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出会いの後

読んでくださってありがとうございます!



ちょっと前回が急ぎ気味だったので、今回は足並みを揃える回になります。

あの出来事の後、僕たちは少し気まずくなってお互いに黙り込んでしまった。僕など、女子の目の前で泣いてしまったりしたので、穴があったら入りたかった。

……先に口を開いたのは、雪菜の方からだった。

なんでも、これだけは絶対聞いておきたいらしい。

雪菜は僕の目を見て、虚偽は絶対に許さないとでも言うような表情で聞いてきた。


「………二つ、拓海に聞きたい事があるの。」

「いいよ。僕が答えられる範囲なら。」

「じゃあ、一つ目。…どうして、拓海は私に貴方の過去の話をしてくれたの?」


僕は予め用意しておいた答えを言う。本当はもっと早く来ると思っていたんだけど……


「……君に違う意味で誤解されたくなかったんだ。ただ、君が失恋相手に似ていたとか、縁を切った母親に似ていた、という理由だけで嘔吐したと言ったら、君は自分の容姿の事を気にするだろうから。

悪いのは、この問題を克服出来ていない僕なんだ……だから、僕は雪菜にその話をしたんだよ。」


雪菜は、僕の予め用意してあったような、

(実際用意していた)回答に少し驚いた後、苦笑しながら言った。


「もしかして、聞かれるって分かってた?」

「まあ、うん。……流石に、初対面の人にいきなり自分の人生がどうとか話すのは僕としても不自然だと思って。」


因みに、次の質問も予想していたりする。


「そう。じゃあ二番目の質問ね?

…どうして拓海は、私の事をあんなに簡単に信じて、友達になる事を了承してくれたの?」


予想通りだった。この答えは……少し複雑だ。


「……少し信じられないかもしれない話をするけど、これは僕の夢の中の言葉と関係してるんだ。」

「……夢?あの眠っている時に見る夢のこと?」

「そう。なんというか……僕は気絶した時に見る夢で、決まって誰かの言葉を聞くんだ。」

「…言葉……」

「うん。その言葉なんだけど…………

一つ目が、僕が一ヶ月前に聞いた言葉。

” 自らの境遇を受け入れ、自身の一部とする時、救いが訪れる”

……そして二つ目が、

”自らの恐怖を受け入れ、自身の一部とする時、救いが訪れる”」


雪菜は僕の話を聞いて少し困惑したようだった。


「その言葉がどうかしたの?」


今から話す事は、僕もつい最近気づいたものだ。


「僕がこの言葉を実践すると、僕の中の考え方が変わった。今まで辛い事があっても逃げるだけだったのに、僕はそれをしなくなったんだ。」

「……つまり、その言葉に従うと、拓海にとって良い事が起こるってこと?」

「まあ、一概に良い事とは言えないけど……」


僕にとって、辛いことから逃げないと、いうのは、心を傷つける覚悟がある、という事だ。


「………今の話で行くと、拓海は私の事を”恐怖”だと思っていた事になるけど………」


雪菜は少し悲しそうな顔をして言った。


「……君にそう思われても仕方ないよね……だけど違うんだ。僕が恐怖した対象は、雪菜じゃない。」

「……私じゃなかったなら、何を恐れたの?」

「僕が恐れたのは、君と関わりを持った上で、君に何らかの形で裏切られる事だった。」

「………なら、どうして私を信じたの?」

「…逃げたらいけないって思ったんだ。……それと、君の本当の笑顔を見たら、”この人は裏切らない”って確信を持てた。だから君の申し出に即答したんだ。」

「本当の……笑顔………そっか。うん。分かった。」


そう言って、雪菜はあの極上の笑顔を見せた。

途轍もなく魅了的なその笑顔は、僕を惚けさせるのには十分だった。

と、そんな時、


「失礼します」


大輝が入ってきた。後ろには女性の医師も付いている。どこか雪菜に顔立ちが似て、美人な医師は僕達を見ると、少しバツが悪そうに言った。


「取り込み中悪いですが、点滴の時間が過ぎたので。もう退院してもらっても構いませんよ。」


点滴、と、退院、という言葉を聞いて、僕はある事に気がついた。

(お金……持ってきてない……)

点滴ならまだしも、一日入院させてもらっているのだ。流石にそんな安い額ではないだろう。

そんなかなり不味い事態に気がついた時、後ろにもう一人誰かが立っているのが見えた。


「……父さん?」

「おお、拓海。大丈夫か?昨日大輝くんから連絡があって、気絶したとか聞いたんだが……」


すると、医師が口を開いた。


「息子さんの容体は良好ですよ。少し精神が衰弱していたと確認していましたが……今は、大丈夫そうですね。」

すると父さんはホッとした表情をし、

「そうですか。ありがとうございました。」

そう言って頭を下げた。

すると、その医師は慌てた様子で、

「とんでもない!娘のせいで、息子さんを気絶させてしまったのはこちらです……これくらいの事はさせていただかないと……」


(……ん?娘?)

僕は医師と雪菜を交互に見て、首を傾げた。すると、雪菜が説明してくれた。


「私の家は病院をやってるの。今回の事はこちらのせいだから、お金とかは気にしなくていいよ。」

雪菜の言葉を聞き、医師はこちらに向かって頭を下げた。

「本当に、娘がすみませんでした。娘の言う通り、お代は結構ですので」

僕は医師が頭を下げるのを見て、慌てて同じ様に頭を下げた。


「あっ、いえ。こちらこそすみません。個室を丸々占領しちゃって……」

「いえいえ、むしろ娘と仲良くなって下さって嬉しいです。この子、警戒心が強いので男友達がいないんですよ。」

(意外だ。誰とでもこんな風に接すると思ったけど……)

「お母さん!あんまり私の事喋らないで!」

「はいはい。…あ。後、雪菜といい関係になったら教えて下さいね?」

「お母さん!!」

「…はーい。私は退散しますよ。ごゆっくりどうぞー」

「……俺も外で待ってるぞ。さっさと来いよ、拓海。」

「……父さんも先生と話してくるから。」


そう言ってみんなは病室から出て行ってしまった。雪菜のお母さんは、最初感じた印象とは程遠い人だった。

(……真面目な人かと思ったら違った……)

雪菜を見ると、少し顔を赤くして俯いてしまっている。

両手を膝の上で組み、そわそわと動かしている。恐らく恥ずかしいのだろう。

(……とりあえず、適当に話を振るか)


「あー……お母さん、面白い人だったね。」

「いつもあんな感じなの。もう本当に恥ずかしい………」

「まあ、それは置いといて。意外だったよ。男友達がいないなんて。」

すると雪菜は少し俯いて言った。

「拓海は、私の容姿を見て何も思わない?」

(そんな訳ないだろう。)

「いや、凄い美人だなとは思うよ。」

「そ、そう。ありがとう………それでね?私、この容姿のせいで中学校の時にやたらと告白されてたの。」


それは理解できる。近くにこんなに美しく、更に性格も良いという美少女がいるのだ。

僕は続きを促した。雪菜は頷いて話を再開する。


「それでね、一度私に告白してきた人に聞いてみたの。”どうして私の事を好きになったの”って。」

「……そしたら?」

「その人は、”以前話しかけて貰えたから”って言ったの。……正直、なんでそんな事でって思ったけど、それを聞いた私は、自分が何か男子に行動するだけで影響を及ぼしてしまう事に気付いたの。…だから、これ以上勘違いされないように男子とは仲良くしないようにしてるの。」


納得しながらも、僕は疑問を抱いていた。


「ねえ雪菜。」

「何?」

「なんで告白を受けないの?気に入った人とかいたんじゃない?それとも好きな人が居たとか?」


すると、雪菜は何故か顔を苺のように真っ赤にしてしまった。


「ひ、秘密なのっ!それは秘密っ!」


焦ったように言ってくる。……まあ、秘密なら聞かない方が良いか。


「わかったわかった。もう聞かないから。雪菜は男子を勘違いさせない為に仲良くしません。これで良いんだろ?」

「そ、そうなの。仕方なくやってる事なんだ……」


……これは確かに仕方がないと思う。

普通の思春期の男子とは、すぐに女子が自分に対して恋愛感情を持っていると勘違いしてしまうような生き物なのだ。

雪菜の対応は正しいと言える。

(……まあ、友達を作るとか作らないとかは個人の自由だしな。僕も大輝以外友達いなかったし。)

疑問が一応晴れた僕は、時間も時間なので病院からお暇することにした。


「それじゃあ、僕はそろそろ帰るよ。ありがとう、色々と。」

「……もう帰っちゃうんだ………私の方こそありがとうね。」

「おう。」


僕達が病室のドアを開けて廊下に出ると、スマホを弄っている大輝と目が合った。大輝はそれを振りながら近づいてきた。


「よう、大丈夫そうだな。」

「ああ。ありがとな、わざわざ病院まで来てくれて。」

「おう。あ、お前の親父さん、下で待ってるから早く行こうぜ。」

「了解。雪菜も行こう。」

すると、雪菜は大輝の方を見て何かを言おうとしていた。

「うん。……あの、九条君」

「ん?」

「今日はありがとう。」

「あぁ、別に良いよ。俺としても拓海となんて嬉しいし。」

二人が何の事を話しているか全くわからない……

「……何の話だ?」

「拓海には関係ないな。」

「拓海には関係ないの!」

「そうですか……」


二人してこうも言い張られれば、僕に関係あることだと思ったりしてしまうだろうに……

まあ、あんまり知りたがりなのも良くないし、

“好奇心は猫を殺す”とも言うしな。

きっと僕には関係ないのだろう。うん。関係ない。

無理矢理自分を納得させ、この話題を忘れるように努めた。



階下に降りると、父と雪菜のお母さんが話し込んでいるのが目に入った。


「父さん、準備出来たよ。」

「ん?ああ、拓海か。ちょっとそこで待ってろ。……じゃあ、そういう事で良いんですね?そちらの了承は得たという事で。」

「勿論です。こちらとしても嬉しい限りですから。」

「……分かりました。それじゃあ、ここらで御暇させて頂く事にします。」

「はい。また詳しい事は後ほど。」


ニヤニヤと、あたかも何かを企んでいるかのような表情で話す二人。少し挨拶をした後、父さんはこちらにやってきた。


「待たせたな。行こうか。大輝君も。」

「うん。」

「はい。」


どうせ何の話をしていたのかは教えてくれないのだろう、と思った僕は何も聞かない事にした。


「じゃあ、またね雪菜。次は……」

「合格者説明会があるよ。そこでまた会おうね!」

「ああ……そう言えばそんなものがあったな」


よく覚えているものである。というか、覚えていない僕がおかしいのだけど。


「じゃあ、そこでまた。お母さん、じゃなくて月城さんも、失礼します。本当にありがとうございました。」

「良いのよー。義母さんって呼んでも。」

「ははは………」


字も何か違う気がするし、何より隣の雪菜の表情が凄い事になっている。僕は曖昧に笑って流すと、そそくさと病院を後にした。


帰りは、父さんが乗ってきた車に乗って帰ることになった。

僕は病院でしっかりと眠っていたはずなのに、何故か寝てしまっていた。

起きてからまた疲れたのだろう。


目が醒めると家に着いていて、既に大輝は車を降りた後だった。父さんは何故か車のエンジンを止めずに運転席に座っている。僕が寝起きの顔でぼうっと眺めていると、父さんが喋り出した。


「なあ拓海。雪菜ちゃん?だったっけ。あの子とは仲良くしておけよ。」

「え?どうして……」

「どうしてもだ。ちゃんと毎日話して、学校でも一緒に居てやれ。」

そんな父さんの言葉は、まるで僕と雪菜が分かれる運命にあるかのように言っているようにも見えた。


「……あ、勘違いするなよ?今後引っ越したりとかしないからな?別に雪菜ちゃんと会えなくなったりするわけじゃないから、安心しろ。それに、俺が言っているのは……あ、やっぱり駄目だ。教えられない。」


杞憂だったようだ。というか、美少女と育んだ時間が儚く消えるって、どこの悲恋小説だよ。

普通ハッピーエンドだろうが。

後味悪いだろうが。


ふぅ。…………僕の妄想を揶揄するのもこれくらいにしようか。…それに、今の父さんの言葉が気になる。


僕はやっと完全に覚醒した頭を使って、父さんに聞いた。


「さっきのは何?気になるんだけど。父さんが言ってることって?」

「だから、駄目だって言ってるだろ。こればかりは教えられん。」


……滅茶苦茶気になるんだけど!


その後も家で父さんに色々な手を使って聞き出そうとしたのだが、情報は全く得られなかった。

どうやら、父さんは本当に教える気がないようだ。

あまり深追いし過ぎるのも良くないと思い、僕は引き下がった。


その日、ベッドに入ると、今日見た雪菜の美しい動作や表情が脳裏に浮かんで中々寝付けなかった。









読んでくだってありがとうございました。



面白いと思った方は、評価、感想等よろしくお願いします!




又、別作品

「微妙な関係の幼馴染との距離をゼロにするまでのお話」

も是非ご覧ください!

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