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派閥の影響や、それに属して諸々無理難題を言われたりする可能性を視野に入れた上で、今後の人事などの参考にさせていただくつもりだ、ということでスカーレットのご両親には安心していただきましたが、とりあえず縁談の予定はないそうです。
それはそれでどうなの? とちょっと思いましたが、私が言うのかって話になってしまいますのでね!
いやほら……私もスカーレットもつい最近までは行き遅れ組でしたもの。
(しかもこの国での美と言えば! な金髪でも青い目でもないし、肌の白さは……まあ、いけるか?)
まったく、見た目重視ってほどじゃないですけどそういう風潮だけはどうしようもないですからね……。
最近では働きと笑顔でスカーレットがモテモテなのを知っているので、私としては鼻高々なくらいですけど。
そうでしょうそうでしょう、うちの後輩はツンデレですけど可愛いんですよ!
人慣れしていない子猫ちゃんみたいな感じなんですから!
「我が家はご存じの通り、子だくさんの貧乏貴族。爵位だけはそれなりですが、ご先祖に顔向けできなくならない程度に領民の暮らしだけを見るので精一杯です。なので縁談ともなるとこう……その、申し上げにくいが持参金があまり用意してやれないので……」
「ああ……わかります。私も実家はそこまで裕福ではありませんでしたから、持参金問題は大きいですものね……」
「ご理解いただけて何よりです」
そう、婿を取るわけじゃないですからね。
この国では嫁にしろ婿にしろ、迎え入れる側が支度金を用意して婚礼衣装や新しい家具を注文し、その反対に嫁ぐ側は持参金を持ってそれを新生活に活用する……みたいな感じですね。
ただまあ、これで相殺……として気持ちよく出発できれば一番ですが、どうしたって家格や収入の差ってあるじゃないですか。
なので豊かな方が大きく負担をするのが常です。
とはいえ、お互いの家同士に利点があって結婚するか、もしくはどうしても結婚したい! っていうことで結ばれた縁なので、大抵はそこで揉めることはございません。
しかしながら貴族でも高位貴族となってしまうと……ほら、見栄と体面が、ね?
そこのことを考えると、ピジョット家は侯爵家としての面目もありますから相手方に嫁がせるのにどうしてもそれなりの額が必要となってしまうってわけですよ。
だから子どもたちの大半が自分たちの食い扶持を稼ぐために働きに出るのです。
才能があればスカーレットのお兄さまのように魔塔で魔法使いになって、自分の力で爵位を得ることも可能かと思いますが……まあそういうのってなかなかないことですもんね。
あとは商人と結婚して家を出て行くとか。
かつて私の同期だったスカーレットのお姉さんのようにね!
「良い縁があればとは確かにこちらでも思ってはおりますし、先日は……その、知人が話を持ってこようとして問題になったばかりですしね」
ハンスくんの件ですね。
あの子のお兄さんがどのような方か私は存じませんのでそこはただ笑顔で何も言わないでおくことにしました。
「なにがしか話が動くようであれば、それか王女宮にそのような申し入れがありましたらまたお互いに連絡を取り合えればと思いますわ、ピジョット侯爵さま」
「え、ええ。娘はこの宮で働けて本当に楽しそうで……以前からは考えられないほどです」
「自分の力を示す場所ができたことがきっと幸いしたのでしょう。彼女の書く字の素晴らしさは、王女殿下も大層褒めておられました」
「王女殿下が!」
ぴょっと肩を跳ねさせるピジョット侯爵さま。
うん、この人も高位貴族としては顔に出すぎなんだよなあ……。
同じように思っているのか、私の隣でスカーレットが苦い顔をしています。
でも貴女も顔に出てますよ!




