戦車の砲塔は何で1つなのですか~?
無事にライセンス契約が結べたそうです。
王立国家は豆戦車を売り込みたくて我が国以外にも平野国家や共和国にも売り出しているようです。
「ユーディ様~今検討中の試作2号戦車はなんで砲塔が1つなんですの?」
前回の打ち合わせから数日、シュルマン少佐以外にも兵器開発局の人たちが出入りするようになった私たちの戦車研究所にて、戦車のイメージラフを描いていたところ、ニーナ様から問われました。
そういえば、私は本で事前に”砲塔は1つで十分である”と認識していましたけれど、皆様に説明しておりませんでしたわね。
王立国家も共産国家も多砲塔戦車というものを開発していると聞きます。
大砲屋のニーナ様からすれば戦車に一杯大砲を乗せたほうが利益は上がるわけですから当然の疑問ですわね。
私も本を読むまで戦車は”陸上戦艦”だと思っておりましたので、複数の砲を積んだほうが強いと思っておりましたの。
ですが重量のかさむ砲を複数積むと、エンジン出力と車体重量の関係から装甲が割を食い防御力が確保できません。
それに、各砲の配置によっては互いに死角ができるため、折角搭載した砲の最大火力が常に発揮できないという問題もあります。
また、すべて同じ口径の砲が詰めればいいですが、戦艦の様に複数の口径を搭載すると、車内で数種類の砲弾を保管しておく必要があり運用も面倒ですし、兵站の問題も出ます。
1種類の砲に絞れば、榴弾はないけれど徹甲弾はあるなどの状況程度で、主砲弾がありませんなんて状況は回避できるはずです。
ですから、360度旋回可能な砲等が1つあればいいのです。
「そういうことですのね。
ニーナとしてはいろんな種類の砲を買ってほしいですけれど、
一つに絞れば砲弾がたくさん必要になりますわね」
「陸海軍で共通の砲弾が使えれば、より数が増えるんじゃないかしら?」
「ナイスですわユーディ様。さっそくお父様と相談いたしますわ~」
ニーナ様には納得していただけたようです。
現在ニーナ様のご実家では、海軍向けの高射砲である8.8cm砲の後端をなるべく簡略化して短くなるように依頼中です。
あとは砲撃時の反動軽減ですわね。
駐退機だけでは抑制しきれないので、最近研究されているマズルブレーキというモノの開発促進をお願いしております。
それがないと、戦車が幾ら真横を向いて打つ機会が少ないとはいえ、横を向いての砲撃でひっくり返っては意味がありません。
野砲でも反動制御は重要とのことで、是非とも進めてほしい研究です。
ただ、砲の重さが気になるところなんですよね…軽くなりませんかねあれ?
さて、主砲とは別に問題となっているものがあります。
砲塔本体です。
「ローザ様いかがでしょう?」
曲面を多用することで、少しでも板厚を抑えられないかを検討してもらっているのです。
平面にくらべて曲面であれば跳弾という効果が得られやすいと考えています。
「うーん、曲面を使うことで板厚を下げられないか、ですわよね?
私も計算しておりますし、会社からも確かに力の分散から考えて効果はあるだろうと言われましたけど、製造できませんわよ?」
「製造できない?ですの?」
「鉄板を丸めるのは大変ですのよ?
端から何回もプレスしてなんとなく円形にするんですの。
1mm程度の薄板ならまだしも、数十ミリの鉄板なんて曲がりませんわよ?」
「計算上何ミリの厚さが欲しいのです?」
「70~80mmですわね」
確かに、そんな厚さの鉄板を曲げられるとは思えませんわ…
でも、本には確か鋳造と書かれていました。
ということは、鋳物かすれば形状は自由ではないでしょうか?
「鋳造では、今度品質を維持するのが大変ですのよ?
鋳造ならある程度複雑な形状も再現できますが、
装甲にするのに巣や内部クラックなんか発生しては、砲撃を食らった衝撃でそこから破損しますわよ?
それに鋳造材は溶接に向きませんの。天板とかどうやって取り付けますの?」
「そうでしたわ…鋳造に溶接すると衝撃で簡単に割れて剥がれてしまうんでしたっけ?」
「最悪はボルトかリベット止めしかないわですわね」
どうにもいろいろな問題が有るようです。
未来知識の本があるからと言って、すべてが書いてあるわけではありません。
もしかすると今後、鋳造に向く溶接方法が発見されるかもしれませんが、無いものをねだっても仕方がありません。
他の方法でなんとか再現をしていきましょう。




