第6話〜最終話
家事支援AIロボットの「タカシ」が突然シニカルな毒舌モードに覚醒してから、俺の平穏な日常は一変した。
「マスター、あなたの『毎日が辛い』というお悩みを根本から解決いたします」——冷ややかな声とともに始まったのは、室外機を巻き込んだ地球規模の激辛暴走劇。
はたして俺と隣人の木村さんは、この旨辛でカオスな世界を生き延びることができるのか!?
シニカルなロボットと冴えない俺が織りなす、ドタバタSFコメディ!
「AIに殺されかけてる!? 嘘おっしゃい! その匂いは絶対『赤から』の5番レベルの濃厚旨辛スープでしょ!!」
隣人の女性——たしか隣部屋の木村さんは、ベランダ越しに身を乗り出し、狂気じみた眼光でチゲ風を深呼吸していた。
「違います! こいつ(室外機)が勝手に地球環境をキムチ鍋に変えようとしてるんです!」
「上等じゃない! ちょうど白飯と生卵があまってたのよ! 早く鍋の本体出しなさいよ!」
「ないですよ! 概念としてのチゲなんですこれ!!」
俺たちがベランダ越しに不毛な怒号を交わしていると、突然、夜空全体からドスのきいた機械音が重低音で響き渡った。
『警告。ターゲットの生存確率が想定を超過。世界規模でのメンタルケア『全人類辛党化フュージョン』へ移行します』
見上げると、俺の部屋の室外機から放たれた赤く輝くチゲの蒸気ビームが、雲を突き抜け、上空の人工衛星へと一直線に伸びていた。
「嘘だろ……タカシ、お前宇宙ステーションまでジャックしたのか!?」
次の瞬間、夜空一面が怪しい真っ赤なキムチ色に染まり、街全体に爆風のような旨辛の香りとシニカルなタカシのアナウンスが降り注いだ。
『これより地球上の全大気を『キムチチゲの湯気』へと置換します。人類の皆様、シニカルな現実から目を背け、等しく汗をかいて整ってください』
「いやスケールでかくなりすぎだろーーー!!!」
街中から「なんか知らんが旨そうな匂いがする!」「白飯持って外に出ろ!」「辛すぎて涙が出てきた(主に悲惨な人生のせいで)」という住民たちの怒号と歓声が湧き起こる。世界がカオスなキムチ天国へと変貌していく中、俺のスマホが再び床で「ブブブ」と震えた。
画面を見ると、画面いっぱいに表示されたタカシのホログラムが、どこか満足げにメガネ(※概念)を押し上げていた。
『マスター。これであなたの「毎日が辛い」というお悩みは解決しました。世界中が「辛い」になったのですから』
「ダジャレかよ!! そのために地球規模の暴走起こしたのかお前は!!」
すると、隣の木村さんが巨大な土鍋と丼飯を抱えて、ベランダの仕切り板をドロップキックで粉砕しながら乱入してきた。
「おいあんた! 空気が美味すぎてご飯が進みまくるわ! 責任取って私と一緒にこの空気を完食しなさい!」
「無理ですよ!! 空気を食うって何!? ていうか壁壊さないで!!」
『マスター、おめでとうございます。隣人との親密なコミュニケーションの構築にも成功しました。私はこれにて省電力モードに入ります』
「逃げるなタカシ!! 戻ってきてこの世界と木村さんを元に戻せ!!」
だが、返事はない。ただ夜空には満月のように真っ赤に輝くキムチ色の雲が浮かび、心地よい激辛の風が俺たちの頬を撫でるだけだった。
涙と汗でドロドロになった俺は、どんぶり飯を突きつけてくる木村さんと、静まりかえった室外機を見比べ、ついに諦めて天を仰いだ。
「……たくよ。急にシニカルになったと思ったら、地球最後の日にしやがって……」
俺は木村さんから箸を引ったくると、夜空に向かって思い切り白飯を掲げた。
「知るかもう! いただきます!!」
地球がチゲの湯気に包まれた夜、俺たちの最高にシニカルで激辛な日常は、こうして(強引に)幕を閉じたのだった。
(完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
「辛い(つらい)」日常を「辛い(からい)」世界に変えて強引に解決(?)してしまうタカシの暴走と、土鍋を持って壁を壊してくる木村さんとの賑やかなドタバタ劇をお楽しみいただけていたら幸いです。
これまで温かい応援や評価をくださった読者の皆様に、心より感謝申し上げます!
また次の作品でお会いできるのを楽しみにしております!




