魔界らしい魔界がそこにある。
再び屋上。
簡単に化粧直しを行ったマリさんは、髪をアップにまとめ、洋服も黒いシンプルなワンピースに装いを変えている。
ホテルの人間の見送りを受けて、車は滑らかに上空へと上がって行く。
加速のGを感じることもないが、ドンドン速くなっていくのを、流れる景色の勢いで感じる。
道中のランドマークをマリさんへ解説する楽しい時間も直ぐに終わりそうだ。
「あ、ちょっと失礼します。一本連絡します」
端末からおじいさんの家ーーー本家へ通信を繋ぐ。
さぁて誰が出るだろうか?
数度の呼び出し音の後、しわがれた女性の声が応答した。
おばあちゃんの声だ。
「あ、もしもし? レミリアです。そうそう、今向かってます。うん……あー、はい、そうですね、後ちょっとです。で、車って何処に停めれば? 裏? あー、正面でいいんですか、分かりました。あと、空から来る場合も一緒です? ……はーい。うん、はいはーい。ではまた後で」
「……レミちゃん、家族にも敬語、というか『ですます調』なのね」
「はい、小さい頃からの癖ですね」
「距離を置かれる訳ではなくて安心したわ。で、お家の正面に停めてしまっていいのね」
「そのようです。あと、上空からなら停められるところに停めちゃっていいそうです」
「ですって。任せるわね」
「かしこまりました」
「あと、確認になるけど、本当に私もお邪魔してもいいのかしら?」
「お気になさらずー。おばあちゃんもおじいちゃんも大歓迎だそうで」
「大歓迎だなんて」
「んー、私、こっちに住んでいる時も、友達連れてきたこともありませんからねー。何だか凄い喜んでいましたよ、おばあちゃん」
「あら? 友達も連れてきたことないのに、私なんかが行くなんて畏れ多いわね」
「そんなに卑下なさらず。それに、おそらくマリさんじゃないと難しいかと思います」
「難しい?」
マリさんが首を傾げるのと同時に、辺りが薄暗くなっていく。
天気が急に悪くなった訳ではない。
陽が急に落ちた訳でもない。
「うちの周りって、こんなんですからねー……」
マリさんが窓から周りを見渡す。
昔は人に瘴気と呼ばれた、高濃度の魔力の雲。
決して自然には生えない歪な形の樹木。
奇怪な形をした鳥。
稲光のように迸る魔力の奔流。
おとぎ話のイメージ通りの魔界がここにあるのだった。
きっと地面に降り立てば、もっとおどろおどろしい風景が見えることだろう。
「あらまぁ、なんというか……」
さすがのマリさんも言葉に詰まる。
いや、本当にすみません。
これ、一族の仕業なんです……。




