ビール談義
二人揃って通路に出る。
近くのベンチに、護衛だか監視が端末をいじりながら座っているのを確認した。
私達をチラリと見るも、別段気にした様子もなく、端末に視線を戻す。
これは、大成功なのではないだろうか?
「レミちゃん、ひょっとして?」
「いけてるんじゃないでしょうかね?」
二人してニヤリとほほ笑む。
これでマリさんは自由の身だ。
「ホッとしたらお腹減ってきちゃった。レミちゃんはどう?」
「あ、そうしたらですね、ここのお店はいかがでしょう?」
パンフレットを使い、予習していた店を紹介する。
「あ、地ビール。そういえば、魔界に来てから飲んでなかったね」
「ですよね? 昼間から飲むのもオツなものかと思いまして」
「うん、休日って感じするわ」
「では、行きましょうか。お店で、後はどんなものがあるかもゆっくり見ましょう」
「そうね、なんだかんだ落ち着かなかったものね」
マリさんは相当お腹が減っていたのか、脇目も振らずに飲食店フロアに歩みを進める。
初めての土地だというのに、迷うことなく辿り着いたのは、記憶力や方向感覚も優れているのだろうと、変な感心をしてしまった。
「さて、何にしましょうか?」
「ねー、沢山あるから迷っちゃう。あ、これ、皇国でも良く見かけるやつね」
「ええ、魔界で一番の大手ですからね。ザ・スタンダードと言ってもいいです」
「そしたら、対抗馬は?」
「経営規模、売上数で次点はコチラのメーカーです。キレと飲みやすさが人気ですね」
「あー、これもなかなか見かけるものね。レミちゃんのオススメは?」
「そうですねぇ……この中で皇国ではあまり見かけないものと言えば……このBLACK-Ravelでしょうか? 第四位ですが、一位のものと似ている味わいですが、奥行きがあって私は好きです」
「じゃあ、最初はそれにしましょう。二杯目のオススメも聞いてもいい?」
「少し冒険するのでしたら、こちらのゴメスというものですかね。見た目は真っ黒ですが泡はとてもクリーミーで味わいがあり、独特の苦みと風味が特徴です」
「黒いの?」
「黒いです」
「うん、面白いから二杯目も決まり!」
「そういえば、マリさんは普段ビールは何を飲んでいますか?」
「そうねぇ、ハイネッサンが多いかな」
ハイネッサンとは皇国のビールの銘柄だ。
創業者の名前を冠し、フルーティーな飲み口が人気を博している。
様々なスポーツなどにも協賛しており、スポーツ観戦にはコレ! といった具合である。
「じゃあ、華やかな味が多いんですか?」
「まあ、それもあるけど、その……好きなチームのね、メインスポンサーなの」
「あー、そういう事ですか」
「いやね、別に我慢して飲んでる訳じゃないのよ? やっぱり観戦中はこれじゃないと! って思うくらいにはハマっているし。自分が飲む事で少しでもチームにお金が入ればいいかな、って。分かっているのよ? 直接的に収入になる訳でもないって」
好きなものを好きと言えない、王女としての立場もあるのだろう。
恥ずかしいと捉えている節を感じた。
「まぁ、スポンサーって事は、いうなれば仲間みたいなものですからね、飲むなら仲間の酒を。っていうのは分かります」
「あ! そうそう、そういう事!」
今、あ! って言いましたよね? 確かに。




