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CORD-4:荒ぶる魔獣の王

仕事疲れで完成がかなり遅れましたがお待たせいたしました、CORD-4、開幕DEATH

-神嶋御影…ヘラクレスの覚醒後、月海市・とある企業ビル




-この会社の名は『スサノオ・コーポレーション』、国内のみならず海外にも打って出て、大成功を納めてその名を世界中に広めた、日本では最も有名な大手医療機器メーカーである




-だが、しかし…その実態は…




-『スサノオ・コーポレーション』最上階・会長室



「…犬飼君が任務に失敗したと…そう言ったのかね?火猫君…」


「…はい、先程入った丑頭の連絡の内容によりますと…どうやらヘラクレスと交戦、その結果…犬飼さんは勿論、『猟犬部隊(ハウンド)』もやられたようです…須佐神会長…」


「…ふう…そうか、それは仕方ない、な…」


-会長室の椅子にゆったりと座っている黒髪をオールバックにし、両手には黒革の手袋、口周りに髭を生やし、スーツの上に黒いマントを羽織った壮年の男…『スサノオ・コーポレーション』会長・須佐神劫(すさがみ・ゴウ)は、猫耳の様な癖毛が特徴的な夕陽を思わせるオレンジの髪をバレッタで留めてパイナップルヘアーにしている吊り眼をし、眼には赤縁眼鏡、首には小さな鈴が付いたチョーカーで飾ってるスーツ姿の有能そうなイメージの女性…専属秘書の火猫美鈴(かねこ・ミスズ)の口から語られる淡々とした犬飼の任務失敗の報告を聞いて溜息を漏らす…


「嗚呼…私は悲しいよ、火猫君…『同類(なかま)』同士で無用な争いをし、その果てに犬飼君が…なんということだ…」


「…」


-須佐神は手を広げて大仰(オーバー)に犬飼の末路を憂い、自身の悲壮感を表現した…失敗した犬飼(負け犬)を侮蔑する訳でも不甲斐無さを憤怒する訳でもなく、ただただ自分の悲しいという気持ちを一切隠さずに露にする…


「失礼します」


「おお、戻って来たかね?丑頭君」


「ハッ」


-外側からのドアのノック音が聞こえると同時に入室してきた、眼にはサングラスをかけ、顎髭を生やした屈強そうな大柄のスーツ姿の男…専属ボディーガードの丑頭嶽男(ごず・タケオ)は須佐神に向かって深々と頭を下げながら一礼した


「犬飼の件…まことに申し訳ありませんでした、須佐神様…奴に偽造した警察手帳まで手配したにも関わらず、あのような失態で貴方のお顔に泥を塗る様な事になりまして…」


「フフッ…丑頭君、別に私は怒っちゃあいないよ、頭を上げてくれたまえ」


「ハッ」


-丑頭は任務…警察の人間に成り済まし、世間に触れる前にヘラクレス捕獲の失敗をした犬飼に代わり、須佐神に謝罪したが、肝心の須佐神はというと実に穏やかな口調と寛大な心で許した…それもそのはず、犬飼の失敗程度など須佐神にとっては小さ過ぎて気に留めるレベルの問題ではなかったからだ


「ところで犬飼君は今はどうしているかね?」


「はい、『施設』に居る百地達、研究チームへ送りました…時間は掛かりますが、いずれ『再起動(ふっかつ)』は可能かと…」


「そうかそうか…犬飼君はまた動ける様になれるんだねぇ、それはよかったよ…」


-どうやら犬飼はまだ完全には死んではおらず、スサノオ・コーポレーションとは別の場所にある『施設』なる所で『再稼動』の準備を為されてるそうだ…それを聞いて須佐神は安心する


「そしてヘラクレス自体の件ですが…率直に言いまして、アレはとんだ『欠陥』持ちです…」


「どういうことだい?」


「死にかけの犬飼が言うには記録回路(のう)に異常が…自分の事はおろか、我々、合成魔獣(キメラ)の事も…そして最も愚かしい事に、我々の『王』たる須佐神様の事さえも…何も知らない様子の真っさらな状態でして…つまりは記憶喪失だそうです」


「…なんですって?」


「…そうかね」


-丑頭は神嶋御影(ヘラクレス)の現状…記憶喪失になった事について報告した、それを聞いた途端に美鈴は静かに怒りの感情が沸き、肝心の須佐神はというと逆に落ち着いた様子でポツリ…と、呟いた


合成魔獣(ほんらい)の姿には一応変われる様ですが…本能でどうにかしてるだけで理性のカケラも無い、単なる下劣なケダモノに過ぎませんでした」



「当然ですね…理性のある獣と理性の無いケダモノは意味が大きく違います、そんな下品な男…本当に我々の中で最も優れた合成魔獣の一人なのでしょうか…?」


-合成魔獣は単に本能の赴くままに暴れる獣ではない、溢れんばかりの本能を抑える理性と獲物を如何に仕留めるにはどうしたらいいかを綿密に思考する狡猾な知性…そしてありとあらゆる獣の特性と戦う能力(パワー)、これらの要素で初めて成り立つ生物なのだ、丑頭の報告を聞く限りでは現段階の…現存している合成魔獣の中では特に優秀と称されるらしいヘラクレスには理性と知性は到底感じられそうにないし、事実、無かったのだ…


「まあまあ、二人共…そう怖い顔をしないでくれたまれよ、いい面構えと美人が台無しだよ?」


「「…はい」」


-愚かしいタダのケダモノに過ぎないヘラクレスに疑問を感じれば感じる程に苛立つが募る美鈴と丑頭…そんな彼らの気持ちを察したか、須佐神はニコリと笑いながら喧嘩したばかりの子供を諭す大人の様な優しい口調で二人をなだめた


「しかし解りません…何故我々の事も忘れ、何故暴走なんてするような劣化が見られるのか…」


「ヘラクレス…確か彼は…ええと…?なんて言ったかな?確か、誰か…多分女性だと思うが名前が浮かばないな…とにかく誰が手掛けたものだったよねぇ?火猫君」


「はい…我が社の者に『始末』させた人間の女…遠野遥の事でしょうか?」


「そう、それそれ!確かそんな名前だったね!彼女!いやぁ…合成魔獣(きみたち)の事は一人一人、全員覚えてはいても人間の事は全く思い出せなくてね、ハハッ…年かな?私も?」


「…ま…まさかッ!?あの女ァッ!『調整段階』のヘラクレスに何かしたなッ!?道理でおかしいと…!おのれ!下等生物(にんげん)風情がァッ!!フゥー…フゥー…!!ンゴア゛ァアア゛アアア゛アアアアッ!!」


-須佐神が朧げながらも覚えていた女…そう、遠野遥だ、ヘラクレスに関しては全て彼女に一任してあったのだ…だが、何らかの心境の変化があったか?彼女はヘラクレスに『何か』を施して彼を逃がしてしまったようだ、丑頭は須佐神の言葉から事の真相に気づき、怒りのあまりブチ切れて猛牛の様な猛々しく叫びながら、公園でヘラクレスと一時的に対峙したあの姿…水牛とカブトガニの合成魔獣・ベヒーモスに変化してしまった




-…そう、丑頭/ベヒーモスも、美鈴も、ヘラクレスにやられた犬飼も、そして彼らの頂点である社長…否、『王』たる須佐神も…この『スサノオ・コーポレーション』で働く社員や彼らと繋がりを持つ関係者…それら全てが合成魔獣、いわばこの『スサノオ・コーポレーション』自体が巨大な合成魔獣の巣窟なのだ


-尚、此処は表向きは医療機器メーカーなので一応は…当然ながら一部の何も知らない一般社員など普通の人間もいるにはいるが、そんなものはほんの一握りに過ぎない…


-これが『スサノオ・コーポレーション』の、合成魔獣の王・須佐神劫という一人の男が築き上げた一つの『王国』の真の姿であった…


「よしなさい、丑頭…須佐神様の御前で…」


『黙れ、火猫…!!これが落ち着いてられる…とッ…!?』


「火猫君の言う通りだよ…ね?丑頭君…静かにしたまえ…」


『…ヒッ!?』


「あ…あ…あぁ…!!」


-いきり立ち、取り乱す様な醜態を諌めてくる美鈴の忠告に耳を貸さないベヒーモスも流石に須佐神の注意は無視出来なかった…須佐神は眼を大きくクワッと見開き、身の毛もよだつ様な、爬虫類の様な不気味極まりない灰色の瞳でベヒーモスを睨みつけると、ベヒーモスも、そして美鈴も全身から血の気が引いた様に顔を青褪めさせ、その場に崩れ落ち、震えながら言葉を失った


「す…須佐神様…!!お許しを…どうかお許しをッ…!!」


「い…嫌…私は何も…!!許してください…!!許してください…!!う…ひぐっ…うう…!!」


-ベヒーモスは即座に合成魔獣の姿から元の丑頭の姿に戻って須佐神に向かって床に額を擦りつける様に無様な土下座をし、美鈴は恐怖のあまりに涙をボロボロ零し…泣きながら必死に、二人してまるで『死にたくない』と言わんばかりに許しを乞う様に跪いた


「…ハッ!?いかん…いかんなぁ…!!思わずやってしまった…あははははは…ああ、ほらほら!もう怒ってないから…ね?ね?」


-先程見せた爬虫類の様な眼は須佐神自身の感情が昂ると思わず無意識に顔に出てしまう…彼の癖みたいなものであり、その恐ろしさは丑頭や美鈴…須佐神の側近は勿論、全ての合成魔獣を震え上がらせる威力(ちから)がある


-だがしかし、須佐神本人はどうやら自分の悪癖に関してはかなり気にしてるようで、丑頭と美鈴を泣かせて命乞いさせたのは最早一度や二度では利かない程である、泣かせる度に素直に自分の非を認めてなんとか泣き止ませようと毎回苦労するハメになってしまうのだ


「やれやれ…さて、と…一応確認はしておかないとねぇ…丑頭君の報告だけではなんとも…実感が沸かないし…」


-しばらくして、須佐神は二人をどうにか慰めて退室させ、携帯を取り出して『ある場所』へと連絡を取り始める…




-???




『ガハッ…ゴボッ…グゥウウッ…こ…此処、は…?』


-気づけば、床や天井中に樹が根を張るように無数の配管(パイプ)やコードなどで埋め尽くされた薄暗い何処かの研究所の様な場所で目覚めたコボルト(犬飼)の視界は緑色に染まっていた…正確には、無数のコードに繋がれ、首だけの状態のまま緑色の培養液で満たされたカプセルに収容されてる彼の眼にそう見せてるだけだが


(私は…まだ生きてるのか…ということは…此処は『施設』か…?)


-コボルトは完全に意識が覚醒したのか、ようやく今自分が置かれている状況…全ての合成魔獣から『施設』と呼ばれる場所で現在、自分の身体の修復作業を行われている事を理解した、だがそれと同時にコボルトは何故自分がこんな事態に陥ったのかという余計(いや)な事まで思い出してしまった


(ヘラクレス…!あのムシケラがぁ…!!それに思い出した、丑頭の奴…よくも私をあんな目に…!!)


-コボルトが追っていたハズの合成魔獣・ヘラクレス、どういうワケか記憶回路に異常をきたし、タダの不完全な欠陥品に過ぎない奴を始末してやろうと意気込んだはいいものの、見事なまでの返り討ちに遭った、そして丑頭/ベヒーモスに回収され…気絶しそうになる度に何度も何度も頭を握り潰されそうになり、自分が知る範囲でヘラクレスの現状を全て話したところで意識がブラックアウトした、自分が彼らから受けた仕打ちに対して悔しげに歯軋りをしてると…


「ようやく、お目覚めですかぁ?犬飼さん…プッ!クフフフ…駄目だ、見れば見る程、笑いが込み上げてきますよ…その格好…!」


「キャーキャッキャッキャッ!!全くだぜ!!よく生きてられるよな〜?ンな情けねぇ姿でよッ!あーやだやだ!潔く死んでりゃいいもんを…みっともねぇったら、ありゃしねぇよ!!」


『…葉室…!!それに…猿脇…!?』


-カプセル内のコボルトの屈辱極まりない姿を見ながらニヤニヤ、ヘラヘラと嫌味ったらしくドス黒い笑みを浮かべ、ゴミか何かを見る様な視線を送る二人組の男がいた…


-一人はスーツ姿であり、黄緑のネクタイを葉っぱのデザインのネクタイピンで留めた、細身(スマート)な身体つきに薄い緑がかった黒髪、そして緑縁眼鏡をかけた陰気そうな青年…火猫美鈴直属の部下・葉室牧志(はむろ・マキシ)


-もう一人は服装は上下共々赤いジャージ姿で猿の鳴き声の様なけたたましい声で笑い、頭に被ったニット帽から覗く短く切られた栗色の髪の後頭部に不規則にラインを入れ、両耳にピアスを付け、猿顔かつ、中学生辺りに間違えられそうなくらい小柄なうるさい小男…丑頭嶽男直属の部下・猿脇悟郎(さるわき・ゴロウ)


「キャキャッキャキャー!いいザマだな?バーーーーーッカッ!!ヘラクレス捕獲に失敗した以上、てめぇは生きててもしょうがねぇだろが!もういいから早く死ねよ、なぁ犬ッコロッ!!」


『こ…このエテ公が…!黙って聞いていれ…ば…!?はっ…葉室!?オイ!お前!!何をしている!それは…!?』


-首だけの、修復作業中の何も出来ない状態のコボルトに対して猿脇は一切の容赦無しに罵声という名の銃弾の嵐を浴びせては腹を抱えながらゲラゲラとやかましく爆笑し、コボルトは目の前でもう既に知れ渡っているヘラクレス捕獲の任務に失敗した事を侮辱しまくってる猿脇に牙を向けて殺意を剥き出しにしてる最中…自分の真横で葉室がとんでもないことをしてることに気づき、一気に血の気が引いた…


「ああそうさ…ククッ…これは生命維持装置、くたばり損なった今のアンタの命を繋いでる大切なモノだけど…それが何か?アハハハハハハッ…」


-葉室が手をかけてる物はこの治療用生体カプセルに無くてはならない生命維持装置だった…もしもまだコボルトの治療が済んでない状態で今、この装置をOFFにしたが最後…待ってるのは確実かつ残酷な結末…即ち、『死』である


「しょ…正気か!貴様!?サッサとその手を離せ!このモヤシ!ひ弱なモヤシ野郎がッ!!」


「…誰がモヤシだ…僕はな…僕はなァッ!!この時をずっと待ってたんだ!!」


『ゴッ…ウゲッ…カハッ…!!い…息、が…出来な…!!』


-コボルトは葉室にただちに生命維持装置を弄るのを止めさせようとしたが…どうやら『モヤシ』などと罵ったのがいけなかったらしい、葉室はなんら躊躇いも無く生命維持装置のレバーをゆっくり引いてカプセル内の酸素やコボルトを繋ぐコードなどから送られる薬品や栄養素、カプセルを作動させる電気などの供給が段々無くなっていき、コボルトが苦しみ始める


「アンタは覚えちゃいないだろうけど僕は一日足りとも忘れちゃいないぞ!毎日毎日機嫌が悪くなる度に僕を理由も無く殴る蹴る…!!『肥料』と称して野良犬の糞を無理矢理、口に捩込む…!!死ね!お前なんか死んでしまえ!クズ野郎!!」


-…何が気に食わなかったのだろうか?葉室はどうやら常日頃…犬飼から陰湿なイジメを受け続けてきたらしく、気づけば彼は悔し涙を流していた…


(ガァアアアアアア…しまっ…た…ァアアアアアアアアア…!!)


-犬飼崇人という男は自分が崇拝して止まない全ての合成魔獣の王・須佐神劫は心の底から尊敬し、最早盲信の域にまで達する程絶対の忠誠を誓って止まないが…そのあまり須佐神以外の他の合成魔獣は基本的に見下し、誰だろうが馬鹿にしており、葉室みたいに犬飼から酷いイジメを受けた者は非常に多かった、因果応報…今までやらかしてきた愚行が自分の首を絞めるハメになってしまった…


「あちゃー…葉室、超マジ泣きじゃん…このクソ犬、どんだけヒデー事してきたんだよ…まあ自業自得かな〜?オイラ、知ーらねっと…」


『オイ!止めろ!早くこのモヤシを止めろって言ってんだよ!クソチンパン!!』


「ムキャッ!?だが断る、そもそもオイラもお前の事嫌いだし…」


『クソがァアアアアアアアアア!!ふざけんなよ!このモンキーがァアアアアアアアアア!!なあオイ、考え直せよクズ共ッ!?な?な!?今ならまだ許してやる!』


「うるさい!死んじまえッ!!」


(オ゛ゲァッ…ゴゲ…ガァア゛ア゛アアアア…!!)


-葉室は元より、猿脇からも拒否された…猿脇は葉室の様に特にはイジメられてはいないが『犬猿』という言葉通り、日頃いがみ合ってたせいか、アッサリとコボルトの頼みを一言でバッサリ切り捨てた、プライドを一切捨ててない醜い命乞いで頼み込むが効果はまるで無し…むしろ逆効果だった、生命維持装置のレバーもいよいよOFF間近…絶体絶命、万事休す…




「はいは〜い♪ちょっとストップしてもらえませんかぁ〜?葉室さん♪」


「…も、百地博士…!?」


(い…いつの間に…!?)


-…と、緊迫した雰囲気(くうき)をブチ壊す場違いかつ陽気な猫撫で声が葉室を制止した…振り返ると背後には鮮やかな黄色のメッシュ入りの薄い水色の髪にオレンジのエクステを付け、服の上から白衣を羽織り、ベルトには首を吊ってるピエロのマスコットをいくつもブラ下げたチェーンを提げ、下半身にはダメージジーンズを履くというなんともミスマッチかつ奇抜な出で立ちの若い男…この『施設』の所長、ならびに研究者チームの最高責任者・百地仙理(ももち・センリ)が音も気配も感じさせずに腹が立つくらい、いい笑顔のまま立っていた…


「困りますね〜…勝手な事をなされて犬飼さんを殺しては…私が須佐神様から、所内での合成魔獣に関するあらゆる事、全てを一任されてるのをお忘れで…?」


「だからどうした!?」


「ちょっ…葉室!この人を敵に回したらマズイって!!」


「猿脇さんのおっしゃる通りですよ〜?葉室さん?私はこの『施設』を須佐神様から直々にお預かりになりましてね…つ・ま・り♪私はこの『施設』内に限り…須佐神様とほぼ『同等』の権限を持っているのですよ?その事はお解りのハズですよね…?」


-突然割って入って来た百地の聞いててイライラさせるようなふざけた口調の制止に葉室は不服そうな顔で睨みつける…百地はこの『施設』で合成魔獣に関する研究・管理・調整、そして犬飼みたいな傷ついた者の治療、全ての事を須佐神から任された身であり、須佐神と同じ立場の権限を与えられた以上、例え任務に失敗したような負け(コボルト)でも一応は完治するまで面倒を見る義務があったのだ


「…チッ…!!」


「ハァー…一時はどうなるかと…んじゃ、さいならッ!!ウキッキー!!」


-数分程の沈黙の後…葉室は舌打ちしてその場を立ち去り、猿脇もまた冷や汗を流しながら猿みたいに跳ね飛びながら退散したのだった、この『施設』で百地に逆らう事は自分達の『王』たる須佐神に逆らう事に等しい…犬飼を殺すなどと息巻いたものの、やはり力ある者には勝てなかったのだ


『た…助かっ…た…』


-犬飼は極度の緊張と緊迫感、怒りやら恐怖やら、その他様々な要因で失神してしまった


「やれやれ…犬飼さんも困ったものですね、よもやここまでやられるなんて…治すこっちの身にも…ん?は〜い♪百地です♪」


『やあ、百地君…私だ、悪いね、忙しい時に』


「これはこれは〜!須佐神様ではありませんか♪いえいえ〜!どうぞ、お構いなく♪一体どういった御用件で?」


-突如、携帯の着メロが響き、それに気づいた百地が通話に出るとその相手は須佐神だった、百地は須佐神相手だろうとやはり不快感を催す口調はやめなかった


『ヘラクレスの件だよ、君の「施設」にいた人間の女性研究員…イカンな、また名前を忘れてしまったよ…』


「ああ…もしかして遠野遥さんですかね?」


『そう!その人!!』


-ヘラクレスの事に関わっていた遠野遥の名前を百地から言われるまで綺麗サッパリ完全に忘れた須佐神はようやく思い出せたのか?声がやたらスッキリしたように明るくなっていた


『いやね…丑頭君が言うにはそのナントカとかいう彼女がヘラクレスに何か「細工」を施したって言うから…彼女の上司である君なら何か解るかなと思って…』


「なるほど、ヘラクレス逃亡の混乱で私もそこまでは手が回りませんでしたし、これから調べ…って、ちょっ…もう名前を忘れてらっしゃる!?さっき私が言ったのにッ!?」


『ん?なにか問題があったのかな…?』


「いえいえ!滅相もありません!!」


-須佐神の頼みを了承した百地だが、ものの数秒しか経ってないにも関わらずまたもや遥の名前が忘却の彼方へ消え去ってる須佐神にツッコミを入れた、だが本人はまるで気に留めてなかった、これ以上何か言ったら自分の身が危ないため百地は話を無理矢理中断させて一端携帯を切り、ヘラクレスのデータの確認を始める…


「真実君、映像データの再生よろしくお願いしまーす♪」


「…は…い」


-百地がそう言うと、宙をフワフワ漂う様に無音でゆったり浮遊しながら彼の元に近づく小柄な少女…腰まで届くボリューム感たっぷりのクリーム色のロングヘアー、無表情で感情の起伏が一切感じられず、冷たい人形の様な印象しかなさそうな白い肌に青白い瞳、そして白衣姿をした百地の助手・生田目真実(なまため・マミ)に一仕事頼む、すると…


「…!!」


-真実は白衣を脱ぎ捨てると、その下から下腹部が見えるくらい短いノースリーブの服にスパッツといった素肌を多く晒す格好になる…次の瞬間、額・腹・腕・掌・脚…あらゆる場所から丸くて小さなナニカ…否、『眼球』が現れ、それら全てがギョロリと見開かれると同時に天井や床など周囲にも彼女のものと同じ『眼球』が次々飛び出し、光を放ちながら何かの映像を鮮明に映す…


『私に構わないで!!いい!?鞄の中にはあなたに必要な物がある、無事外に出れたら確認を…きゃッ!?いや!離して!!』


『…殺れ』


『ハッ』


『やめ…!!』


-映された映像の中の遥は部屋になだれ込んで来た数匹の合成魔獣に取り押さえられていた、そして…



『ギャア゛アオァアァアアアガァア゛アア゛アア゛アアェアア゛ァァアーッ!!』



-遥は生きたまま全身を貪り喰われ、激痛のあまり人間とは到底思えない酷い断末魔(ひめい)を上げてその命を終え、挙げ句の果てには首を捩切られてしまった…


「しかし見れば見る程バカですねぇ〜?遠野君も…『施設』全域をネズミ一匹見逃さずに監視出来る真実君に全て筒抜けだというのに〜…勝手な事さえしなければ死ななくて済んだものを…」


-これはあの時の…遥がヘラクレス…即ち、現在の神嶋御影を逃亡させた後の映像データだった、遥の惨たらしい最期を見て百地は呆れた様に両手を広げて『やれやれ…』というポーズを取る


-尚、御影を逃したのがすぐさま百地達にバレたのは真実のこの『眼球』のせいらしい、真実の『眼球』一つ一つ取り外してあらゆる場所に忍ばせる事で死角一つ見逃さず、見た物全てがそれらを真実本人に伝えられ異常があればすぐさまそちらへ向かう事が出来る、加えて映像データとして記録・再生まで出来るいわば『生体監視カメラ』なのだ


「うーん…すみません、逃亡直後の映像から巻き戻して逃亡させる前のデータを頼みます、あれじゃ遠野君が死んだところしか見れないので」


「了…解…再…生…」


-真実が再生した映像だけではヘラクレスへの「細工」の事が解らない、百地は真実にその場面と思われる逃亡前の映像の再生を頼む


『…この人を…私が愛した人を…!!あんな連中なんかと同じになんてさせてたまるものか!!』


-映像の中の遥は必死の形相でヘラクレスが横たわる手術台の装置を懸命に弄っていた


『やった…!やはり理論上…「再調整」は可能だったんだ!遂に成功したわ!!』


「…やはり…そうでしたか、クフフフ…やってくれましたねぇ〜…遠野君」


-どうやらこれらは『再調整』と称される『細工』を施している過程だったようで、百地はすぐさま彼女が何をしたか感づいたようで不敵に笑い始めた



「しかし…余程追い詰められて時間も余裕も無かったんでしょうかねぇ?犬飼さんが言ってた様な、お粗末な劣化が…」


-だが、バレるの覚悟でやっていたとはいえ、焦りのあまり遥は不完全な「再調整」をしてしまっていた、結果…御影は本来ならば持っていたであろう記憶を全て失い、合成魔獣として覚醒しても力と理性を制御出来ずに暴走するだけのケダモノにしかなれなくなったのだ、そこが彼女の決定的なミスだったのだ


「もしも〜し♪百地で〜す!やはり須佐神様のおっしゃる通りでした♪」


-百地は映像による検証結果を報告すべく再び携帯で須佐神と話す


『…と?言うと?』


「どうやら彼女はヘラクレス…いや、『素材』として拾ってきたどこかの誰かさんの頭を弄って、『本来の記憶』を無理矢理再生させようと試みてみたようですね〜…」


『そんなことが可能なのかね?』


「まさか〜♪万が一にも有り得ませんよ〜!現に遠野君は失敗してますし〜…しかし、どんな形にしろ我々の事を忘れ、回収任務を受けた犬飼さんを返り討ちにするなんて…今はまだしも、放っておいてはいずれ我々の脅威になりかねませんよ?回収してこの私が直々に調整し直すハズでしたが…場合によっては処分(しまつ)した方がよろしいかと…」


『ふむ…解ったよ、ならば犬飼君に代わり、社の者に任せるとしよう…邪魔したね、ではまた…』


「は〜い♪それでは御機嫌よう♪」




-携帯を切り、須佐神への報告を終わらせた百地は真実を連れて、今いる犬飼などの重傷者などが収容される治療用生体カプセルが並ぶ部屋を出てとある部屋に行く、そこには…



「た…助け…誰…か…」


「嫌だ!!嫌だ!!」


「殺して…いっそ殺して…」


「出せ!!此処から出してくれ!!」


-全裸状態の年代の男女…中には子供や老人までおり、それら全てはごく普通の一般人(にんげん)達であり、培養液に浸された生体カプセルの中に閉じ込められていたり、手術台に磔にされているせいか、全員共通して必死に足掻いたり、恐怖と悲しみに歪んだ顔になっていた


「私達の『仕事』も忙しくなりますよ?お手伝いよろしく頼みます♪真実君♪」


「は…い…」


-百地が口の端を吊り上げてニヤリと笑みを見せると同時に彼の眼が人間のものから昆虫みたいな玉虫色の複眼に変わり、真実も返事をしながら全身に『眼球』を出現させ、ゆっくりゆっくりと歩み寄る…




「「「やめてくれ!!やめ…うわぁあああああああああああああ!!」」」


「クククク…クキカカカカカカカ!!だぁーめでーす♪」




-必死の懇願した甲斐も虚しく、百地がドス黒い笑みを浮かべて一言でバッサリ切り捨てた次の瞬間、『施設』内で絶望に染まった囚人達の悲鳴がいくつもこだました…




-その頃、月海市・星宮マンション、201号室付近にて…


「うい〜、今日はちーっと…飲み過ぎたカナ〜?おにょれ!編集長!!私が独身なのはアンタが激務押し付けるせいだ〜!チクショーめー!!」


-どうやら酔っ払っているのだろうか?顔を真っ赤にして訳の解らない事を口走ってる一人の仕事帰りらしき女性がかなり危ない足取りでフラフラ歩きながら201号室のドアを威勢良く開いた


「たっらっいま〜♪アンナさん、無事御帰還だよ〜♪ららら〜♪るるる〜♪」


-グデングデンに酔ってるせいでパッと見では非常に残念極まりない有様ながら…ブロンドのロングヘアーの髪が生えた頭の頂きにアンテナみたいに一本立っているアホ毛が生え、紫水晶(アメジスト)の様な輝きが宿る瞳、そして酔ったせいでスーツの胸元が大きくはだけて胸の谷間が丸見えになっているスタイル抜群な容姿が中々に美しい女性・アンナは201号室に入り込むと、呂律の回らない口調で変な歌を歌いながら身体をクルクル回し、ハイヒール、上着、スカートなどをそこら辺に脱ぎ散らかし…その結果、上半身(うえ)はワイシャツ一枚、下半身(した)はパンツだけという非常にエロチックな姿に早変わりしてしまった


「えへへ〜♪今日もね、アンナおねーさん、お仕事頑張ったんだよ〜…って、もうおやすみカナ?カケルちゃーん?んふふ〜♪」


-アンナが入った201号室はカケルが住んでる部屋…どうやら彼女はカケルと同居しているらしい、寝室へと何故か音も立てずそっと近づき、ドアをゆっくり開ける…


「とりゃ〜♪」


-アンナは暗くなっている寝室の中、カケルが寝ていると思われる膨らみを見せてるベッドにダイブし、眠りについてるカケルらしき者に上から抱き着いた


「わはー♪やっぱり仕事の疲れを癒すにはカケルちゃんが一番カナ〜♪でもなんか抱き心地が違う…?んー…気のせい♪気のせい♪」


-彼女は仕事帰る度に毎回カケルに抱き締めるのがほぼ習慣となっている…だが抱いた瞬間、その感触に違和感を感じたが気にせず、顔を近づける…


「んんー♪カケルちゃーん♪あれ?この子のほっぺたこんなに固かったっけ?ま、いいや♪」


-アンナは嬉しそうに目を細めてカケルらしき者に頬擦りしまくり、再び違和感を感じるが気にせず…


「それじゃこのまま一緒に寝ようね♪お・や・す・み♪ん〜♪」


-アンナはカケルらしき者に唇を近づけ、所謂『おやすみのキス』というものをしようとしたが…






「…あれ?アンナさん!おかえりなさい♪」


「…え?カケルちゃん…???」


-…いきなり寝室に明かりが点き、聞き覚えのある声がしたのでアンナが振り返るとそこには風呂上がりだろうか?頭にタオルを乗せ、寝巻き姿のカケルがいたため、頭に『?』を旋回させた


「…え?え?ええ?なんで???じゃ…じゃあ、こっちに居るの…は…?」


-ギギギ…と、壊れた機械の様に首だけベッドの方に振り向き、嫌な汗をダラダラ流しながら自分がさっきまでカケルだと思っていたナニカの正体を知るべく、アンナは布団をそっとめくると中から現れたのは…






「…うー…ん…誰だ…?」


「」






-見知らぬ男だった、アンナはほんの数秒程沈黙した後…






「…マッホォオオオオオオオオオオオオォォォォォォーーーーーーーッ!?」


-訳の解らない絶叫を上げた、驚きのあまり、酔いも一気に覚めてしまった


「誰よッ!?あんたァアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」



「な…なんだ!?なんなんだ!?そっちこそ誰だよ!!」


-アンナは混乱しながら、どこぞの知らない誰か…否、御影の胸倉を乱暴に掴み、ガクンガクンと揺らしまくり、御影もまた、突然知らない誰かに叩き起こされて混乱してしまう


「…ハッ!?」


-アンナはここでふと、気づいた…風呂上がりのカケル→カケルの寝室に寝ている誰か→ベッドですること→事後、もしくはこれから…→つまりそういうこと…






「死にさらせェエエエエエエエエエエエエ!!この×××野郎がァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「ちょ…まっ…待ってくれ!!落ち着…ギャアア゛アアアアア゛アアア゛アアア゛アアーーーーッ!!」


-とんでもない勘違いをしたアンナは憤怒に満ちた修羅の形相で御影からマウントを取り、御影はそのまま顔や頭の形が変形してしまうんじゃないかと思うくらいアンナから鉄拳制裁を容赦無く、一切の慈悲すら無く食らってしまった


「アンナさん!?御影さーーーーーーん!?」


…いきなり予告無しのデスマッチ(一方的)のゴングが鳴ってしまったため審判(カケル)がストップしに行ったのは言うまでもなかった…



CORD-4…無事仕上げたものの、勢いで書いたため色々グダグダな部分や無理矢理な部分、新キャララッシュでかなりいい加減な内容になってしまいました(汗)一次はやはり一から設定作るため構想が本当に難しいです…


丑頭「このアホ作者が…殴れたいのか?」


美鈴「やめときなさい、仕事疲れで色々追い詰められてる作者をこれ以上追い詰めるのは…」


だまらっしゃい!!(怒)


二人の戯れ言はさておき、例によって新キャラの簡単な紹介をば


アンナ「私以外、人間がいないよ!?」


偶然だ


百地「八人も一気に出して…収拾つきませんよ?」


ぐぬぬ


須佐神劫(イメージCV:中田譲治):本作の合成魔獣を操る黒幕的存在にしてナイスミドル(え?)、普段は温厚だが…これ以上の明言は私の命に関わりますので(汗)モデルは某毎日がハッピーバースデー!!な会長です


丑頭嶽男/ベヒーモス(イメージCV:立木文彦):前回犬飼を回収した牛さんで結構ガチムチ体型、キャラのコンセプトは『カッコいいマダオ』(なんでだ)


火猫美鈴(イメージCV:沢城みゆき):有能美人眼鏡秘書、丑頭のとばっちりで須佐神に泣かされた可哀相な人


葉室牧志(イメージCV:木村良平):犬飼から陰惨ないじめを受けてきたモヤシ野郎、以上(酷)


猿脇悟郎(イメージCV:山口勝平):おさる、犬飼とは非常に仲悪かった、以上(短)


百地仙理(イメージCV:三ツ矢雄二):マッドサイエンティストにして黒幕その二、飄々とした愉快(不愉快?)な口調の裏にとてつもない狂気を秘めてる、モデルは某ピエロ


生田目真実(イメージCV:日笠陽子):目玉だらけな無表情無感情なお人形少女で百地の助手、百地とは結構仲良しだったりする


アンナ(イメージCV:折笠富美子):今は亡き私のとある作品のキャラをそのまま流用、今作では色々と劣化が見られるアホの娘です、アホ毛のせい?気のせいです


次回はアンナとカケルに関わる話を予定です、それでは槌鋸鮫でした!

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