657
ふと気付いたんですが、王女宮で既婚者って私だけになってしまうのでは?
セバスチャンさんは立場もあって妻帯はしていないはずです。
今でこそ引退したとはいえ〝影〟というお役目は色々と危険がつきものですので、そういうこととは縁遠い……のだとか。
ということは、ライアンもそのはず。
まあ執事組はそういう意味では国との契約云々ありますのでね、私が何かを言える立場にはございません。
メッタボンも王女宮の仲間ですが、正確には王女宮での契約なので王女宮所属には違いないけどまたちょっとだけ立場が違うというか……でも彼の性格上いつかはレジーナさんと結婚するのかしら?
いい旦那さんになりそうですよね!
とまあ男性陣はいいんですよ、男性陣は。
(……今まで気にしてなかったけど)
王女宮は少数精鋭、それだけにありとあらゆる意味で注目を集めやすくもあります。
今はアルダールと私のことで注目もありますが、元々陛下が溺愛する我らがプリメラさまの動向ってみんなチェックしていたと思うんですよね。
だってプリメラさまに嫌われたらイコールで陛下に嫌われるんですもの!
そう思うと怖いな……そりゃ怖いよね……ってなります。
勿論、プリメラさまは理由もなく嫌うなんてことはなさらず、きちんと向き合うことかと思います。
でも陛下はこれ幸いとばかりにそれを政治利用しようとする御方ですからね……。
そういう意味でも王女宮は注目されているのです!
ああ、恐ろしや恐ろしや。
スカーレットに縁談を……って話が出たのも、そういう背景があるでしょう。
何せ筆頭侍女である私はバウム家……もとい、新たに興るミスルトゥ家と縁談が決まっています。
デボラさんは公爵家のご令嬢ですが、彼女は結婚したくなくてお仕事している強者。
それでご実家に話を通しているんだから相当ですよ。
メイナは可愛らしいし有能ですが、平民というのが縁談には難点なんですよね。
王女宮に連なる人と縁を結び、更なる……と考える時に好ましいのはやはり相手方の力も利用できる縁談であることが望ましいでしょう?
そういう意味ではメイナは裕福な平民という位置づけですが、平民は平民、ここに超えられない身分が出てきてしまうのです。
(だからこそ、メイナ個人を想ってくれる人が現れるといいのだけれど……)
逆に平民だから縁談を断れないだろうとか、下位貴族だけど足がかりに……! なんて考える人もいるわけで、そういう方々がセバスチャンさんのチェックで弾かれているってわけです。
でもその結果、少数精鋭の我が王女宮の既婚者は私だけになってしまうというオチ!
ある意味で行き遅れ集団として見られる未来もあります! というかもう既にちょっとそういう目で見られているのかもしれないって気付いてしまいました!!
「……これは、大丈夫かしら……?」
まあね、私が言うのもなんですが焦ってもいいことはないと思うんですよ。
貴族の結婚が基本は家同士の繋がりだからって、お付き合いしてみないとわからないことってありますし……。
結婚してから豹変した、なんて怖い話もあるじゃないですか。
そう考えたらこの国的には晩婚と言われる年齢だとしても、本人たちが幸せなら……ねえ?
働く女性のモデルスタイルになるかもしれませんし! 王女宮の子たちが!!
(……そのうちあの子たちも私みたいに二つ名がつけられちゃうのかしら?)
懐かしいわね、鉄壁侍女!
といっても決していい意味じゃなさそうだったけど。
でも! プリメラさまを守る壁でいたいとは思ってますよ!!
最近は王女宮も層が厚くなったので、守りは万全だと信じたいところ。
そんなことを考えながら手紙の類いを振り分けつつ、当面の仕事を片付けていたらいくつか私個人宛もあって、ジェンダ夫妻から『新作のお菓子ができたから是非おいで』というご招待でした。
わあ最高!
「……あらやだ」
しかし全部がいい話とはなりません。
私は大きなため息を吐きながら、一通の手紙を開くのでした。
そう――スカーレットとの縁談が潰れた、ヘンリー・エルロレム・フォン・バルトチェッラからの。




