剣呑
適当な食べ物をつまみつつ、ビールをしこたま飲む。
真昼間にこんなにしっかりと飲む連中は珍しいのだろう。
店員の注目を浴びていた。
「そういえば、用件はもう全部終わったんですか?」
「んー七割、ってところかしらね」
「残りの三割が厄介じゃないと良いんですが……」
「……ちょっとレミちゃん、バイトしない?」
「バイト、ですか?」
暗い雰囲気になってしまったマリさん。
私はこんな話を振って後悔している。
「そう、残りの仕事がちょっと戦闘能力が必要なの」
「おだやかじゃないですね」
「そうね、大分物騒な事この上ないの……ちょっと言葉にするのもはばかられるくらいにはね」
スッと、端末を私に見せる。
そこに並べられた文字の羅列はそれはそれは衝撃的なものだった。
「え、これって……本当なんですか? というか、マリさん一人で片付けなければいけない事なんですか?」
皇国と魔界の間にある国。
反勇者、反ミストラル家のその国家は、ぶっちゃけた話テロ国家だ。
ちょっかいを常にかけ、国境沿いでは小競り合いが絶えない。
しかも、国としては知らぬ存ぜぬを決め込むのだから、タチが悪いのだ。
テロ組織はご丁寧に犯行声明を出して、あくまでも『テロ組織』がやった事だと言い張るのが常とう手段である。
が、ちょっと調べれば背後には国の影が見える。いや、むしろ見せているのだと思うが……。
そのテロ組織が魔界に犯行予告をしてきたと、端末には記されてあった。
「次期当主としては、ね。見せつける事、友好関係を示す事が主な目的だからね」
なるほど。
マリさん一人でテロを止めたとすれば、戦力の誇示になる。
国を挙げての戦力ではなく、個人で止められるんだぞ、と。
そして、皇国と魔界の友好関係をあらわすには絶好の機会だ。
しかし、マリさんが来ている事は分かっているはず。
皇国最大戦力と名高い次期当主が魔界に来ていると知って、テロなど起こすだろうか?
まぁ、マリさんが狙いだとすれば、それも分からなくもないけれど。
「ちなみに、日時と場所は?」
他の人間に聞かれても良いように、日常会話のようにして聞く。
「明日の朝みたい。場所は展望タワーね」
「展望タワー……ヘルアンドヘブンタワーですね」
観光地としても名高いヘルアンドヘブンタワーは電波塔、結界装置、レーダー、果てはジャミング機能まで備える政治的にも軍事的にも重要な施設だ。
それだけでなく、私がマリさんと出会った展望タワーを思い出した。
場所は違えど、あの悲劇を繰り返させたくない。
あの時と違って、私は大人になったのだ。
あの時の私を作り出してはならない。
あの時の私を救い出すのだ。
「どう? ちょっとアレだし、断っても良いし」
答えなんて決まっている。
「是非行きますよ。何より私が行きたいです」




