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10 かかと落とし

私を連れて家に帰った後、しばらく武尊はパソコンをみたり、電話したりしていた。信じられない事に、アローとかなんとかベラベラ英語? を話している。国際電話だろうか。


坊主が外国語を話すなど世も末だ。

ニッポンといえば、寺。寺といえば、坊主。

坊主は日本の文化なのだ。その歩く文化が外国語を? 

坊主なら日本語でわめきちらせよ!


英語の成績が2、良くて3だった私は外国語撲滅派だ。

母も旦那のためとはいえ、よく外国などいったものだ。


「向こうの連中と連絡がとれた。関係者が是非お前を迎えに来たいといっている」


武尊にいわれたが、向こうの連中とか、全く知らないし。私が外来種だから、日本から追い出す計画のことか? 断 固 拒 否 ! してやる。


「お迎えですか? 必要ありません。ワタクシは日本を離れる気はさらさらありません。絶対、日本の畳の上で死んでやる」


柱につかまり、上目使いに睨む。


「畳の上で死にたいのか? 自宅の畳より病院のベッドで死んだ方が楽だぞ。それに、自宅で死ぬとケーサツがきてケツの穴で体温はかって死亡確認するらしいぞ」

武尊は腕組みをしていう。


「絶対嘘です!! 今はオデコで体温測れる体温計だってあるんですよ!」


って、そんな話をしている場合ではない。


「ヤダヤダヤダ! 外国なんか絶対行かないもん!」


「空、お前は絶滅危惧種なんだ。仲間がたくさんいるところに帰った方が安全なんだよ」


ため息をついて、武尊がいう。

パンダの気持ちがわかる。あっちでお見合いさせられて、こっちに贈られて。

だが、みせものパンダになどなるものか!


「いいえ。幸いここには、武尊という頼もしいボディーガードもおりますゆえ。カラスや、あそぼお化けや、天狗を追い払ってくれます。言葉も通じない海外など死んでもいきません」


「前にもいったが、俺の仕事はこの地域固有の生き物を保護し、お前を仲間の所に帰すことだ。ボディーガードはしてあげられない」


目を逸らして言う武尊に、ズキリとする。


いい。別に守ってもらいたいなんて、思わない。

今までだって、自分で自分の事を守ってきたんだから。

なんとかなる。なんとかする。

それよりも、何のために苦労して看護学校に入ったと思っているんだ!


「看護学校もまだ卒業してないし、看護師の資格もまだとっていないのです。私は世の為、人の為、金の為に看護師になりたいのです!」

力説した。


「世の為、人の為、それからなんだって?」


「金の為です! 看護師だけはくいっぱぐれがないのです。我が家の家訓は、『女だからこそしっかり稼げ、男はあてにするな』です。祖母は横暴な祖父と離婚して苦労しましたし、母は私の父にジョーハツされました。幸いなことに、母は祖母のいいつけを守り看護師になっていたので、くいっぱぐれることなく、私を育ててくれました。看護師になることが、いかに大切かわかったでしょう!」


胸を張って主張していると、思いがけないことに、突然武尊がガバリと土下座した。


「空、すまない。空のお父さんが蒸発してしまったのは、どうも俺の親父のせいらしい」


顔を上げずに言う武尊に驚いた。

武尊のお父さんが、私の父親の蒸発の原因?

どういうこと?

私の父親って……?


「武尊のお父さん?」


「ああ。今は絶滅危惧種保存委員会の仕事で海外にいる。保存委員会が天狗や河童など地域固有種の保護をしている話はしたよな。親父は俺の前に地域役員をやっていたんだ。空が天使の血を引いている可能性が高いことは、親父から役員の仕事を引き継いだときに聞いていた」


へえ。

私でもついこの前まで知らなかったのに。なんか腹立つ。


「空に羽が生えて天使になった事を親父に伝えると、詳しい経緯を記したメールが届いた。それによると、俺の親父が空のお父さんを国外に追放してしまったらしい」


「追放?」

また、えらく物騒な。


「空のお父さんは、イタリア国籍の天使で俳優のような美男子だったそうだ」


そういった後、疑わしそうな一瞥を私にくれた。

すみませんね、普通の日本人顔で。

それにしても、イタリアの美男子っていったいどんな人なんだ? 

今は、どうしているのだろう。


「羽をしまってしまえば、外見は人間と変わらない。でも、河童とか、天狗とか、カラスなんかにはわかってしまう。何が目的で日本に入国したかは知らないが、当然いろいろな生き物に襲われた。怪我した彼をたまたま助けたのが空のお母さんの夏美さんだ。そして、助けたのが縁で付き合い始めたらしい。外来種とみると、すぐに手出しする奴が後を絶たないし、騒ぎが起きると困るんで、すぐに彼に脅しをかけて帰国を促したそうだ。帰国しなければ、お前はもちろんお前の付き合っている女も妖怪に襲われることになるだろう、とね。半強制的に彼は日本から追い出されたんだよ。本当に短い付き合いだったはずだけれど、その間に空ができていたんだな」


「…………」


「井上さんちの夏美さんが未婚で子供を産んだと聞いて、親父は相当悩んだらしい。けれど、夏美さんはあっけらかんとして次の恋人をみつけたし、空はすくすくと人間として育っていたから、一応見張ってはいたけれど、大丈夫だろうということになったんだ」


「…………」


大丈夫だろう?

勝手に決めるな。


つい最近まで。

私は空を見上げて。

お父さんは天国あそこにいると思っていて。


きっと、お母さんはお母さんで。

突然消えちゃったお父さんをどれほど想ったことか。

一人で子供産んで育てて。

どれほど色々な事を思ったことか。


ちゃんと、もし説明してくれていたら。




「空……」


黙り込んだ私を気遣い、立ち上がりかけた武尊のみぞおちに、私のグーがめりこんだ。


武尊が崩れ落ちる。


あ、武尊じゃなくて、武尊のお父さんのせいだったっけ。

でも、そんなこと、どうでもいい。

なんか、いろいろ責任とりやがれ!


さらに片足を頭上に振り上げ、崩れ落ちた武尊の脳天に落とす。

母直伝のかかと落としだ。


自分よりかなりデカイ武尊にかかと落としを仕掛けるには、いったん屈ませる必要がある。みぞおちを殴られ、思わず屈みこんだところにかかと落としをお見舞いする。

女子にやられた場合、回し蹴りよりも踵落としの方が屈辱的で、精神的ダメージは大きい。

はずだ。


「…空、ぱんつが見えている。女の子がそんな恰好をしては…いけない…」


それなのに、武尊は呻きながら、そんなことをほざいた。

そういえば、借りた短パンが泥だらけになったので、スカートに履き替えたんだった。

それにしても、この間も私のぱんつ見てたよな…。この変態煩悩坊主が!!!


思わず、回し蹴りを追加した。


それに、ぱんつっていっても、私が今はいているのは、武尊から借りているトランクスだからね!

え? 余計に恥ずかしい?

ほっといてよ!


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