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「……ってことでどうしたらいいかと思って呼んだわけですよ、ハンスさま」
「いやあ、ははは。ってなんで俺?」
「発端と言いますか、今回の件に関してはあまり目立たせたくないからお手を借りようかと」
にっこり笑ってそう言ってあげればハンスさんも黙りました。
別に怒っているとかじゃないんですよ、ええ。
でもほら、バルトチェッラ家の末っ子問題でハンスさんも関わっているわけですし、もう他人事というには……ね? そうでしょう?
「でもまあそれはいいとしてもなんでセバスチャン殿もいるんだ?」
「ああ、それはそれで別件です」
「え、一緒にいていいの」
軽く驚いた様子のハンスさんに、セバスチャンさんはにっこり微笑みました。
うーん、柔らかい笑みなのになんだかすごみがありますね!
「そちらについては是非レムレッドさまにご協力いただこうかと思いましてな」
「いやな予感しかしない!!」
「うふふ」
いやだなあ、そんな無茶ぶりはいたしませんよ?
というのもまず問題はヘンリー・エルロレム・フォン・バルトチェッラさまからのお手紙です。
これがね、一週間に二、三通来るんですよ。
ええ、ぶっちゃけ二日にいっぺん届くんですよ。迷惑です。
変な噂になっても困るので郵便課で差し止めてもらってまとめて箱に入れてもらい、バルトチェッラ家には苦情を入れました。
内容としては基本的に『スカーレットとの仲を取り持ってほしい』ですね。
あれやこれや弟の無礼や王女宮に迷惑をかけたことに対する謝罪の言葉もありますが、基本的にはそれです。
どうやらスカーレットと何かあったのか、彼女には直接送れない事情があるようで……だからってその上司に手紙送るとか普通じゃないですね!
情熱的と言うには粘着質ですよ! ねっちゃねちゃです!!
しかも便箋五枚びっしりですよ……?
スカーレットのことが好きで必死なんだろうなって思ったのは最初の一通だけです。
後は怖いって……さすがに……。
まあそれほどまでに切羽詰まっているのでしょうが、こちらとしては対応に困るばかりですからね!
一応手紙の量が多いってことでバルトチェッラ家には業務妨害になるからほどほどにしてねとお手紙を書かせていただきました。
スカーレットの幼馴染みってことで手心は一度は加えた方がいいだろうというセバスチャンさんとの協議の上で決めたことです。
「まあそういうわけで、ハンスさんも幼馴染みなのでしょう? 一度そちらでも説得してくれないかしら。スカーレットにはそもそも縁談に対する気持ちもないようだし……」
「ああー……なるほど。わかりましたよ……っと。でも多分、ヘンリーのやつは俺の言葉は聞かないと思うんだよなあ~。……兄貴に相談するかあ」
どうやらハンスさんと言えどもやはり上手くやれないことはある模様。
まあそれはそうですよね、人間だもの。
「で? 他にセバスチャン殿が言う協力ってなんだい?」
「ああ、それなんですけれど」
私はハンスさんに『王女宮に勤めると行き遅れる』という風評被害が出ないようにするため行動を起こすつもりだ、ということを明かしました。
これまではね、私だけが標的になって嫌味を受け取っていれば済んだので対処が楽だったんです。
でもその私が既婚者になっちゃうから、今度は王女宮全体が標的になるってわけですよ。
冗談抜きで〝行き遅れ集団〟なんて嫌味がそのうち出てくるのは目に見えております。
目立つところでデボラさんとスカーレットの貴族組です。
でも勿論メイナだって人気が出ているわけですから、ご令嬢たちの嫌味の対象になっちゃうかもしれないでしょう?
そりゃね、貴族組は嫌味の一つや百個、慣れたもんでしょうとも。
スカーレットに至っちゃ別の意味で噂が絶えなかった時期もありますし。
「……でもだからって傷つかないわけじゃないでしょ?」
「それは、まあ……」
「だから逆に噂を広めようと思って」
「噂を広めるゥ?」
「そう。王女宮で働くと、出世できるってね……!」
下位貴族の令嬢だった私が王女の専属侍女になったように。
デボラさんはまあ元々が公爵令嬢ですけど、この後王妃様付きの秘書官になる予定ですし?
スカーレットもそういう意味では未来の筆頭侍女候補。
メイナだって私についてきてくれるという話が有効ならば将来は子爵夫人の専属侍女になってもらいたい! ひいては伯爵夫人になった後もよろしくお願いします!!
彼女たちは決してモテないわけじゃないので、悪意ある『行き遅れ』なんて言葉は彼女たちが選んでいないだけってすぐにわかる話ではあるんですけどね。
でもこの国では行き遅れってかなり悪口の部類なので……表立って咎める程ではないんですけど。
(でも私だって言われていやな気分になることくらいはあったし、あの子たちにそんな思いをしてほしくないものね)
今後盾になってあげられないのであれば、いっそ潔く〝働きたい女性の聖地〟になってやりゃあいいんですよ我が王女宮が!
なんせ最高のプリンセスが公務を始める段階で忙しくなるのはわかってますしね!
来たれ有望な若き侍女!!
「ええー、それ俺関係なくね?」
「まあまあ、それもこれもバルトチェッラ家の末っ子様が騒いだせいでスカーレットに注目が余計集まったからですので。是非同じ侯爵家の誼でよろしくお願いいたします」
セバスチャンさんもそう言ってくれてますしね。
……まあ、最悪バルトチェッラ家の次男が暴走した場合のことを考えて今のうちからハンスさんを巻き込んでおいたらやりやすいかな、なんて思ってのことだなんて口が裂けても言えません。
言えませんね!!




