タワー攻防戦5
魔界のスペシャリスト達が転移を防ぐ為に動いている。
そう、私達はもしもの時に備えているだけだ。
魔族だって転移の予兆をみすみす見逃すような無能ばかりではない。
それに、転移だって、複雑で大がかりな仕組みなのだ。
少し条件が乱されれば、その効力を失ってしまう。
……まぁ、凄いポピュラーな技術ではあるのだけど。
先に感じた重力振と、今しがた感じた空間振動。
後発の方に注意を向けた方がいいのだろうか?
そんな思考のせいか、新たに現れた小規模な転移の予兆に気付くのが遅れた。
マリさんの受け持つエリア。
きっとマリさんなら大丈夫だろうと思うが、遅れてしまった罪悪感も手伝って、不安に駆られてしまう。
「あれ?」
心の中で声にならない声を漏らす。
【空間転移】【時間操作】【刺客】【結界】様々なワードが頭の中を駆け巡り、一つの仮説が組みあがってしまった。
私達だけに送られた刺客。
これはただの印象付け。
【私達を妨害する為に人を送り付ける】という手段を取るのだ、と。
大がかりな空間転移も、【魔界の人手を割く陽動】だ。
しかし、【結界内に能力者が居る】のは間違いない。
そして、私の立てた仮説は【空間転移と時間操作の標的はマリさん】である。
正しいかどうかも分からない。
だけど、走り出す。
刺客は私とアレックスの事を知っていた。
ならば、マリさんの事を対策していて当然の事。
「ドン」
と空気を切り裂く轟音と眩い閃光、そして爆炎が私の行く先に現れた。
「マリさんっ!」
そうか、爆発を転移させたのか! きっと高速化なんかもした上で。
マリさんの事だ、転移の予兆に気付いた上で様子見でもしていたのだろう。
絶対的強者の悪い所だ。
「っ!? 触るな!」
私の右側面からの斬撃を防ぐ。
腕輪の力がなければ当たっていたかもしれない。
「急いでるところすまんなお嬢さん」
一目で名剣だと分かる剣を右手に持ち、茶色の長髪、整った顔立ちの男が私に語り掛ける。
しかし、その見た目とは裏腹に、とんでもないゲス野郎だと勘が告げた。
「ええ、すみませんじゃ済みませんので、とっとと居なくなるか死ぬかしてください」
「すみませんじゃ済まさない為に、俺は来たんだよ!」
再度の斬撃を、私はアンタッチャブルで防ぐ。
不可視の空間の障壁。
それをまともに破ったのは、マリさん以外に存在しない。
魔力切れくらいしか、正面からぶつかって防げないものはない。
それも、スーツや装備で魔力を高めている今、心配は無いだろう。
「やっぱり防がれるか。流石だな……だが、今度はどうだ!」
何の変哲もない袈裟切り。
同じように、作業のように、障壁を作り出す。
が、どんなからくりか。
確かに障壁は切り裂かれ、私に切っ先がかすめたのだ。
念の為引いておかなければ、もっと深く切り裂かれていただろう。
「不思議そうだな?」
「何分慣れていないもので」
「なあに、ネタを明かしてしまえば何てことないさ。ただ、俺が出来ると思っただけだ」
――――――何?
こいつはいったい なんていった?