11 あんたは小姑ですか
すぐおいし、すごくおいし。
ヒヨコがぷりぷり踊るホラーで可愛いチキンラーメンの宣伝をみていたら、また羽が生えてしまった。羽を出したままフラフラ外に出られないし、そのまま大人しく武尊の家にご厄介になっている。
いろいろ納得いかないけれど、泊めてもらい、ご飯を食べさせてもらっているのは事実だ。暇だったので、何か手伝いくらいしようと料理準備中の武尊の後ろをウロウロしていた。
「お前は迷子のヒヨコか?」
怪訝な顔でいう武尊に、お手伝いをしたい、と素直に申し出た。
「殊勝な心がけだ」
そういって、頭を撫でてくれたのはいいけれど。
じゃあお米をといで、と言われ……。
「一回目の水はすぐに捨てる! 米をとぐときは水を切ってから。手を猫みたいにして米をむこう側に押し出すような感じで。もっと、しっかり、手早く!」
うえぇぇ。米とぐだけでダメだし。
無洗米とかないのかなー。
「じゃ、出汁をとるから。昆布は日高昆布がいい。厚みがあって黒々していてがっしりしたやつな。すまし汁や味噌汁用の削り節は、薄くて幅が広いものがいい。その方が早くだしがとれて、生臭みが出ない。しっかり覚えておけよ」
いいながら出汁を作っている。
出汁パックでいいじゃん。っていうか、長谷園のインスタント味噌汁じゃダメ?
美味しいご飯が作れる男って、ポイント高いけれど、そのこだわりを女に押し付ける男はポイント下がるんだよ。
邪魔しているのか、手伝っているのか微妙だったが、一応手伝いをした。
武尊は淀みなく、迷いなく料理してゆく。
こうしていると、板さんみたい。
かつおのバターしょうゆにししとう。
イカの明太あえ。
旨そう。
くふふ。
でも、そろそろと伸ばしたつまみ食いの手はしっかり阻止される。
「きちんと、美味しく食事をとるのは大切なことだ。特に空のような若い子はな」
うるさいだけあって、できあがったご飯はおいしい。
本当に美味しいんだよ!
ご飯一つでも、全然違うんだよ!
「旨いか?」
聞かれて、即答した。
「ハイ! 美味しいです! 一生ついてきます!」
武尊はお茶を爺むさくすすると、ふっと息をついて、ぽつりといった。
「空、言葉はもっと大切に使いなさい。いいな」
今度は掃除の手伝いだ。
武尊の家や境内をうろうろするうちに、羽が抜け落ちて酷い有様になっている。
白いから目立つし。
境内はこじんまりしているように見えて、掃除するとなると結構広い。
お堂は板張りになっている。
「へー。すごい広いフローリングだね。モップないの? これ、いつも一人で掃除してるの?」
お堂に上がり、キョロキョロみわたす。
「固く絞った雑巾で拭いている。いつもは手伝いがいるにはいるんだが」
武尊は何だか歯切れが悪い。
「誰? 手伝いって」
「空のために結界はったから、入ってこられなくて……」
きまり悪そうに頭を掻いている。
「は?? まさか、悪霊とか妖怪に手伝いさせてるの?」
なんだか嫌な予感がする。
「管狐といって…妖怪の一種になるのかな? あれも。昔、怪我したところを助けてやって、それ以来懐かれている。たぶん、あそぼお化けもヤツの仕業だろう」
はああ。妖怪が掃除手伝ってくれるのか。
「お経読んで、英語しゃべって、ご飯作って、お掃除して、妖怪手なずけて、すごーい」
すごーい、といいつつ、正直呆れた。
お坊さんってお経さえ読んでいれば、じゃんじゃん金が入ってくると思っていた。
「仕方ないじゃないか。寺を何でも屋だと思っている連中は多いんだ。突然外人のバックパッカーが寺に泊めてくれといってきたり、心霊写真のお祓いをしてくれと泣きつかれたり、妖怪が怪我したから助けてといってきたり。いろいろやるしかないんだよ」
武尊はそういって首をすくめてみせる。
坊さんっていろいろ大変なんだね。
同情しながら、ホウキをもってしゃかしゃか掃いていると…。
「空! どうしてお前は四角い隅を丸く掃くんだ。やり直し!」
厳しい声が飛んでくる。
うー。小姑ですか。あんたは。
それでも、言われたとおりに掃除をやり終えるとぴかぴかになった。
すっごく気持ちいい。
そのまま境内でうとうとお昼寝。
お料理作れるようになっちゃって、お掃除も上手にできるようになっちゃって、女子力アップだよねー。くふふ。
気が付くと、いつの間にか家の畳の部屋に寝かされていた。お腹にはタオルケットがかけられ、開け放たれた縁側では、蚊取り豚が静かに煙を流している。
空へ
お手伝いありがとう。
スイカと水羊羹が冷蔵庫に入っている。
仕事に行ってくる。 武尊
メモが置いてあった。
達筆だ。
小姑武尊からの差し入れを有難く頂くことにした。
うう、寒いよお。
季節外れでごめんなさい!
寒いの苦手なので現実逃避。




