10話
夜、俺はここに来て初めて宿に泊まった。
受付のお姉さん――ナナさんと言うらしい――が良い宿を教えてくれたのだ。優しい。
ご飯も出来立てを食べ、今はベットでゴロゴロしているが······超幸せ。もう数日は動きたくないなぁ。でもお金無くなったし、働かないと明日も宿泊まれないし·······誰がやってくれないかなぁ。
そう思いながらも冒険者ギルドでの事を思い出す。あの阿呆の事ではなく、本についてだ。植物図鑑や魔物図鑑。歴史の本があったりしてとても役に立った。
中でも10の迷宮については興味を惹いたよ。何時からあるかわかっていない魔物巣窟は今だ1つとして攻略されていないようだ。是非とも言ってみたい······観光気分で。
ふぁ··········寝よう。
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黒くて白い、なにもない場所。
視線の先には果てはなく。
只一人、そこにいた。
『それ』には深い悲しみと、しかし大きい幸福を持つ。
―――“待っている”
碧は確かにそう感じたのだ。
そこで現実は覚める。
誰も気付きはしない。
何もない、出来事だった。
□□□
今は冒険をするために冒険者ギルドにいる。
「おはようございます」
「はい、おはようございます。アオイさん」
「これお願いします」
「畏まりました·····薬草の採取ですね。これは常用依頼となっていますので何時でも持ってきて頂ければ買い取りますので覚えておいてくださいね」
折角図鑑で確認したのでお試しで受けることにした。説明を聞くと薬草類の他に爺さんが言っていたムーラムの心臓も常用依頼に入るようだ。見付けたら狩ろう。
「······アオイさんは、昨日もその格好でしたよね。何でですか?」
ナナさんが私的な話をしてきた。
あれ、匂う? ちゃんと洗ったんだけど。
「···あ! 臭うとかそう言うことではなく!」
服に鼻を近づけて嗅いでいると慌てて訂正してくれた。臭いではないらしい、よかった。
「そうではなく、単純になんで着ているのか気になりまして」
あぁ、そう言うこと。
確かに今から冒険に行く格好とは思えないよな、執事服。
「それはですね。着心地がとても良いので脱ぎたくないんですよ」
そう、これ俺がここに来る前に着ていた服と同じ位に気持ちいいのだ。それに格好いいし、脱ぐ理由も特になかったのでそのままにしている。
「なるほど。確かに、気持ち良さそうですね」
「はい、そうなんです」
「答えて頂きありがとうございます」
「いえいえ、じゃあ行きます」
「お気を付けて」
「ナナさんも頑張ってください」
社交辞令とはいえ、女性に心配されると嬉しくなるもの。頑張ろう、薬草採取。
次回
5月22日