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2 マリン村へ!

 まことはしばらくの間言葉が出てこなかった。

 自分自身がゲームの世界に来てしまっている。そんな仮説をすぐには飲み込むことが出来なかったのだ。

 しかし、目の前の少女と男性。彼女達はどう見ても日本人ではなく、その服装も初めて見るような者であった。

 そのことが、違ってほしいと願いつつも自分の仮説が正しいと認めざる負えない状況を作り出している。


 本当に俺はアリストファンタジアの世界に来てしまったのか??

 でもさっき言っていたシューストヘッグ王国はゲームの舞台になっていた国と同じ名前だ。

 それにマリン村……。これは俺がスタート地点に選んだ村と同じでもある……。


 アリストファンタジアではスタート場所をシューストヘッグ王国の東西南北に位置する4つの村から選ぶことが出来る。

 東のディーマン村。北のジグハ村。南のポポグリ村。そして西のマリン村である。

 プレイヤーは選んだ村で必要最低限のスキルや資金、そして職業を選択し、そこから王都へ出発。

 その行程で仲間や武具を手に入れながら国に起っている様々な問題を解決、そして王都で国王との謁見を果たす。

 だが、そこで魔帝と呼ばれるシューストヘッグ王国を手に入れようと暗躍する魔物が現れ王女を誘拐。

 その魔帝の後を追い、魔帝を倒し王女を取り戻す。

 

 とまぁ、よくあるRPGのゲームなのだがそのグラフィックの完成度や美しさ、そしてキャラクターの個性、ストーリーの濃さなどが重なり世界中で爆発的な広がりを見せたのだ。


 でも俺は確かにこのゲームをそれこそ廃人と呼ばれる一歩手前までやり込んではいたが、まさかゲームの世界に来てしまうとは思ってもいなかった……。

 これが俗にいう異世界転移というものなのだろうか???


 だがしばらくして、真がしばらく何も言わず考えこんでいる姿にしびれを切らした男性が口を開いた。


 「おい、そこの男! 貴様は一体何者なのだ?? それにこの見たことも無い建物は何なのだ???」


 「な、何者と言われましても……。俺、いや私も何が何だかさっぱりでして、気が付いたらここにいたんです……。 あ、それとこれは私が経営している店、まぁいわゆるホームセンターという奴ですね、アハハ……。」


 「ほーむせんたぁー……? な、何だその舌を噛みそうな名前は……。」


 男性は俺の言葉に顔をしかめながらも店へと近づいていき、入り口近くに置いている苗や園芸用品、石材などを見て回り始める。

 男性はそこに置かれている見たことも無い物の数々に徐々に興奮し始めた。


 「な、なんだこれは!! どうしてこのように石材がどれも同じ形で切り出されているのだ!! しかも様々な色もついている……。こちらは陶器かと思えばなんという軽さだ!! しかも少し柔らかいぞ?!」


 「あ、それは菜園用のプランターです。プラスチック製なのであまり強く力を加えると壊れるかもしれませんよー?」


 「ぷらすちっく?? また変な名前の物なのだな……。 お、お嬢様!! この建物の中、どういう訳か明るいですぞ!! しかも見たことの無い物が所狭しと……!!」


 男性は俺の言葉で手に持っていたプランターを元の場所に置き、入り口のガラス製のドアから店の中の様子を覗き込み、さらに声を荒げた。

 その様子に、ユイは口に手を当て笑いを堪えるのに必死な様子だった。


 「プクククッ……。ジルターがあんなに楽しそうなのを見るのは何年ぶりかしら……。」

 

 「な、何だか楽しそうですね……。」


 「……えっ、いやすみません! つい彼の様子がおかしくて……。 ジルター!! はしゃぐのも結構だけど、その前にこの方にご挨拶をしないとだめでしょ?」


 「うっ……。も、申し訳ありませんお嬢様……。」


 ジルターはユイの声に驚き振り返ると、服の乱れを整えながら真の元へと戻ってくるのだった。

 そしてゲームの世界と同様の胸に手を当て頭を下げるという挨拶を行い真に口を開いた。


 「先ほどは失礼した。私はマリン村を預かるミスト家で家令をしているジルタ―・イグハルトと申す者。それにしても、貴殿の店……。確かほーむせんたーと申したな。これほど珍しい品が無数にある場所は初めてだぞ! 一体どこから仕入れているのだ??」


 「あ、これはどうも……。私は梶野真と申します。んー、どこからと言われても……。えっと、日本からです……。」


 「二ホン……、聞いたことがないな。だがこのような品々が作れるほどの文明が発達しているのだ、さぞかし素晴らしいところなのだろうな!!」


 ガハハハハッ!! ジルターは真の言葉に大きく笑いながら答える。

 その表情には早くも真を警戒している様子がなく、真もただただ作り笑いを浮かべ答えるのだった。


 でもさっきの挨拶の仕方とマリン村を預かるミスト家という言葉ではっきりしたな……。この世界は確実にアリストファンタジアの世界、もしはそれに類似した世界だ。

 でもゲームにはこのジルターさんも、ユイさんも出てこない。いや、マリン村はゲームの出だしで少し滞在する程度、ただ知らないだけか……?


 しばらくすると、俺達の会話を聞き少し考え込んでいたユイが俺に声をかける。


 「マコト様。今回は我が家の家令が本当に失礼なことをしてしまいました。つきましては我が家にてそのお詫びと言っては何ですがおもてなしをさせていただきたいと思います。どうやら話を聞いているとマコト様は知らぬ間にこの地へ来ていたご様子、父に聞けば何か理由が分かるかもしれませんし。」


 「ユイさんのお家にですか……。」


 ユイは俺の言葉に笑みを浮かべ小さく頷いた。 

 だが俺はその申し出にすぐに答えることが出来なかった。


 確かにいつまでもここで時間を潰すのももったいない。ただこの人達を信用してもいいのか??

 俺を殺してこの店を乗っ取るという魂胆なんじゃ……。

 でも、これはチャンスであるもかもしれない。俺がどうしてこの世界に来てしまったのか、その手掛かりを少しでも掴める可能性があるのなら……。


 俺はしばらく考えた後、ようやく首を縦に振り、ユイの提案を受け入れるのだった。


 「分かりました。その申し出、受けさせてもらいます。」


 「よかった!! それじゃあ早速参りましょう!」


 「あ、でもこの店が……。」


 俺がユイさんの出方を探るためホームセンターの事を口にすると、それを聞いていたジルタ―が口を開いた。


 「それなら心配ない。ここら一帯はお嬢様の私有地、誰かが勝手に入ることはまずない。」

 

 えっ、この辺り全て……?? いや周りは森や田畑が延々と続いているだけなんだけど……。

 ミスト家ってそんなに金持ちだったのか……。


 「そういうことです! ですからマコト様はどうぞ我が屋敷へ!」

 

 「わ、わかりました……。」


 こうして、俺は自分の置かれている状況を把握するためにも、ユイミストと共に彼女のミスト家の屋敷へと向かうことになったのだった。













 「お嬢様、お帰りなさい!!」


 「ユイ様! 見て下さい、今日も魚がこんなに!!」


 「ユイ様!!!」


 真がユイ、ジルタ―と共にホームセンターがあった場所から30分程度真っすぐに続く道を進んでくるとそこに一つの村が見えて来た。

 さらに村が近づいてくるにつれ行きかう村人の数も増えていき、彼らはユイの姿を見つけると全員が嬉しそうに声をかけるのだった。

 そんな彼らにユイも丁寧に答えていく。


 どうやらユイさんはとても領民から慕われているようだな。

 まぁ、ユイさんは美人なうえに性格も良さそうだし慕われるのも分からなくもないか……。


 「ハハハハ、お嬢様はああして誰にでもお優しいのだ。それがお嬢様の良いところであるのだがな。」


 「はぁ、なるほど……。」


 俺の隣まで来たジルタ―は、まるで俺の心の中が分かっているのか笑みを浮かべながら話しかけて来た。


 顔に似合わず勘がいいな、このおっさんは……。

 

 そうこうしている内に、真達はようやくマリン村へと足を踏み入れた。

 マリン村は村の周りを川で囲まれた村であり、村に入るためには西と東にある橋を渡る必要がある。

 村の中は多くの人々が行きかい、その中には少なからず獣人などの亜人達も混ざっている。

 家屋や建物は、多くが石やレンガを積み上げて作られており、その光景はまるで中世の世界のようである。


 この感じ、本当にゲームの世界とそっくりだ!!!

 いや、現実に自分の目で見ているからもっと鮮明なのだがそれでも何だか感動する……。

 それにミスト家の屋敷、確か村の中央にあって、このままいけばもうすぐ……。


 村の風景に感動を禁じ得ない真だったが、その想像通りしばらく村の中を進むと見覚えのある建物が姿を現した。

 それは他の家屋よりも巨大な屋敷、まさにアリストファンタジアに出てくるミスト家そのものであった。


 「……こりゃ、疑いようがないな。」


 「何かおっしゃいましたか、マコト様?」


 「え、いや何でもありませんよ!!」


 「そうですか! では参りましょう!!」


 俺は本当にアリストファンタジアの世界に来ているようだ……。


 俺の答えにいつものように笑みを浮かべたユイさんは、鉄で出来た柵の様な門を開け屋敷へと進んでいく。

 その後に続き、俺も小さく息を吐いた後屋敷へと進んでいくのだった。

 屋敷の中はとにかく広く、門を入ってからもしばらく庭が続き、目の前に見える建物が近づいてこない。


 「お帰りなさいませ、お嬢様!」

 

 ようやく建物の入り口に到着し、メイドらしき人達の出迎えを受けたユイ、そしてジルターは建物の中へと進み、俺もその後に続いた。

 屋敷の中はまさにゲームの世界そのもの、入ってすぐに巨大な階段、そして巨大な一枚の鏡が姿を現したのだ。


 この鏡、やっぱりあるのか。ネットでは何か意味があると思ったらなんでもなかった物第一位に選ばれてたっけ。

 …………、え、なにこれ。


 ここで俺はあることに気が付く。いや、どうして今まで気が付かなかったのかその方が不思議な程の事なのだが、今まさに気が付いたのだ。

 部屋着にしているジャージ、これはいつもと変わらない。

 ただその上、首から上には見慣れないものがある……。


 「……これ、俺の顔じゃない!!!」


 いやそれよりもこの顔、まさか!!


 そう、俺はこれまで自分がこの世界に来たと思っていたがそれは誤りであり、いつもゲーム内で使用していた作成したキャラクターの姿でこの世界に来ていたのであった。

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