嘘つきは正義の始まり
さて、これからどうするかな。
てか、そもそもクリア条件ってなんなんだ?
説明不足すぎんだろ!?
そのとき、頭の中で声が聞こえた。
『初めまして、私の名前はーーノヴァ』
「は?」
思わず立ち止まる。
『あなたの現在地は“第一世界:パラドックスワールド”』
淡々と、感情のない声が続く。
『クリア条件は――1ヶ月後に侵略してくる悪魔を討伐することです』
「なるほどな、大体は理解した。それまでは、何をすればいいんだ?」
『基本的にはご自由に過ごしていただいて構いません。ただ、時々ミッションが課されることがあります』
俺は歩きながら聞く
「ミッション?」
『はい、そのミッションに成功すると、あなたの有利となるアイテムや、能力を手に入れることができます』
「つまり、基本はやったほうがいいってことだな」
『そういうことです。』
「えっと、所持金とか、学校とかは?」
『設定は、あなたは大学生で東雲学園に属しています。』
「そんなこと言われても場所わかんねぇつーの」
『あなたが「マップ」と唱えると、マップを開くことができます』
意外に理不尽設定ではないのか?
『その他の設定が必要になった際は、私ノヴァが説明させていただきます。』
『クリアされることを心から願っております。』
「は?説明少なすぎだろ!」
ーー返事は帰ってこなかった
「はぁ、」
ーー前言撤回だ。思いっきり理不尽設定だった。
「とりあえず、ここはどこかとかの情報が必要だな」
「マップ」
その瞬間、目の前の空間が歪んだ。
まるで空中にガラスが浮かび上がるみたいに、半透明の画面が展開される。
「……おお」
思わず声が漏れた。
そこには街の全体図が表示されていた。現在地は青い点で示されている。周囲には建物の名前、道路、駅――
普通の地図だ。
ただし、一つだけ異常があった。
「……なんだ、これ」
ある地点が、赤く点滅している。
「……嫌な予感しかしねえ」
指で点滅をなぞる。
すると、ポップアップが開いた。
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【ミッション発生】
対象地点:東雲駅前交差点
発生時刻:現在〜00:02:30
内容:対象の死亡を防げ
報酬:???
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「は?」
思わず声が出る。
「いやいやいや、急すぎだろ」
しかも――
**00:02:17**
画面の端に、小さくカウントダウンが表示されている。
「……クソが」
舌打ちする。
だが、考える時間はない。
視線を地図に戻す。
東雲駅前――ここから徒歩で、数分。
「……間に合うか」
足が自然と動いていた。
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人混みをかき分ける。
東雲駅前交差点。
信号待ちの人間、スマホを見ているやつ、友達と話しているやつ――
どこにでもある、普通の光景。
「……どいつだ」
視線を走らせる。
「対象の死亡を防げ、ね……」
つまり、この中の誰かが――死ぬ。
その時、
キィィィィィッ!!
ブレーキ音。
「っ!?」
反射的に振り向く。
車が一台、スピードを落とさず交差点に突っ込んできている。
「おい、信号――!」
赤だ。
完全に無視してる。
前方には――
「……あいつか!」
イヤホンをしたまま、気づいていない男。頭には、「回数:3」と表示されている
このままだと、確実に跳ねられる。
距離は――間に合わない。
「クソッ!」
走る。
でも届かない。
間に合わない。
――だったら。
頭の中に、さっきの言葉がよぎる。
“嘘を現実にする能力”
考える時間はない。
車は、もうすぐそこだ。
「……やるしかねえだろ!」
叫ぶ。
「――あの車は、止まる!」
言った瞬間、
空気が、歪んだ。
一瞬だけ、世界が軋む。
次の瞬間――
ガンッ!!
ありえない角度で、車が急停止した。
「……は?」
運転手がパニックになっている。
タイヤが悲鳴を上げ、車体が震えている。
だが――止まっている。
男の目前、数センチの距離で。
「……マジかよ」
呼吸が荒くなる。
今の、俺がやったのか?
ただの偶然――じゃない。
「……嘘が、現実に……?」
「……マジで使えるのかよ」
震える手を見る。
だが――
違和感。
「あ、」
トラック運転手と轢かれそうになった男の上に出ている回数が、「2」になっている。
つまりあれは、能力を使える回数ってことなのか――
そのとき――
『補足説明を行います』
「……遅えよ」
『本能力は、“あなたが発言した言葉”を現実に変換します』
『ただし』
その一言で、空気が変わる。
『矛盾する内容、または過剰な改変は“反動”を伴います』
「……反動?」
次の瞬間。
ズキン、と頭が痛んだ。
「っ……!」
視界が揺れる。
軽い吐き気。
「これ、か……」
『小規模な改変のため軽度で済んでいます』
「軽度ってレベルかよ……」
もしもっと大きな嘘をついたら――
どうなるかは、考えたくない。
『そして、先ほどあなたの予想通り、特定の人物に対する能力の使用は回数が制限されています。』
なるほどな、大体は理解できたーー
だが一つだけ、確かなことがある。
「……使えるな」
視線を上げる。
さっき助けた男は、何が起きたか分からないまま立ち尽くしている。
周囲はざわついているが、事故にはなっていない。
――つまり。
『ミッション達成』
画面が浮かび上がる。
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【ミッションクリア】
報酬:スキル《簡易思考加速》
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「……思考加速?」
新しい力。
だが、それよりも――
「……これが、“この世界のルール”か」
嘘をつけば、現実が変わる。
でも、代償がある。
万能じゃない。
むしろ――
「……使い方ミスったら終わるタイプだな」
小さく笑う。
楽しくなってきた。
最悪で、理不尽で――
でも、攻略しがいはある。
「……いいじゃねえか」
空を見上げる。
「やってやるよ、このクソゲー」
その言葉が、ほんの少しだけ現実を歪めた気がした。
――気のせい、じゃない。
「……今のも、反応したのか?」
ぼそりと呟く。
さっきの“嘘”は、明確に意図していた。
でも今のは、ただの独り言だ。
『発話内容を認識』
すぐに、ノヴァの声。
「……マジかよ」
『ただし、発言内容に明確な意思が含まれていない場合は現実改変に至りません』
「……ああ、なるほどな」
つまり、“やってやる”と思っただけじゃダメ。
軽く首を振る。
そのとき、ポケットが震えた。
「……ん?」
スマホ。
取り出すと、見覚えのない通知が表示されている。
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【東雲学園】
本日1限:現代社会
開始まで:00:18:42
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「……は?」
思わず固まる。
「……ああ、そういや」
ノヴァが言っていた。
“大学生設定”。
「いやいやいや、今それどころじゃねえだろ」
『通常生活の維持は推奨されます』
タイミングよく、ノヴァの声。
「は?」
『周囲との関係性は、今後のミッションに影響を及ぼす可能性があります』
「……つまり?」
『学園への登校を推奨します』
「……マジかよ」
ため息が出る。
命懸けのゲームやらされて、そのあと普通に大学行けってか。
「……企業だったら確実に労基違反だな、、、」
ぼやきながらも、スマホの画面を見る。
“東雲学園”。
地図アプリらしきものも入っている。
「……行くしかねえか」
情報が少なすぎる。
この世界を知るには、人の中に入るしかない。
「マップ」
呟くと、空中に半透明の地図が展開される。
「……おお」
さっきよりも情報量が増えている。
道順、時間、混雑状況まで表示されている。
「これが思考加速か……」
ルートが自然と頭に入ってくる。
考えなくても分かる。
「便利すぎだろ」
東雲学園までの道が光る。
徒歩で十五分ほど。
「……ギリ間に合うな」
スマホをポケットにしまい、歩き出す。
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街は、変わらない。
さっき人が死にかけたとは思えないほど、普通だ。
「……現実ってこんなもんか」
誰も気づかない。
少しのズレも、すぐに日常に飲み込まれる。
俺だけが、それを知っている。
「……で、その日常に混ざれってか」
苦笑する。
だが、悪くない。
情報も集まるし、拠点にもなる。
「……問題は」
足を止める。
前方に見えてきた。
大きな校門。
「ここか……東雲学園」
普通の大学。
何の変哲もないはずの場所。
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キャンパス内。
学生たちが行き交う。
笑い声、会話、日常の音。
「……ほんとに普通だな」
見た目は、どこにでもある大学だ。
学生が行き交い、笑い声が響く。
さっきまで“命の危機”があったとは思えないほど、平和な光景。
「……ほんとに同じ世界かよ」
ぼそりと呟く。
だが――
違和感は、消えない。
むしろ、さっきより強くなっている。
「……なんだ?」
視線を動かす。
特別おかしなものはない。
なのに、どこか引っかかる。
人の動き。
会話のテンポ。
視線。
「……ズレてる?」
うまく言葉にできない。
ただ、“普通”に見える何かが、ほんの少しだけ歪んでいる。
そのとき、
『スキルの影響です』
ノヴァの声。
「……思考加速か?」
『はい。情報処理能力の向上により、スキルを使用していない時と比べ、感覚が異なることがあります。』
「……つまり?」
『慣れれば問題ありません。』
「おい!」
結構あいつ適当だな、、、
歩きながら、周囲を観察する。
笑っている学生。
スマホを見ているやつ。
急いでいるやつ。
どれも普通だ。
「やべ!授業まであと30秒しかない!?」
俺は大急ぎで、講義室へと走るのだった。




