今だって体を動かしエルトリアに無意味な連撃を繰り出そうとしている。だが意思に反して体は動こうとしない。
自分の体なのにまるで自分の体ではないような感覚。
動揺しているシスティーナなど気にせずエルトリアは直刀で少女の心臓を刺す。圧倒的にエルトリアが優位だとしてもこれは命の奪い合い。少女だろうと何だろうと躊躇はしない。
だが、やはり死んではいないようだ。
システィーナの瞳は生きている。体を動かすことは出来ないがまだ戦闘を続けようする意思が見て取れる。
心臓に刺した刃をエルトリアはそのまま斜めに振り切った。
その傷口から血液が噴き出し、臓物がこぼれ、崩れるように地面に伏し最期を迎える。常人であればこうなっているだろう。
しかし実際はシスティーナの傷口からは透明な液体が流れているだけ。それ以外は何もない。ただ、激痛が全身に走っているのか表情を歪ませ額に脂汗を数滴流している。それでも何処となく笑っているようにも見える。
気味が悪いな、と思いつつエルトリアはシスティーナへもう一撃繰り出そうとする。しかしそれは止めて彼女は後退した。
何故追撃しなかったのか。
エルトリアはシスティーナに追撃する前に視線を下へ向けた。
そこにはシスティーナの体から滴って水溜りのようなものが出来ている。
血液ではなく水のような液体。そこに疑問を抱いた。
だがそれは後回しだ。その疑問を解決するよりも後退することを優先した。
その判断は正しく、突然システィーナの体内から漏れて作られた水溜りから剣の先端のように鋭い白い結晶の塊がエルトリアに向かって伸びたが、距離を取ったエルトリアにまでは届かなかった。
(ふむ。ここまでは伸びてこないのか。あの結晶、小娘から出た液体から作られたようじゃが見たところ小僧の背中に生えているものとほぼ同じじゃな。ということはあれは小僧の仕業なわけか。しかしあの結晶は何なのか……)
色々と考察している間にもシスティーナはクラウスに合流した。
まあ合流してしまったのであれば仕方ない。そもそも心臓を穿っても死なないのだからどうしようもない。エルトリアはそう割り切った。
さて、それではどうするか。
クラウスはまだわからないが、システィーナにはあれだけのことをやって死なないのだから自分と同じ不死という線も濃厚になってきた。であればまず殺すべきはクラウスの方か。
しかし、クラウスも不死だったら? その可能性は十分あるかもしれない。とりあえずは確かめてみる他なかった。
『……システィーナ、無暗に突っ走るな』
『ごめんなさい。でもね、兄さま。この力を解放するとね、あの『魔王』さんを殺したい気持ちが抑えられないの』
『わかってる。時間も限られていることだ。二人で一気に行くぞ』
「残念じゃがそれは無理じゃな」
クラウスとシスティーナが動いた時、エルトリアがそう告げた。
その言葉を聞いても立ち止まることなく進むクラウス。そして白い結晶を槍のように形を変えてエルトリアに向けて放った。更に何本も同じ槍が作られ次々と放たれる。
対してエルトリアはそれに恐れることなく突き進んだ。
迫り来る槍の速さは尋常ではない。だがエルトリアはその全てを見切り撃ち落としていく。
そして遂にクラウスの懐へ入り込んだ。
エルトリアはクラウスもまたシスティーナ同様に不死の存在なのかを確かめるために彼の心臓に"赤晶・血染桜"の切先を向かわせた。
しかしクラウスは白い結晶を集結させて盾を作りエルトリアの一撃を防ぐ。
一点に集中させたエルトリアの一撃を防げたのだからこの盾の強度はかなり高い。エルトリアもこれには少し驚いた。何せ本気でクラウスの心臓を穿とうとしていたのだから。
刺突を防がれてしまったがそれならそれでいい。エルトリアは直刀での連撃に切り替えた。
度々入れ替わる二人の攻防だったが徐々にエルトリアが優勢になっていく。
そんな最中、エルトリアは大切なことを忘れているクラウスへ問うた。
「なあ御主、先程はあの小娘と共に攻めるとか言っておったがその小娘はどうした? このままでは小娘が一人で動いた時と何も変わらんぞ」
クラウスはやっと気づいた。
戦闘にシスティーナが参加していないことに。
どうして今まで気づかなかったのか。いや、エルトリアの攻撃を防ぐのに精一杯で気付けなかったのだろう。
たとえ『魔王』を殺せる力を解放したとしても使いこなせる体が完成していなければ意味がない。それが今のクラウスだ。エルトリアが少し本気を出しただけで防戦一方になってしまう。
クラウスはエルトリアの連撃を辛うじて対処しつつシスティーナを見た。
彼の瞳に移ったのは苦しそうに地面に伏す妹の姿。
一目見てすぐにわかった。あの苦しみ方は普通ではない。
『システィーナに何をした……!?』
「殺しても死なない小娘を相手するのは面倒じゃから暫くの間大人しくしてもらってるだけじゃよ。なに、最初こそ殺すつもりじゃったが聞きたいことが沢山あるからのぅ。殺すのは止めてやる。その代わり、これが終わったら異界のことを全て話してもらうぞ」
『……話すと思うのか?』
「御主は話す。あの小娘の命は妾の手の中にあるのじゃから」
『──ッ!?』
「あまり敵に情報を流したくはないが……まあいい。せっかくじゃ、教えてやろう。あの小娘に仕込んだ毒のことを」
エルトリアはシスティーナの苦しむ姿を見て戸惑うクラウスに語る。
「妾が持つこの直刀はちと特殊でな。一言で言えば呪われておる。こいつは数多の命を奪った。その殺された者たちの怨念が全てこの直刀へ封じられておるのじゃ。そして、小娘の体にはこいつの一部が入っておる」
エルトリアはシスティーナの胴体を両断した際に"赤晶・血染桜"の一部を少女の体に仕込んでいた。
仕込んだ量は血一滴ほどしかないが効果は絶大だった。
『誰……!? 止めっ……。システィーナの中から出てって!』
誰かと話をしているかのように独り言を叫ぶシスティーナ。
現在のシスティーナの体内には呪われた赤き宝珠の一部が存在する。
エルトリアを除いて、赤き宝珠の全てを取り込めば忽ち意識を失い体を乗っ取られてしまう。その後は命尽きるまで殺戮を繰り返す化身と化す。
だがそうなった場合、色々と面倒なことになる。何より大切な武器を手放すわけにはいかない。
そこで考えたのが"赤晶・血染桜"の一部を切り離しシスティーナの体内へ潜り込ませること。
実際にやったことはなかったため結果はどうなるかエルトリア自身もわからなかったが、ほんの一部でもこれだけ効果が出るのを知れたのは良かった。
「あの小娘を救いたいのであれば大人しく降参しろ。そうすれば命は助けてやる。当然身柄は拘束するがな」
今も苦しみ悶えるシスティーナ。
エルトリアを殺すことを優先すべきか。それとも妹を救うことを優先すべきか。
クラウスは武器を構えるのを止めた。
そして──
彼は全てを込めた一撃をエルトリアへ放った。
地面から白い大波が生み出されエルトリアを飲み込もうとする。
その大波を一閃するエルトリアだったが、その場にはもうクラウスとシスティーナの姿はなかった。念のため気配を感じ取ってみたが完全に消えていた。
「チッ、逃げられたか……。仕方ない、あの小娘には悪いが──」
エルトリアが持つ"赤晶・血染桜"の本体とシスティーナの体内にある一部は繋がっている。それ故にエルトリアの意思で赤き宝珠の一部を暴走させて命を奪うことも可能だった。
情報源として生かすことも考えた。しかし、脅威となる前にその芽を摘むべきだろうとも考える。そしてシスティーナを殺害することに決めたのだが──
「……?」
どういうわけかシスティーナの体内に潜り込ませた赤き宝珠の一部との繋がりが無くなった。これではシスティーナを殺害することは不可能。
(……もう一方の世界へ逃げられると能力の発動は出来なくなるのか。あの小僧もそれを知っていたから逃げたのか。妾が異界に行けば発動可能になるかもしれんが、異界に行く術がないから無理じゃな。まあいい、妾の油断が招いた結果になってしまったが得られるものはあった)
戦いは終わりエルトリアはロザリーたちのもとへ戻ろうとする。
色々あったがまたダンジョン攻略の続きが出来るだろう。
ロザリーが襲撃に遭ったから『龍神の塔』の攻略がまだ終わっていないはず。まずはそこから終わらせてリリィと合流。もしかしたらリリィも『機神の塔』の攻略が終わっているかもしれない。だったら一緒に攻略した方が早く済む。
そんなことを考えながらもロザリーたちに近付いた。
──しかし、予想だにしない出来事が彼女たちのダンジョン攻略終了の知らせとなるのであった。
裏世界の人間のユニークスキルは『ヨハネの黙示録』に記される『黙示録のラッパ吹き』を題材にしています。
何かいい題材はないか探し、色々候補が上がった中でこちらを選びました。
それと、珍しく明日も更新があります。
時間はいつも通りです。
ちなみに次回で第二章完結となります。
「章タイトルにもある『神々の塔』の攻略は?」などと思われるかもしれませんがその辺につきましては明日話します。
次回更新も楽しみにしていただけると嬉しいです。





