体験開始。
会計の時に、「お部屋にお付けいたしますか?」と尋ねられ、面食らいはしたものの、私は探索を始めた。あ、もちろん自分で払いましたとも。
さて、リカーショップ……酒屋に入店したわけだが、色とりどりのボトルが綺麗に並べられている。
ホテルオリジナルのアルコールコーナーに、異世界から伝わったワインやウィスキー、蒸留酒といったものまで所狭しと並んでいる。
食い意地とは恐ろしいもので、更なる食材や原料を求め、異世界へ渡る職人は少なくない。
もちろん申請と審査は鬼のように面倒くさいし、安全も保障されていない。
だが、美食家と職人はその程度で止まるような情熱ではないらしい。
おかげで様々な世界の食事、飲料も平気で手に入る。
中でもビールはこちらの世界でもポピュラーで、ヤスモトさんなんかは「えっ? なんで、とりあえずビールがこっちでも通じるの?」と驚いたと言っていた。
そして、多種多様な種族が居るこの世界では、お酒以外でも酔う種族も少なくない。
故に、人用とかドラゴン用の注意書き入りのボトルもある。
さらにさらに、ディカウントストアなどの量販店では、注意書きなんて読まねぇよ、って輩に対策で大きめのポップで注意喚起をしていたりするから、それはもうゴチャついている。
それに対してこの高級ホテルのショップはどうだろうか。
保存に気を遣った陳列方法、それ専用に作られたであろう棚、冷蔵庫などでの温度管理はもちろんのこと、光の加減もお酒の種類によって変えている。
「何かお探しのものがございますか?」
落ち着いた声の店員に声をかけられる。
びっちりとオールバックに固めた髪、日焼けというには濃すぎるほどの肌、赤い瞳を携えた男性の店員さんだ。
「いえ、ちょっと見ているだけでして……」
「なるほど、ごゆっくりとご覧くださいませ。もしよろしければ試飲なども出来るものもございますが、そちらはいかがでしょうか?」
冷やかしというのも気が引けたが、彼の厚い接客にもっと気が引けてしまった。
貧乏根性で試飲はしてみたいが、まだ昼前だ。それに気付くとさらに気が引ける。気が付いたのに引けるというのはこれ如何に?
「ありがとうございます。この後、用事がございますので結構ですよ。そういえば、お聞きしたいことがありまして……」
「喜んで」
「このパンフレットを見ると、このお店には謎のスペースがありますよね? これは一体?」
「こちらはV.I.P専用のスペースでございまして、珍しいものはこちらにおいてございます」
「珍しいお酒……良いですねぇ」
「はい、私めも一度は頂戴したいものですが、一品ものと申して差し支えないものでばかりです」
「一品もの……」
「おそらくは二度と手に入らないものですので、同じ味はきっと無いのでしょうね。そういうお酒に出会いたいものです。V.I.Pのお客様も美術品をご覧になるようにご来店いただく方も多いですよ」
「確かに……一品もので価値が高く、さらには管理もしっかりとなると、美術品といって良いでしょうね」
にしても、この人良いなー。
きっと私なんかはVIPなんて思っていないだろうけど、キチンと対応してくれる。
財布の中身で態度を変えないなんて素晴らしい。
好感が持てる人物だ。ブイアイピーと言うのも何だか気に入った。
この人とこのお店ならきっと、VIPにもそれはもう良い対応をしてくれるであろう。
そんな下心を持ちながら、少し声色を変えて言い放つ。
「では、拝見させていただきたいのですが?」




