かけがいのないもの
「え、私はむしろ安全かと思ったんだけど?」
マリさんが心底驚いた顔で私に問いかける。
「遠慮無しに迎撃でもされたらと思うと、昨夜の暗殺よりも死を予感しましたよ」
「えー、ちゃんとそのくらい分別は付くのにー」
さっきまでアレックスへ見せていた威厳溢れる姿は何処へやら。
どうだアレックス、先輩はこんなに可愛い一面もあるんだぞ? それは正に国の宝なのだ。分かっているのか?
「アレックスも隙を作るためとは言え、ちょっと優しかったのよね」
「私を投げつけることがですか?」
「甘い……って言ってもいいかしらね。まぁ、結局情があるのでしょうけども。あの場で私に隙を作らせるのは、他に手段があったわよね?」
「ご明察。そこまで冷静にものを見られる人間が上司……いや、主か。うん、良いね」
「えっ? もっと酷いことされる可能性があったんですか?」
「窓突き破って、このフロアからレミちゃん落とせば良かったのよ。人質って手段もアリでしょうし」
「あ、そっか。そっちの方が気をとられるし、救助も大変ですもんね」
「それで納得できるっていうレミちゃんも大概よね。アレックス、貴女、私が必ずレミちゃんを受け止めるって分かっていたでしょう?」
「確率は高い、とは思ったけどね」
「とにかく、レミちゃんの安全性を考えていなかったってわけじゃないのは高評価よ。ただ、これからは命を賭けるような真似はしなくて良いからね。私に対しても、そして貴女自身にも、さらに、私や貴女の周りの人たちに対しても」
「おや、主に対して命を賭けるっていうのは、王族についた者としては当然なんじゃないのかい?」
「私には必要ないわ」
「……うーん、私の命を救うための理由って、きっと無いんじゃないですかアレックス? きっと、私も同じ立場ならそう思っていたでしょう。ただ、私は貴女に命を賭けては欲しくないのです。貴女が居なくなればきっと悲しい気持ちになります」
命を賭ける。なんて、軽々しく使われたりしがちだけれども、実際にアレックスは危険を顧みず自分がやられ役を買って出た。
欠けてはならない。
性格は良くないし、変人だし、変態だし、アサシンだけれども、私は彼女をそう思った。
「どうにもならなそうなら、私を頼りなさい。大概のことはどうにか出来るわ」
「そうですそうです。なんたって主がマリさんなんですよ? とにかく、金輪際、貴女は命を賭ける必要なんて無いんです」
だって―――
「幼馴染は、かけがいのないものなんですから」
書き溜め期間に入ります。




