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死闘!海軍急降下爆撃機!   作者: ヨシトミ セイリン


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19/19

帰還

 「あっ!」

 唐突に答えに思い至ったのはポートだった。

 「電熱ピトー管!」

 

 ピトー管というのは空気の流れによって機体の速度を測るための装置。一本の鋭い棒の形をしていて、左主翼端に備え付けられている。

 このピトー管、凍り付くことがある。現状のように高高度の雲の中を飛んでいる場合は特に。

 

 こういった場合の対処のために電熱でピトー管に張り付いた氷を溶解できるようになっている。

 それが電熱ピトー管。


 ヘンダーソンがスイッチを入れてしばらく経つと、徐々に速度計が機能を回復してきた。

 3分も経つと完全にその機能を取り戻した。


 電灯の切れた延々と続くトンネル。一寸先は闇。怪談の舞台。

 とうとう雲を抜けた時、ヘンダーソンが感じた安堵はそこから抜け出せた安心感だった。


 千切っては投げたように雲が散在している。相変わらず視界は悪い。

 それでもヘンダーソンもポートも、色覚障害者が世界に初めて色を見たかのように喜んだ。

 

 そろそろ空母に電波が届くだろうか?

 ポートは戦果報告と、母艦までの誘導電波を発信してくれるように頼んだ。

 『敵空母一に命中弾。炎上及ビ傾斜ヲ認ム』

 『誘導電波発信サレタシ』

 

 返信も誘導電波も無い。

 ポートは悩む。

 航法が根本的に間違っていたのだろうか。それとも雲中飛行中、特にヘンダーソンが機体の姿勢を崩した時。

 あの時自分は航空図を見ていた。とはいえ目を離していたのは10秒にも満たないはずで、そんな大きく狂ったとは思えない。

 

 それとも無線機の故障だろうか?

 自分から確認できる範囲で異常は無い。

 無線機の内側は確認する術が無いから、見えないだけで異常無しとはならない。

 弾丸があるいは炸裂による弾片が食い込んだのかも。


 結局機体の位置なのか無線機の故障なのか、はたまた母艦に何かあったのか。

 往路で敵編隊が味方艦隊の方へ飛んで行くのを見た。

 母艦が被害を受けたのかも。

 

 この無限に広がる空と海。広漠さに呑み込まれる。そんな錯覚、あるいは幻想を笑うことはできなくなった。


 正確な現在地を知ることをできない。雲中飛行中のピトー管のトラブルが痛かった。

 あのせいでどれくらいの距離を進んだのかわからなくなってしまった。

 まさに雲を掴むような話。周囲にはこんなに沢山、手の届く距離に雲はあるというのに。


 今待っているのは燃料切れによる墜落。

 そう燃料。もう残量に乏しい。

 一応、目標海域に母艦がいなかった場合に多少周辺海域を捜索するだけの余裕はある。

 それでも大きく外れていたら墜死しかない。


 ポートが必死に無線で母艦に呼びかける側で、ヘンダーソンはいざ燃料が無くなったら急降下で海面に激突しようと思っていた。

 以前乗艦を撃沈されて漂流した人から話を聞いたことがある。

 カンカンに照り付ける日差し。飢え、渇き、サメの恐怖。

 救助される見込みは無く、それはつまり無意味に苦しんで死ぬことを意味する。ならばいっそ一思いに果ててしまう方が遥かに楽だ。


 さらに飛び続け燃料の残り30分。

 いよいよ覚悟を決める時が近づいている。

 

 予定海域に味方艦隊の姿はまるで見えない。

 やはり針路は大きく狂っているのだろう。

 通常ならに螺旋状に徐々に大きく旋回しながら艦隊を探す。

 けれど燃料の乏しい今、それはできない。

 ポートは艦隊を追い越してはいないと判断。Z字に起動して、前方180度だけを捜索するよう求めた。


 残り20分。

 間延びしたZを描きながらドーントレスは飛ぶ。

 幸い雲量は減少してきている。


 前方に立ち昇る黒煙が見えた。

 目印として狼煙を展開してくれたのだ!

 きっと無線は故障か電波封止中なのだろう。


 欣喜雀躍した2人は一直線に黒煙へ緩降下で飛んで行く。

 そしてすぐにおかしいことに気づいた。中々黒煙に近づかない。

 というより黒煙がやたら太い。狼煙じゃない。被弾して炎上しているのだ。


 目を凝らすと味方の戦艦が燃えている。艦隊に所属していたやつだ。

 艦体右舷及び後部主砲付近から火災。そしてどうやら傾斜を生じている。

 痛々しい姿。


 何より重要なこととして周囲に他の艦艇がいない。落伍したのか。

 猛烈に嫌な予感がヘンダーソンを襲う。

 戦艦が被弾したこと自体はそこまで問題じゃない。問題なのは、なぜ戦艦があそこまで痛めつけられているのかだ。

 

 海戦の主役は航空機に移った。航空主兵だ。

 当然の理として真っ先に航空戦力の源泉である空母が狙われる。

 つまり2番目以降に狙われる戦艦があそこまで損傷を負ったということは、敵は空母を撃沈もしくは大打撃を与えたと判断して、他の有力な戦力に打撃を与えるべきと判断したのだろう。


 上空を通る時、戦艦から発光信号があった。

 『空母ノ位置、3-3-8、20キロメートル』

 被弾して応急処置ダメージコントロールに追われているだろう。よくぞ自分達に気付いて、しかも母艦の位置を通報してくれた。


 20kmは目と鼻の先。墜死の恐怖から解放されて機体はスイスイと進む。

 2分もすれば見えてきた。

 

 着艦態勢に入る。

 ところが母艦が着艦するなと発光信号を送ってくる。

 一体どういうことか?

 答えは母艦を周回飛行している時にわかった。

 明らかに速度が遅い。着艦時に必要な速度に達していない。あれでは制動索アレスティング・ワイヤがあるとはいえオーバーランしてしまう。


 一体なぜ速度を上げないのか?

 ヘンダーソンは着艦のために空母を周回していたが、不意に喫水線が深くなっていることに気づいた。

 

 つまり発艦した後に大量の何かが空母内部に入ってきたことになる。

 被雷したのか。

 瞬時に悟ったヘンダーソン。

 おそらく被雷後、艦の並行を取り戻すために注水したのだろう。

 結果、大量の海水を飲み込むことになって速力の発揮が不可能になった。

 

 着艦できない。

 となれば着水しかない。

 

 駆逐艦が風上に停止して凪いだ海面を作り出していた。

 内火艇も降りて2人を拾い上げる準備をしている。


 「そういえば2人で海水浴はまだしたことなかったな」

 「楽しもう」

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