2 Lets buy nice phone
道長さん家は、とても広い空間とは言い難かった。うちの家の面積の、およそ半分ぐらい、というところであろうか。まぁ快適ではある。
俺は上がると、彼の家の二階へ案内された。二階は店頭よりも生活感が遥かに出ており、ゴミが散っていたりしている、俗にいうゴミ屋敷だ。物として判別できるようなものは、部屋の中央にどんと置いてあるコタツのみ、そんな感じである。
「まあまあコタツに入れ。《cell phone online》のこともたぁんときかせてやらぁ」
「ありがとうございます、でも、いいです」
度が過ぎる親切にありがた迷惑を感じたのか、俺は反射的に拒否した。
「《cell phone on-line》はなぁ、ヴェールに包まれているゲームなんだ。開発されていることのみが公表されている、というのは、ゲーム業界では珍しい」
「てことは、今の状況は知れないってことですよね」
俺の質問に、道長さんは頷く。
「でもな、《cell phone on-line》の情報を知ろうとして、外部から侵入しようとした奴がいる。そいつは、どうにかして、システムを無効化させて侵入した」
「でも、《little Gulliver》のシステムって、超強固なんですよね」
「無効化したんだよ、無効化。でもな、」
彼はゆっくりと唾を飲み込む。緊張感を作り出そうとしているようである。
「侵入に成功したものの、彼は凄腕のハッカーによって個人情報を知られ、やがて暗殺されてしまう」
「暗殺ぅ!」
俺は驚きを見せてみた。
「暗殺されて、仲間は彼の命を狙おうとした。ーーまぁ俺が知ってんのはこんなことじゃ」
俺は大判焼きを密かに頬張りながら、熱心に聞いた。餡子の甘い味が、口の中いっぱいに広がってくる。シンプルに感想は、美味しいという一言のみである。
大判焼きを四個ほど食うと、その話は終わった。しかし帰るような気力すらもなく、彼のゴミ屋敷のこたつで寝転ぶ。それしかできないに等しい状態であった。
「帰れんけ、うますぎて。まあええ。テレビでも観て帰りや」
「じゃあお言葉に甘えて」
道長さんは、この汚い部屋の中から、リモコンを慣れた手つきで探し出す。どこにもないように感じられたが、人間という動物の慣れの能力というものは、全く凄いものだと目の当たりにされる。
そして新型の小型テレビにリモコンをかざし、電源をつける。これも音がするまで、どこにあるかすら分からなかったのだが。
テレビでは、なぜかライブをやっていた。ニュースでもない。何か点やかんやしているような様子。そして、なぜか今まで俺がみたことのあるような場所の様子が、テレビ画面に映っている。その景色は、さっき見た場所のような気もしてきた。
ふと、道長さんがつぶやいた。
「なんか面が騒がしいなぁ」
その言葉に呼応するかのようにテレビの画面から、美しい女性の声が流暢に流れ出てくる。
「ただいま、こちらの遊戯館にて、世界で最初の《nice phone》販売が行われております。限定三千台、限定ひとつ五万円で販売されております。この歴史的瞬間を捉えたい方、ぜひ駆けつけてください」
「!」
俺は慌てて立ち上がった。大判焼きの食べ過ぎの疲労というものはもう忘れてしまい、頭の中はもう《nice phone》のことでもういっぱいだったからだ。
そしてひたすら走る。喧騒のする方へ。
いや、早くゲーム世界に行ってもらいたいものです。




