世話のかかる人たち
※2023年5月8日 一部加筆。
やれやれ、なんで私はこんなことをしているのでしょう。
アドルは勇敢にも謎の生命体に向かっていきました。
無謀な戦いだってわかっているでしょうに。
仲間のためですか? だったらその勇敢さを三年前にも出してほしかったですね。そうすれば私が奈落に落ちることはなかったです。
まあ、過去の事を思い返しても意味がありませんね。
こんな形でアドルの前に出ることになるとは。
正直アドルたちが何処で死のうが私には関係ないです。
といいますか、私にした仕打ちを考えれば因果応報ですよ。悪いことをしたら自分に返ってくるって本当なんですね。
あと、使い道がないと思っていた『黒白の仮面』がここで役に立つとは思いませんでした。
更に『黒白の仮面』の権能である『変声』によって私の声が変えられているので私だと気付くことはないでしょう。
いや、それ以前にアドルは私が生きている事を知らないので、現れたのが幼馴染みのリリィ・オーランドであるとわかるはずもない。
声を変える意味はなかったかもしれませんね。
何となく聞き覚えがあるような声と思うかもしれませんが、私は死んだと思い込んでいれば自ずと私は可能性から除外されます。
中身が私だと知らずにアドルは目の前に現れたのは謎の少女だと思うでしょう。
真実を知ったらどんな反応をするのでしょうか。
このまま仮面を外して正体を露にしても良いですが、どうせならもっと恩を売るべきでしょうか。
アドルは謎の生命体によって右横腹に穴を開けられました。
治療しなければそう時間もかからずに死ぬでしょうね。
パーティーの回復役である──シャルロット・クロムハーツさん……でしたか?
本来これは『聖女』である彼女の仕事ですよ。なのにカリアの左腕が斬り飛ばされたのを目撃しただけで冷静さを失うなんて。
まったく、腕の一本や二本失って取り乱すなんて冒険者としてやっていけませんよ?
えっ? その言い方は自分が実際に経験しているみたい?
それはそうですよ。逆に上層で苦戦していた冒険者が負傷せずに最下層で生活できるとでも?
私の右腕ちゃんは4本、左腕ちゃんは6本、足だって両方合わせれば8本は世代交代していますよ。
体の一部を失った時の痛みは壮絶で慣れることはありません。出来るなら二度とあの痛みを味わいたくないです。
しかし冒険者たるもの如何なる状況も想定しなければいけません。当然四肢等を失うことも。
一応勇者であるパーティーのアドルの仲間──シャルロットが現状役立たずになっているので治療魔術を使えるのは私だけですね。
……やはり仕方ない、ですか。
改めて考えてみましたが本音を言えばやりたくないに決まってますよ。
どうして私がアドルなんかのために治療魔術を使わなければいけないのですか。
先程も言ったように私はアドルたちが何処で死のうが興味がありません。
あのまま無視してここから去ることだって出来たはずです。
しかし、さすがの私も目の前で死にそうな──仮にも『勇者』である男を放っておくほど人間性は腐っていません。
私はアドルに『月光の魔道神杖』を向けます。
「──【完全治癒】」
そう唱えるとアドルの失われた肉体は修復されていき、5秒足らずで完全に治りました。
「………ッ!?」
私が使用した【最上級治療】は治療魔術の中でも最上位の魔術です。私もこの魔術で欠損した部分を修復しました。
ただし、魔力の消費は激しいです。欠損した部分を完全に修復しますからね。当然です。
並大抵の『白魔道士』はその消費量から使えるかも難しい。仮に一回だけ使えてもその後しばらくは完全に戦力外です。
「な、治ってる?」
目を大きく開きアドルは驚愕しています。
そうですよ、私が仕方なく治してあげたのですから感謝してください。
「頼む、俺の仲間も治してくれッ!」
アドルは私に縋り付いてきます。
感謝の言葉もなく懇願ですか。普通命の危機から救ってもらったのですから感謝するべきでしょう?
アドルの態度は気に食わないですが、負傷したのがカリアですからね。
カリアはアドルたちと違って表裏のない友人です。昔は夜遅くまで一緒に喋ってクオリアに怒られたことがありました。
それでも三年前、私を囮にすることに賛成したので許せませんけど………まあ、カリアだから怒りの度合いは低いです。
「もう治しましたよ。しばらく安静にしていれば彼女もすぐ元気になります」
実はアドルと同時にカリアにも【最上級治療】をかけておきました。どうせ頼まれるとわかっていましたから。
アドルも左腕が元に戻ったカリアを見て一安心。
良かったですね、大事な幼馴染みが無事で。二人を助けたのは昔見捨てた幼馴染みですけど。
「それでは邪魔なので早くここから消えてください」
「あ、あんたはどうするんだよ? 命の恩人を見殺しになんかできない」
私の正体を知らないからってアドルの口からそんな言葉が出るなんて気持ち悪いです。
「別に心配しなくてもいいですよ。私、あなたより強いですから。むしろここに居続けられた方が迷惑です。命の恩人と思うなら早く仲間と一緒に何処かへ行ってください」
「けどアイツの強さは異常──」
ああもう、面倒ですね!!
わかってますよ、あれの強さが異常なんてことは!
だから私が行けと言ってるんです。早く行ってください!
それでも動こうとしないアドル。
こうなったら力ずくです。
「タルト、この人を向こうへ投げ飛ばしてください」
「キュイ!!」
私の指示でタルトはその小柄な体でアドルをクオリアたちがいる場所へ投げ飛ばします。
アドルは仲間の手前で体を強く地面にぶつけます。
「──くっ……」
「アドル、大丈夫!?」
「あ、ああ……悪いがここはあの人たちに任せよう……。俺たちじゃどうしようもない」
アドルたちは水晶を起動させて別の場所へ転移しました。
場所は【オルフェノク地下大迷宮】の入り口か別階層か。
そんなことはどうでも良いことでした。
邪魔物がいなくなった今、この場にいるのは私とタルト、そしてアドルとカリアに致命傷を与えた謎の生命体。
結局囮みたいな役割になってしまいましたね。
しかも今度は自分から。私は囮が好きなのでしょうか。
さて、向こうは私を逃がす気無し。
ステータス、スキル共に未知。
どうやら久し振りに気の抜けない戦いになりそうですね。
とある灯りの少ない一室。
その一室にある淡く光る水晶を白髪の少女はじっと見つめていた。
水晶には、ある光景が映っていた。
水晶に映し出されているのは、オルフェノク地下大迷宮にいるリリィやアドルたちの姿。
「……そう。あなたは絶対に彼らを見捨てない。いや、見捨てることはできない。三年前のあの日──いいえ、それ以前からこうなることは決まっていたのだから」
少女は不適な笑みを浮かべ、水晶を見続ける。





