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スカーレットの張り切りのおかげか、あるいはピジョット家でも面談を待ち望んでいたのか……まあ両方でしょうか。
とにかく、びっくりするほど早いうちに場が整えられてしまい私の方が戸惑いを隠せずにおります。
とはいえ私も王女宮筆頭として恥ずかしくない振る舞いをしなければなりませんよね!
もう何年筆頭侍女やってんだ! って話ですよ。
いっくら私が小心者だからって体裁だけは整えておりますし、何より可愛い可愛い後輩の今後についての面談です。
ここは張り切っていきたいところ。
勿論、面談なので私とスカーレットが抜ける分はセバスチャンさんとライアンに頼んでありますよ!
プリメラさまは本日、高位貴族家のお茶会にご参加ですのでそちらはデボラさんが担当してくれています。
メイナには待機の間にプリメラさまがお戻りになったらすぐにリラックスしていただけるよう、お風呂や香油、アロマなどといったものの準備をお願いしてあります。
なのでばっちりですね!
「ああ、王女宮筆頭さま!」
「本日はお時間をいただきましてありがとうございます、ピジョット侯爵さま。夫人も、ご足労をおかけいたしました」
面会室ではなく、今日はこちらがお呼び立てした形ですので王城内にある一室を私が借りての面談です。
本日面談を行うことは当然ですが、統括侍女さまにはお伝え済みですとも。
面談内容は後々報告書としてお届けする予定です。
ピジョット家の当主であるウェイド・オニールさまとその奥方であるキアラさま。
スカーレットの髪色は父親似で、顔立ちは母親似なんですねえ。
「あ、あの、王女宮筆頭さま……スカーレットはそちらで上手くやっておりますでしょうか?」
挨拶もそこそこにそう夫人が切り出すのを、侯爵は肘で突っついています。
その所作は綺麗なのに庶民っぽくてなんともちぐはぐなんですよね。
まあこれがピジョット家らしいんですけども!
そう、ピジョット家は大所帯。
代々大所帯であるピジョット家はそれはもうなんというか、堅実だけどそれだけという印象でしょうか。
勿論、領地持ち貴族としては堅実であることはとても素晴らしいことと思います。
そして大所帯ですので、中には特別な才能生まれ持つ子がいてもおかしくない話で……過去、スカーレットはそんな代々のピジョット家の〝特別〟に自分も該当していると信じていた時期が在ったわけです。
その頃の彼女はまあツンデレのツンしかなくて生意気で自意識過剰、扱いづらくて困っちゃう……っていうのが周囲の評価でしたよね!
(ピジョット家は大所帯だけに横の繋がりが強い上に、そういえば内宮筆頭の実家の主家筋が夫人の血筋だったんだっけ……)
それで内宮筆頭が面倒を見ることになっていたけど侍女という職を見下していた当時のスカーレットが騒ぎを起こして王女宮にきたってわけですからね。
我らがプリメラさまと間近に言葉を交わしたことで、本物とは何かを知って打ちひしがれちゃってからはデレも見えるようになってきて、今じゃあ可愛い後輩ですとも。
(……きっとスカーレットのせっかちさは、夫人の影響ね)
悪いこととは言いませんが、高位貴族家のやりとりで考えたらせっかちさはちょっと侮られるんじゃないかなと思いますがどうなのかしら。
私はそういうことをビアンカさまがプリメラさまに教えているのを横で聞いていたから『そうなのか』と思ったものですけども。
実際、私がお見かけする高位貴族の方々は鷹揚な態度で、有能な方ほど余裕を崩さないような気がいたします。
内心はどうであれ、ってやつですね。
それは私の隣に座るスカーレットも感じているのでしょう。
ちょっぴり恥ずかしそうに頬を赤らめて「もう! ワタクシは今では王女宮になくてはならない存在なのよ!!」と小声で言っていました。
自分で言っちゃうのはアレですけど、昔みたいに大声で怒鳴ったり癇癪を起こさなくなったし、実際今やスカーレットは王女宮で頼りになる侍女の一人ですからね!
思わずほっこりしつつ、私は夫人に向き直りました。
「勿論です、夫人。スカーレットは努力家で、私の指示によく従い王女宮の侍女として立派に勤めています」
「まあ……!」
「当然でしょう! ワタクシを何だと思っているのよ、お母さま……!」
「だってスカーレット、あなた、これまでどれだけの苦情がうちに寄せられていたと思って……」
「や、やめてよユリアさまの前で!!」
おっと、親子喧嘩はおやめください。




