憂いは断つ
高級ホテルにも、変わった人材は居るのだなぁ、と思いながら店を後にする。
マジックアイテムを『善意』で渡したと思いたい。
熱意と喜びをあらわにして迫られると、ちょっと引いてしまうのは悪い癖だ。
まぁ、根暗という事なんだろうけど。
さて、思いの外時間が潰れなかったな。
もう待ち合わせ場所のヘルポートに行くことにしよう。
このホテルからほど近く、歩いて向かえる距離だ。
ホテルを後にし、魔界の街並みを眺めながら歩く。
数年しか離れていないが、街の変化を肌で感じた。
今向かっているヘルポートも、私が大学に進んだ後に出来たものだ。
ふむ、マリさんをエスコートする為に下見をするのも悪くないな。
「ん?」
視線を感じる。
そういえば、私は狙われていたのだった。
アレックスが何とかするとは言っていたが、アサシン達の末端までどうこう出来る訳ではあるまい。
さて、どうするか……。
通り魔的に仕掛けてくるのか、それとも人目の無い所まで待つか、どっちのスタイルなのかで対応が違う。
鞄からイヤホンを取りだし、素早く着ける。
「アンタッチャブル」
「Hello,Master」
移民局の正式装備ではないが、私の個人端末に一時的に憑霊させ、機能の拡張と円滑なコミュニケーションを図る。
「私に対して、何かしら魔力の痕跡は見える?」
「いえ、それは確認できません。向かっているものも、設置されているものも、現状では無いようです」
ただ見ているという事か。
何かしらのトラップも無いとなると、こちらの隙を狙っているのだろう。
「私に対して、視線を向けている人物はどれだけ?」
「一人だけです」
「迎撃に向いている場所は有る?」
「防御として考えるのでしたら、先ほどのホテルがいいかと思います」
「攻撃的にいくのなら?」
「今この場です」
「話が早いんだか、回りくどいんだか……分かったわ。そいつの位置は?」
「右後方、一足で間合いに飛び込める位置です。青い服の男性です」
ショーウィンドウ覗き込み、反射で位置を確認する。
なるほど、コイツか。
アサシンにしてはちょっと迂闊な距離だと思うけれど?
「アンタッチャブル、捕獲は出来そうかな?」
「可能です」
「あ、今の無し、倒しちゃおう」
「かしこまりました。私のイメージとリンクなさいますか?」
「ええ、お願い」
うっすらと、私の意識にアンタッチャブルの見ているものが浮かんでくる。
位置を捉え、私は言葉を発する。
「触るな!」
不可視の壁をピンポイントに使い、押しつぶす。
不意を突かれた衝撃は、簡単に男の意識を失わせる。
やり切ってから、もしかしたらアサシンではなかったかもしれない、という考えがふと出てきたが、うら若き私を凝視して後をつけるなぞ、失礼にも程がある。
うん、私は悪くない。
突如倒れた『通行人』に、周りは大層驚いていたが、それでも私は悪くない。
さ、これから楽しいマリさんとのデートだ!




