降臨せしおばあちゃん。
「あら、今度は泣いているのですか。年寄りは情緒が不安定で仕方ありませんね」
カートを押しながらおばあちゃんが入ってくる。
「レミリア、手伝ってちょうだいな。まずはおじいさんにナプキンを」
「かしこまりました」
カートの引き出しからナプキンを取り出した。
幼少の記憶から変わっていない場所に、どこか懐かしさを覚える。
おじいちゃんにナプキンを手渡し、すぐにおばあちゃんからソーサーとカップを受け取る。
「魔界の茶葉なので、お口に合うか分かりませんが、今シーズンの取り立てのものです。お好みでこのシロップを入れてお楽しみ下さい。よろしければ、そちらの従者の方も」
「ありがとうございます。あなたもいただきなさい。よろしければ、同席させても?」
チラッとおばあちゃんはおじいちゃんを一瞥するが、未だうずくまっているせいで反応がない。
「もちろんです。よく孫を連れてきていただきました。お寛ぎ下さい」
「だそうよ。おかけなさい」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えまして」
まだ、ミストラル節が残っているマリさんと、おばあちゃんのやり取りは気品を十分に感じさせる。
その二人の空気になんだか緊張してしまう。
そのせいか、とても丁寧な動作の運転手さんに、椅子を引いてしまうのだった。普段はやろうとも思わないのに。
「いい振る舞いが出来るようになりましたね。さ、これはあの方の分よ、これを出したらあなたもお座りなさい。助かったわ」
―――褒められた。
凄い厳しい人だから、こういう『おもてなし』や『マナー』で褒められることは珍しい。
いくつになっても嬉しいものだなぁ……。
胸の奥がジーンとなりながら、腰掛ける。
「お疲れ様、レミちゃん。とても美しい所作だったわね。おばあ様の動きそっくりだったわ」
「本当ですか?」
「ええ。丁寧に教わったのが垣間見られるシーンね」
「あぁ、『ある意味』丁寧に教わりましたからね」
「あら、レミリア、言葉遣いはまだまだのようね」
冷たく重い言葉で私を威圧してくる。
うん、このプレッシャーもまだ怖いな。
威圧感だけなら、転生者も怖気付かせるだろうなこのババア……。
「私は好きですよ。レミちゃ……レミリアさんの含みを持った言い回し」
「主人に似たので困ったものです。もう少しお淑やかに育てたつもりなのですが……少なくとも、したたかには育ったようですね」
「ふふ、十分お淑やかですよ。おばあ様の教えの賜物ですわ」
「あの、褒められている気がしないんですが、お二人とも」
「私は褒めていませんからね」
「私は褒めてるわよ?」
まぁ、マリさんの口調が少し穏やかになっているようで良かったかな?
「―――で、なんでこの人はいつまでも泣いているのです?」
スミマセン、おばあちゃん、そっとしておいてあげてもらえません?




