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まあ王女宮に仕えるメリットは大いに宣伝できているようだし、よしとしよう……と気持ちを切り替えたところで、私の結婚式までのあれこれとスカーレットに仕事を教えることは並行でやっていかねばなりません。
「それじゃあ今日はこれとこれね」
「詩集ですわね……!」
「ええ。プリメラさまが次に参加なさる茶会の主催者は古典詩を特に好まれるわ。その二冊を押さえておけば、基本は大丈夫のはずよ。派生形もあるし、最近の詩人でも古典を基礎として展開するものも増えているけれど……まあ、大元を押さえていれば十分でしょう」
「うっ……が、がんばりますわ!」
「主催の夫人はあまり侍女に無茶ぶりをなさる方ではないけれど、三番目のご息女はまだ先日デビューしたばかりでちょっと難癖をつけるところがあるみたいだから、備えて置いて損はないわ」
「……かしこまりました」
なんで今更お勉強しているのかって?
これが必要なんですよ……。
今後はプリメラさまも高位貴族たちのいる場所に顔を出すことも多くなりましょう。
その際には、どうあっても平民を見下す人もいるので、ついていく侍女は貴族位にある子が望ましいのです。
貴族的な機微はやはり貴族の方がわかりやすいと言いましょうか……毒を食らわば皿までと申しましょうか……。
その場でやり返さないにしても、馬鹿にされたら後でやり返すか横の繋がりを利用して苦情を言うとかできますからね!!
そしてなにより、教養があるのが大事なのです。
何かあった際にはプリメラさまに助言を求められることもありますし、話を振ってくるいやな人もいるからそれに笑顔で対応できるようにしなければなりません。
そういう意味ではデボラさんが適任ですが、デボラさんはいつか王妃さまのところに戻る人材……。
専属侍女ですし、本来ならば私が常にプリメラさまと共にあれば良いのでしょうが、それだって王女宮筆頭という立場から難しいこともあります。
そこでスカーレットです!
ピジョット家で最低限のことはすでに学んでいますし、元々勉強は苦手でも努力家ですからね!
ピンポイントで覚えさせれば大丈夫。
「頼りにしているわ、スカーレット」
「お任せくださいまし! ワタクシにかかれば詩集の一冊や百冊、明日までに丸暗記してきますわ!!」
「百冊はいらないかなあ~」
そう、スカーレットは物覚えは良いのです。
興味が無いことはすぐに忘れるんですけどね!
でもそれってある意味才能ですから、是非上手く使ってもらいたいところですよ。
「次の茶会は私と一緒にですが、そのうち一人でお願いすることもあるからよろしくね」
「はいですわ!」
ピジョット家はあまり裕福ではなかったので、教養は現代における最低限の話だけのようですが……王城は教材だらけですから、こうしてちょくちょく教えていけば十分です。
ちなみに私は下位貴族の令嬢ですが、十才からこの王城暮らしだったおかげで上位貴族と遜色ない教養を教わっておりました。
ええ、侍女になってから随分勉強も教わるなあと思ってはいましたよ?
でも本来学びの時間に働いているからきっとこれは陛下の温情だなあと思っておりましたとも。
思って、おりましたとも!
プリメラさまの侍女として恥ずかしくないよう育てられたってだけでしたけどね!
ある意味温情ですが、プリメラさまファーストなのがブレない陛下、マジ陛下。
「……お茶会、楽しみねえ」
そこでデボラさんの計画したあれこれが上手く行くといいんですけど!




