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1 in the nice summer

ここから読んでいただけますと嬉しいです。

 俺はゆっくりとその道を歩いていた。いわゆる田舎でもなく都会でもないような、そんなどこにでもありそうな感じのありふれた街の道を。落ち着いていて親近感のある人が多く、田舎らしい温かい人間関係、そして都会らしいより良いサービス。都会と田舎の両方を兼ねそろえていて、岡山は最高だ。

 商店街は都会にあるけど人々の笑みが暖かく、人見知りの人たちでさえも躊躇せず暖かく接することができる。そういう温かい人間性も岡山の魅力である。


 俺ーー飯宮寿英(いいみやとしひで)は今どこへ向かっているのかというと、商店街である。夏休みの、暑い赤い日差しが首筋に当たる。夏休みだから、大判焼きでも買って、食べながら色々したい。

 夏休みは、大判焼きと共にぐうたらしたい。

 あんこの甘味と生地の奏でるハーモニーの美味しさが、たまらなく愛おしい。


 しばらく商店街の中を歩くと、すぐに「大判焼き 寿」と書かれた幟が見えてくる。文字通り大判焼きの専門店で、美味しさは、計り知れない。

 この田舎っぽいところも、またいいのである。


「あら寿英ちゃん、こんにちは」


 店主の道長さんが笑顔で話しかけてきてくれる。


「いつものやつで」


 俺は淡々と注文内容を述べる。下校の時、毎日のように行っている。寿は、俺にとってはそういう馴染みの深い店なのである。ここのおっちゃんはとてもいい人だ。俺の好きな大判焼きを知っている。

 道長さんは、生地を型に流し込んだ。小麦粉のいい香り。この匂いだけで飯が食えてしまう。そういうと些か大袈裟かもしれないが、一部の人はそういっている。まあ間違いではない。

 しかしこれは赤アンが入るからこそ美味しいのである。


「あいよ」


 道長さんが、出来立てほやほやのおやきを紙に包んでくれた。


「お金は」


「いいよいいよ、支払わんくって。俺は金が欲しいんじゃなくて、俺の大判焼きを一人でも多くの人に食って欲しいんだよ」


 でもその直後、彼は急に表情を歪めた。


「俺のコイツを食ってくれんの、若いもんじゃあんただけよ。じゃからな、チョッチ耳より情報を聞いて欲しいんやゲド」


「ん?」


 俺は興味津々に訊ねてみる。


「あんさん、ゲーム好きじゃろ。そのゲームについて、チョッチ話をしテェんだ」


「ゲームの話、ゲームの話」


 俺は異常なまでに興奮した。ゲームの話に食いつく。

 そのゲームの話は、俺が聞いたことのないような恐ろしいシステムのものだった。


「なぁ、《cell phone online》って聞いたことあるか」


 いきなり知らない単語が出てきた瞬間、びっくりした。それなりにゲームニュースを見たりゲームをやり込んだりしている、そんな俺でさえもが知らない単語に出くわすとは、思ってもいなかった。それが一番のびっくりした所以である。

 そのセルフォンオンラインについて、俺は首を横に振ってみせた。


「まぁ知らねえよな。ゲーム界の噂として囁かれていたものだからな」


「教えてくれ、詳しく」


「俺が聞いたところには、霊媒師の佐久間谷八雲が関わっているという情報が耳に入っている。そして、《little Gulliver》社が関わっているという噂もあるしな」


 俺は大判焼きを袋から出した。立ったまま、焼き立ての大判焼きを持つ。

 大判焼きを齧りながら、俺は彼の話に耳を傾けた。


「へぇ、佐久間谷か」


「で、佐久間谷が社と開発した特別携帯電話型通信端末機器であるnice phoneを使って、プレイするらしいぜ。確か、これも噂だけど、SNSを使った超画期的アンド斬新なアイデアのゲームらしいぜ。これ以外にも俺の知ってるこたぁなんでも教えてやる。上がれよ」


 おじさんは言った。俺を手招きするような仕草をすると、店の奥へと上がっていった。

 俺はその時、一瞬まどった。上がっていいのだろうか。もちろん《cell phone online》の情報はとても気になるし、聞き逃したくない。しかし、もうそろそろ見たいテレビアニメも始まってしまう。

 俺は覚悟を決めた。お邪魔します、と小さな声で言ってから、道長さんの店の奥へと入っていった。

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