朝ごはん。
「あっ、起きましたねアレックス。おはようございます」
身じろぎしたアレックスを見て、声をかける。
朝食の時間まであと少しというところだ。
「朝食はどうしますか? 私はマリさんとこの部屋で食べる予定ですが、アレックスも同伴するなら、マリさんに言ってきますけど?」
「―――って、レミちゃん、さっきまで意識を失っていた人間に、普通に接するのね」
と背後から声を掛けられる。
「起きたっていっても、ちょっと動いたくらいなのね。まだまともに動くまで時間がかかると思うわ」
「ふむ、それなら放置を続行しましょう。朝食にくいっぱぐれても、昼食まで我慢してもらって、私たちは食べてしまいましょうか」
「いやー、このドライさ、私好きだわー」
何だか分からないけど、マリさんにお気に召されたようだ。
よくやったぞアレックス。
「意識は……ある……よ」
足元から苦し気な声が聞こえてくる。
「あ、やっぱり起きていたんですね。じゃあ朝食はどうしますか?」
「えーと、レミちゃん、そこは重要なのね……」
「……食べられそうにもないね……物理的に腹が痛いよ」
「まぁ、私としては好都合ね。朝食前に言っておくわ。貴女を召し抱えることにします」
「えぇ……と、ずいぶん突飛な話じゃないか……」
態勢をしんどうそうに変えながら、マリさんに向き合ったアレックス。
突飛な話なのは無理もない。
魔界の公務員を、由緒正しい皇国のご令嬢が御召し抱えるというのだ。
自分で思っても、改めて異質さが分かる。
「そうね、突飛も突飛だけど、もうそれしかないようにはなっているけどね」
「そうなのかい? 公安のボクを他国の人間がすぐにどうこうするって、無理な気もするけど、どんな魔法を使ったのかな?」
そういえば、そこは私も気になるところだ。
昨夜、抜かりが無いとは言っていたけど、種明かしはされなかった。
「リンリーン」
ノックとともに、呼び鈴の音がする。
「どうぞ」
マリさんが答えると、カートを運ぶ紳士が現れた。
「どちらに運びましょうか?」
「そこのビジョンの前のテーブルに並べて頂戴」
「かしこまりました」
お皿にクロッシュ(ドーム状のアレ)を被せていても、芳醇な香りはあふれてくる。
その香りを堪能していると、すぐに朝食の準備は整った。
最後にクロッシュを取り、そつなく紳士は去っていった。
焼きたてのパン、濃厚だと目と鼻で分かってしまうオムレツ、添えられた良く燻製されたであろうソーセージやベーコン、様々なエキスがこれでもかと濃縮されたスープ。
そして、まぶしいほどに色艶やかな果物とサラダ。
舌で味わう前に、グレードの違いが分かる。
「アレックス、本当にいいんですか? 食べなくて?」
「ええと、レミちゃん、何でそんなに朝食に必死なの?」
「一日の始まりですよ? 大事に決まっています」
「そ、そう。じゃ、じゃあ頂きましょう。話、というか質問は後で聞くわ」
言いながら、ビジョンの電源を点けながら、席に座る。
それに付き添いながら、私も隣に座った。
「―――今日の天気は晴れ、大気中の魔力濃度はこの時期としては平年並みとなっております。さて―――」
朝の報道番組か。
安定している皇国より、魔界の方が様々なニュースが流れてくる。
そんなところでも帰ってきたことを実感する。
「先ほどから繰り返しお伝えしているとおり、昨日の夜、皇国のミストラル家の筆頭候補、マリ・ミストラル卿を招いて行われたパーティで暴動が起こりました。その際、魔界公安部のアレックス・メイ警部補が居合わせ、この無きを得ましたが、同伴のレミリア・エイプリル移民局局員が怪我をしました。この件に関し、ミストラル卿は『感謝の意と、彼女の勇気に敬意を表明するとともに、恩賞の授与を行いたい』とコメントを残しました。また魔界公安部によると―――」
「は?」
アレックスの顔が大きく映し出された画面を、私はギョッと見てしまう。
「ちょ、これはいったいどういうことだい?!」
「言ったでしょう? 質問は後で聞くわ、って」
驚く私たちを尻目に、マリさんは優雅に紅茶をたしなんでいた。




