タワー攻防戦
明くる日の早朝。
スーツを身にまとい、ホテルを後にする。
予告の時間までは余裕があるが、現場の下調べはしておいて損はないだろう。
「さて、一人120度ずつの受け持ちだけど、見取り図で気になるところはある?」
車に揺られながら、マリさんが訊ねる。
「いえ、死角などは事前にチェックしてますので、問題ありません」
「こっちもないかな、ただ、出来ればお嬢様が180度くらい受け持ってくれるとありがたいんだけど」
「まぁ、出来る限り私もカバーするつもりだから」
「本当に今日行われるんですかね」
「無駄骨ならそれでいいけどね。ただ、私が魔界に居るってなると、信憑性は高くなるわね」
「公安に確認したけど、やっぱり今日みたいだね。テロ組織の幹部が入国したみたいだ」
「そんなん何で入国させるんですか」
「いやあ、容疑者ってだけで、前科が無いからねぇ。ちょっと入国禁止は厳しいんだよ」
「魔界も色々しがらみが有るのね」
「ぶっちゃけ、しがらみばかりですよ。種族多いんで」
「その癖、純血主義とかも少なくないからね、レミリアはその分のしがらみも抱えているしね」
「さらっと人が気にしている事を言わないでください」
「おっと、これは失敬」
そんな話をしていると、展望タワーの姿が見えてくる。
早朝だけあって、人影はまばらだが、これから増えてくるだろう。
既に警察の検問はしかれ、見るからに偽装車両であろうものも道端に見えていた。
「さて、時間までタワー周りの調査をしましょう。それに探知系の器具のチェックも行いながらね」
「了解です」
タワーの直ぐ麓に車両を止め、まずは外周を回る事にする。
タワーを支える四本の柱、付近の構造物、ゴミ箱に至るまで、気になるところは全て検査機器にかけた。
「まぁ、ここいら辺はやっぱり、捜査している、か……」
「少し安心しましたけどね」
「ええ、やっぱり時間までは何も起こらないかもしれないわね」
「それはちょっと、望めない事かもしれないね、お嬢様」
「不吉な事を言うじゃない?」
「そこの前から来る三人組、気付いていない訳じゃないよね?」
確かに歩き方や存在感が、プロのそれだ。
「こっちの味方じゃないの?」
「いや、ブックマンの端くれとして、一度見た人間は忘れないよ。昔の同業者だ」
「アサシンって事ね」
「ああ、金で何でもするって感じのね。テロ側と繋がっている可能性は低くない」
「大事の前の小事、片付けちゃいましょう」
「はいはい、仰せのままに」
アレックスが動き出そうとした瞬間、男達は懐から物を取りだした。
銃? こんな天下の往来で!?
腕輪で強化された動体視力が、ゆっくりと確実の男達の動きを捉える。
ん? 白旗?
「っと、何だなんだ?」
飛び掛かろうとしていた態勢を止めるアレックス。
「白旗って事は、降参って事? 異世界の風習だけれど」
両手をあげながら、こちらに更に近寄ってくる三人。
一体全体どういう事だ?
時折通る人が怪しそうに男達を見ている。
「この通り、戦う意思は無い。話をしたいんだ」
「話? 忙しいんだけどな? 誰かに雇われているんじゃないのかい?」
アレックスは舌なめずりしながら、質問をかけた。
「知っているかもしれないが、今日行われる事についてだ」
「そう、それのせいで忙しいんだよ。時間を割く程の事なのかな?」
「ああ、俺達にもお声がかかった。だが、計画を知って、俺達はアンタらに付きたいんだ」
「信用できないね」
「頼む、俺達のような稼業は信用が命なのは、アンタも知っているだろう? 静寂の仕事人、アレックス、アンタなら」
「だけど、君達はどうにもこうにも金に弱いじゃないか」
「どうしたら信用における?」
「情報と交渉次第だ。何が目的だい?」
「まず、今日のイベントで打ちあがる花火は四発。それぞれ柱が目的だ」
「証拠は?」
「全てを把握している訳ではないが、その内二発の発射場所を知っている。それを調べてもらえば分かるはずだ」
「そうか。なら聞くだけ聞こうか、君達の目的は?」
「ああ、俺達は異世界からの移民だ。しかも三人とも同じ世界からの。突然、同時期にこっちに来たんだ」
「そりゃ珍しい事だね。今からでも移民局に行く事をお勧めするよ」
「それで、だ。愛着があるんだよ、魔界によ」
「重ねて珍しいね」
「確かに汚い仕事はやってきた。今回だって、そこのご令嬢を仕留めろって依頼を受けた。けど、主な目的はテロだっていうじゃねぇか。そんな仕事は御免だね、そもそもミストラル家の次期当主に仕掛けろなんざ、自殺行為にも程がある。俺の命も、この国も大事ってだけだ」
テロという言葉は流石に声のトーンを落として話していた。
他はともかく、マリさんに仕掛けるのが自殺行為っていうのはとても納得できる。
「信用はまだしないが、とりあえずは理解したよ。とにかく君達は拘束する。そして、情報が正しいと分かった時点で、何かしらのアクションは起こそう。っと、勝手に決めてしまってはいけないね、これで良いかな? お嬢様?」
「ええ、それで構わないわ。それと、依頼主も聞いておきましょうか?」
「―――アルフレッド・リーングラム」
「ふむ、聞いた事のない名前ね」
「こっちでは有名な人間だよ。まぁ、政治活動家ってとこかな。大分過激な」
「ああ、今回の話を持ってきたのが、そいつの小間使いだったからな。間違いないはずだ」
「他国が起こしたテロに便乗して、今の政権を批判するつもりなんだろうね」
「なるほどね、一応の筋は通っているわ。アレックス、公安のお友達に連絡と……やっちゃって?」
マリさんが言うやいなや、即座にアレックスの体が消える。
今の私でも捉えきれないとなると、インビジブルも使っているのだろう。
その直後に、三人の顎が跳ねあがるのは、ゆっくりとしっかり見えたのだった。




