攻略中断(第二章エピローグ)
エルトリアさんとロザリーさんと別れて一週間が経過しました。
私は自分に任された役割をしっかり果たし『機神の塔』の攻略を完了させました。といっても最上階への道はバエルのお陰でかなり省略できましたし、最後のフロアボスだってバエルが倒したので実質バエルが攻略したようなものですが。
そんな頑張ったバエルですが、バルガロギアとの戦いで依り代となる機械の体が壊れてしまって現在は悪魔界へ戻っています。『機神の塔』を攻略してから一日しか経っていないのでまだ戻ってこないと思いますね。まあ気長に待ちましょう。
そういえば、バエルは他の最上級悪魔を三柱連れてくるとか言ってましたね。
いったいどんな方たちなのか。
癖が強かったり面倒な悪魔だったら嫌ですね……。その辺はバエルがしっかりと選んでくれると思うので大丈夫だと思いますが。
仲間が増えたと言えば同じ最上級悪魔のグラですね。
私は『機神の塔』の近くにある宿に泊まっていますが、グラは借りている部屋の邪魔にならないような場所に黙って立っています。
「そんなところに立ってないでこっちに来たらどうですか?」
ポンポンと私が座っているベッドを叩きます。
「いえ、その……バエル様に知られたら大変ですので……」
「別に気にしなくてもいいのに。バエルに何か言われたら後で私が注意しておきますから」
「で、ですが……」
「では主人として命じます。グラシャラボラス、私の隣に座りなさい」
そう言うとグラは歩き出し私の横へ座ります。
命令するのはあまり好きではないですが、こうでもしないと言うことを聞かなかったので今回は仕方なくです。
それからはグラとのおしゃべりが始まります。
最初は私の話を聞いても相槌したりと正直に言うと会話が盛り上がらなかったところもありました。
どうにかして会話を盛り上げようと話題を考え、バエルについての話になるとグラはかなり食いついてきました。
バエルのことはやはりずっと側にいたグラに聞くのが一番です。
結論から言うとバエルは何でも出来る悪魔です。まあそれは何となくわかっていましたけどね。戦闘面も申し分ないし、あの時出してくれた紅茶は美味しかった。思い返すと欲しくなってくるのでここで止めておきます。
「それにしても、今日は嫌な天気ですね……」
外を見ると大粒の雨が窓を強く叩きつけています。
昨日までは快晴だったんですけどね。この天気だと今日は無理に外には出ずに宿にいた方が良さそうかもしれません。
可能であればエルトリアさんやロザリーさんに『機神の塔』を攻略したことを報告したかったのですがこればかりはどうしようも出来ませんね。天気が回復するまでは大人しくしていましょう。
でも、ずっと部屋の中で過ごすのも退屈です。何か娯楽のようなものがあればいいのですが……。
考えてみても面白そうな遊びは思いつきませんし、これは本格的に暇になりそうです。
困ったなと悩んでいると部屋の外からノックする音が聞こえました。
「あっ、私が出てきますね。リリィ様はゆっくりしていてください」
グラが扉を開けるとそこには執事服を着た女性が立っていました。
空色の長髪に薄紫色の瞳。落ち着いた雰囲気できめ細やかな綺麗な肌です。
そして特に目立っているのは頭部の左側にだけ生えている太く大きな角。見たことない種族なのでどんな種族なのかはわかりませんね。
その女性が着ていた執事服は何処となくロザリーさんが着ているものと似ている気がします。いや、少し弄っているようですが同じものですね。ということはエルトリアさんの従者ということになりますよね。
「あの、何か御用ですか?」
「ここの部屋にリリィ・オーランドという方が泊っていると聞き、至急お伝えしたいことがあって訪れたのですが」
「リリィは私ですけど」
どうやら私に用事があるようです。
「申し遅れました。私は"レティス"と申します」
「ご丁寧にどうも。リリィ・オーランドと言います。えっと、レティスさんはもしかしてエルトリアさんの……」
「はい。エルトリア様に仕えている従者です。いつも我が主がお世話になっております」
「そんな! お世話になっているのは私の方ですよ! それで、レティスさんは今日はどういったご用件で?」
「先程も申し上げましたがリリィ様には至急お伝えしたいことがあり、エルトリア様の命でこちらを訪れました。詳しいことはエルトリア様が話してくれます。ですので一先ずは私についてきてもらってもよろしいでしょうか」
この時私は何故か嫌な予感がしました。
エルトリアさんは規格外の強さを持っているので心配する必要はないです。
となると、ロザリーさんに何かあったと考えるべきでしょうか。でもロザリーさんもかなりの実力者です。そう簡単にやられる方ではありません。
……とりあえずレティスさんについて行った方がいいですね。
大丈夫です、と伝えるとレティスさんは一礼をしました。そして左手を何もない空間へ向けるとそこに魔法陣が出現します。
どうやらこの先にエルトリアさんのいる部屋があるそうです。
私はグラとタルトと共に魔法陣の中を進みます。
魔法陣を抜けると大きな一室に出ました。
これはまた高級感ある部屋ですね。私が借りていた部屋もなかなかいい部屋でしたが別格です。私なら逆に落ち着けないかも。
と、そんなことはさておき。
部屋にはエルトリアさんが俯いた状態で椅子に座っていました。あと、エルトリアさんの横にいるのは従魔ですかね。悪魔っぽい女性と黒くて大きい狼がいました。
あんな風に元気がないエルトリアさんは初めて見ました。
私は声をかけようとしたのですが、その前にエルトリアさんの横にいる悪魔っぽい女性と目が合います。でもすぐにその視線は私の横へと移りました。
「あれっ、グラちゃん!? どうしてこんなところにいるの?」
「あ、アスモデウス様! お久しぶりです。こんなところで会えるとは思っていませんでした」
「それは私もよ!」
グラが知り合いのようですし、同じ最上級悪魔なのでしょう。
まあアスモデウスと呼ばれた女性の容姿は悪魔族みたいでしたし、姿を見た瞬間この人はバエル並みの強さを持っている薄々感づいていました。
「ところで、この子がグラちゃんのご主人様?」
「はい。リリィ様です」
「ふーん」
アスモデウスさんが私をじっくり見てきます。
そして納得したのかニコリと笑いました。
「いいご主人様だね。リリィちゃん、だっけ? これからグラちゃんのことよろしくね」
「はい」
「うん。ああそうだ、グラちゃんずっとバエルと一緒にいたじゃない? もしかしてご主人様を見つけたからバエルは捨ててきたとか? あいつ色々とグラちゃんに研究の手伝いをさせてたからねぇ。今頃助手がいなくなって大変なんじゃないの。まったくいい気味だわ」
アスモデウスさんはバエルと因縁でもあるのでしょうか。
詳しく聞いてみるとアスモデウスさんは悪魔界で何度もバエルと戦ったことがあるとか。バエルは一番最初に生まれた最上級悪魔ということもあって他の最上級悪魔からも勝負を挑まれていたようです。
バエルが嫌々相手している光景が想像できますね。
実際にそうだったみたいで大抵の最上級悪魔は簡単に返り討ちにしていたようです。対等に戦えるのは悪魔界の中でも王として認められた者。アスモデウスさんも悪魔界の王と言ってました。
それで、アスモデウスさんもバエルに何度も勝負を挑み敗北。その後はエルトリアさんに召喚されて勝負よりも旅をする方が楽しいからと勝負は挑まなくなったようです。
でもバエルのことはあまり好きではないみたいです。バエルに対しての態度で何となくそうだとは思いましたが。
「そうかぁ、あのバエルがリリィちゃんの従魔になったとはねぇ。でもそのバエルは何処にいるの? 会いたくはないけどいないじゃない?」
「実は──」
グラが『機神の塔』での出来事を話すとアスモデウスさんは「ざまぁないわね!」と大きな声で笑っていました。
それからは悪魔同士で話がしたいとグラはアスモデウスさんに連れていかれました。滅多に会えない同郷の仲間なので今のうちにたくさん話せればいいですね。
さて、私は私でエルトリアさんから話を聞かなければなりません。
先程までの会話が聞こえていたのかエルトリアさんはこちらを見つめていました。微笑んでいるようにも見えましたが辛いことがあったようにも見えます。
私は急いでエルトリアさんのもとへ駆け寄ります。
「……一週間ぶりじゃな。元気にしておったか?」
「はい。『機神の塔』も無事に攻略しました」
「それは良かった。どうやら妾が知らぬうちに新しい仲間が出来たようじゃな」
「もう一人いましたが今は諸事情でここにはいませんけどね。エルトリアさんの従魔も初めて見ました。この子はモフモフで可愛いですね」
「お、おい! 今のそやつは妾が命じて大人しくしているが本当は凶暴で──」
凶暴なんですか? 普通に触らせてくれましたけど。
でもエルトリアさんが言ったことは本当のようですね。エルトリアさんは驚いた表情で私を見ていました。
「まさか妾以外に心を許す者がいるとは……」
「よしよし、いい子ですね。でもあまりエルトリアさんに迷惑をかけたら駄目ですよ」
そう言うとエルトリアさんの従魔は大人しくうつ伏せになりました。もう少しモフモフしていたかったのですが本題に入ります。
「エルトリアさん。私を呼び出した理由って……ロザリーさんのことですよね」
部屋を見渡してもロザリーさんの姿はありませんでした。
普段であればロザリーさんはエルトリアさんの側にいるはずです。ダンジョン攻略がまだ終わっていないとも考えましたがそれなら急ぎで呼ぶ必要はない。やはりロザリーさんの身に何か起こったと考えるべきです。
「うむ。だがその前に御主に謝っておきたい。……リリィよ。妾から誘っておいて非常に申し訳ないし自分勝手なのは重々承知しておる。じゃが今回のダンジョン攻略、済まぬが一時中断させてほしい……。急いでやらなければいけないことがあるのじゃ……頼む……」
そう言ってエルトリアさんは頭を深く下げました。
「……何があったか聞かせてくれますか?」
エルトリアさんは『魔神の塔』の攻略で起きた出来事を全て話してくれました。
攻略を進めていき最上階へ辿り着き、最後のフロアボスも難なく倒した。
一番難易度が高いとされる『魔神の塔』を一人──いや、従魔たちもいたのでそこまで苦戦しなかったと思います。でもフロアボスは単独で倒したそうなので流石の一言です。
しかし、フロアボスを倒し帰還しようとするエルトリアさんの前に突如現れた二人組。それが裏世界から『勇者』や『魔王』を殺害しにやってきた人間だったのです。
エルトリアさんであれば裏世界の人間を相手しても問題なく対処できるでしょう。何より不死なので殺される心配はない。
でもその二人組──クラウスとシスティーナという名前の人たちはロザリーさんを人質に使った。エルトリアさんの前に現れる前にロザリーを襲撃し意識を操って無理矢理戦わせたのです。
望まない戦い。二人は辛かったでしょう。
その後、ロザリーさんは無事に正気を取り戻し、エルトリアさんは裏世界の人間と戦って殺せなかったものの自分たちの居た世界へ追い払った。
これが『魔神の塔』で起きた出来事。
そしてここからが本題です。
襲撃に遭ったロザリーさんですが、正気を取り戻したはずが突如意識不明の状態になってしまったようなのです。
エルトリアさんが言うにはおそらくシスティーナという人間が何かやったのかもしれないとのこと。ロザリーさんを襲撃した張本人がその人のようなので可能性は高い。
原因を解明しようと調べても謎が多くわからないことだらけだったみたいです。
これは世界の違いが関係しているかもしれません。話す言語も異なっていますし。
一応『治癒魔術』を試しても意味はなかったそうです。私であれば……とも考えましたがエルトリアさんで治らなかったのであれば私がやっても回復は難しいでしょう。
それでもエルトリアさんは諦めずに治療方法を探すそうです。
しかしそうなるとダンジョン攻略は一時中断しないといけません。意識不明のロザリーさんを放置するわけにはいきませんから。
「ロザリーは妾と一部の者しか知らない場所におる。そこならば見つけるのも困難じゃし、すぐに異界の者も襲ってくることはない。今は他に目立った症状は出ていないが何があるかわからない。暫くはそこでロザリーの様子を見ながら治療方法を探そうと思っておる。だから……御主とのダンジョン攻略はここで一度中断したい。勝手に決めて済まないが……」
「謝らないでください。エルトリアさんはロザリーさんのことを優先すべきです。それにダンジョン攻略なんていつでもできます。今回は一時中断という形で終わってしまいましたが、また三人で再開するんですよね」
「勿論じゃ。妾と御主とロザリー、三人で必ず『神々の塔』を攻略する。いや、妾が攻略したいと願っているのじゃ」
「ではその時まで私は二人に負けないくらい強くなります。今のままでは力不足で足を引っ張ってしまうかもしれませんから」
「そんなことはないと思うがな」
「いいえ、そんなことあるんですよ」
本気で勝負したら私なんか二人に手も足も出ないでしょうしね。せめていい勝負が出来るところまで強くならないと『神々の塔』では役に立たないはずです。
「ああでも、私だってロザリーさんのことが心配なのでエルトリアさんの力になりたいです。私も治療方法がないか探してみます」
「助かる。それなら連絡を取れるようにあれを渡しておかないとな」
エルトリアさんは私に手のひらサイズの球体を渡してくれました。
「本当は全てのダンジョンを攻略した後に渡すつもりじゃったがこうなってしまった以上、今のうちに渡しておく。それは通信用の魔道具じゃ。それを使えばいつでも妾と話せる。何かあればそれを使うといい」
「ありがとうございます。効きそうな治療方法を見つけたらすぐに連絡しますね」
「うむ。では妾はもう行くとする。短い時間じゃったが御主と過ごした日々はとても楽しかったぞ」
「私もです。また会いましょう」
こうして私たちのダンジョン攻略は思いがけない形で幕を閉じました。
またいつかこの続きが出来ることを願って。そしてロザリーさんの意識が回復することを願って私は冒険を続けます。
これにて第二章完結です。
中断になった『神々の塔』攻略についてですが、
必ず書きます!!
ですので、リリィたちが再びこの地に戻ってくるその日までお待ちいただけると嬉しいです。
第二章ですが、ダンジョン攻略の話を五つも書くとなると当然ネタ切れになっていたんですよね。そのため途中から中断の方向で考えていました。
章タイトルの『神々の塔』の攻略は現時点ではしていないので変更するかもしれません。
続きを『第二章タイトル・続』という風にするかもしれないので変更はしないかもしれませんが。
結構長めの第二章になりましたがここまで読んでいただきありがとうございました。
よろしければ第二章完結となりましたので下の☆から評価していただけると嬉しいです。
次回は……どうするか考え中です。
来週の水曜日までには更新するので暫くお待ちください。





