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「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…  作者: 遠藤 世羅須
第三章 魔界でも社畜でした

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第三章・第4話 コンビニの成功報酬

情報が必要な直人、怪しい魔人の面接。

信用できるのかわからないまま、業務脳は動く。

現実の朝は、音が柔らかい。

ヤカンの沸く音。食器の立てる音。ひなの足音。

直人はその日常の音を聞きながら、

頭の片隅で“昨日の侵入と面接”を整理していた。


「パパ、きょうも いっしょにいく?」

ひなが靴を履きながら聞く。


直人は一拍置いて頷く。

「行こう。……一緒に。念のためね」

「やったぁ」

妻が笑う。

「その言い方、便利だね」


直人は黙って頷く。便利だから使う。守るために。


道のりはいつも通り。

幼稚園で直人は物置裏を見る。

……UIの『不安定化』のアラートが頭をよぎるが、

今はかろうじて閉じているようには見える。

俺が魔王として仕事に忙殺されている間も、

現実は容赦なく揺れ続けている気がして落ち着かない。


今日は“父親の朝”を優先した。

ひなを渡し、先生に頭を下げる。

当然、「ミリア先生」はいない…

「お願いします」

ひなが手を振る。

その小さな手が見えなくなるまで、直人は歩き出さなかった。


帰り道、直人は昨夜の面接相手を思い出した。

ケットシー。

軽い口。音のない足。得体が知れない。

「取っておきのもの、出す?」という含み。

(対価は何が?)


直人の視線がコンビニに向き、身体が吸われる。

猫用おやつの棚。スティック型。目線が外せない。

理性が嫌がる。

だが現実の感覚が「買え」と言う。

直人は3本入りを一袋買った。

念のためだ。便利な言葉が、ここでも働く。



PC前に戻り、ミュートを入れ、魔王コマンドを押す。

現実の音が遠のき、空気が反転する。


玉座の間。豪華な静けさ。

ミリアが当然のように立っている。

「お帰りなさい♡」

ミリアがニコニコしながら言う。


「今日は先に昨日の現場を見る」

ミリアが目を瞬かせる。

「面接は?」

「後だ。昨日破られたB1B2の被害と再生確認が先」

シズクが無言で後ろに付く。


B1:スケルトンメイジ

B1は、冷えた静けさがある。

骨の匂い。乾いた音が返る。

通路の壁に削れた跡が残り、床には白い粉――骨片の名残が散っていた。


直人は状況を見て、短く問う。

「状況は」

スケルトンメイジが、杖を支えながら頭を下げた。

「大したことではない」

直人は頷く。

「再生は?」


スケルトンメイジは杖先を床に軽く触れさせる。

残っていた部分の骨片が、ゆっくり集まって形を取り戻していく。

“倒されても戻る”という、設計の核が実際に動いている。

ミリアが小さな声で

「カワイイ♡」


直人は一拍置いて言う。

「……良い。設計通りだ」

シズクが淡々と補足する。

「再生時間1日は想定内。魔力消耗も許容範囲です。

 十分な『壁』かと」

直人は判断を出す。

「回復を共有して。次回は“戻るまでの隙”を作るな」

スケルトンメイジが頷いた。

「承知した」


B2:キングスライム

B2は、逆に湿っている。

壁の一部が溶けたように光り、床に粘り気の残滓がある。

だが整えられている。

戦闘の片付けが終わっている空気だ。


キングスライムは、堂々と鎮座していた。

王冠みたいな形の身体が、ぷるんと揺れる。

その巨大なゼリー状の全身を、少しだけ波立たせる。

既に形が戻っている。


(既に再生してるのか)

“増えて戻る”のがスライムの怖いところで、

今回はそれが味方に働いている。


直人は確認する。

「回復が早いな」

キングスライムは、

「かすり傷だ」

ミリアが嬉しそうに言う。

「すぐに修復♡」

直人は

「痛みもないのか?」

キングスライムは

「核は少し痛みがあるが、問題ない」

ミリアがにこにこ。

「普通のスライムじゃないので♡」

直人は最後に労う。

「よくやってくれた」



玉座の間へ戻る。

直人は小さく息を吐いた。

「B1B2は、破られても“折れない”」

シズクが淡々と言う。

「再生可能ボスは価値があります」

直人は頷く。

「だから設計を変えた。これでいい」


そして、直人は立った。

今日は交渉だ。

「ミリア、呼べ」

「はい♡」


扉が開き、小さな影が入ってくる。


ケットシー。外套。尻尾。人の目。

入るなり、にやりとした。

シズクが、そっと背後の剣に手を添える。


直人のポケットの奥で袋がカサリと鳴った瞬間、

ケットシーの鼻がピクピクと動いた。

「お土産持ってきたにゃ」

「なぜ分かる」

「匂い」

(嗅覚が異常。情報収集能力)

直人は内心で評価を更新する。


直人は結論から言う。

「欲しいのは情報だ。ナンシーの」

ケットシーが尻尾を揺らす。

「欲しいだろ?」

直人は否定しない。

「そうだ」

「じゃあ交換にゃ。お土産と」


直人は先に線を引く。

「門に触るな」

「触らないにゃ。……その代わり、お土産」


直人はポケットの袋を指で触った。

現実で買ったスティック型おやつ。

判断する。

情報が必要だ。今ここで渋ると、次はもっと高くなる。


直人は袋を出し、一つ無言で差し出した。

ケットシーの目が、わずかに開く。

次の瞬間、封を噛み切って——狂ったようにむしゃぶりついた。

吸い込む。飲む。尻尾が震える。

目が半分とろける。

挿絵(By みてみん)


ミリアが小声で囁く。

「効いてる♡」

直人は待つ。沈黙に仕事をさせる。

やがて、ケットシーが息を吐いた。

「……生き返るにゃ」


直人は確認する。

「情報は」

ケットシーは軽い口調に戻る。

「ナンシーは“窓口”にゃ」

直人の眉がわずかに動く。

「窓口」

「書式で殴る役。怒らせると期限が増える」

直人は判断する。

(一次窓口。殴っても本体に届かない)

ケットシーは続ける。

「“軽微”って言葉は使うなにゃ。定義が必要になる」


直人は頷く。

「重大だけ書く」

「門は?」

「現象だけ。期限は書くなにゃ」

直人は頷く。

シズクが背後で小さく肯定した。

直人は結論をまとめる。

「形式で勝つ。中身は出しすぎない」


ここで直人は“雇用”を提示する。

「協力してほしい。情報担当として」

ケットシーは即答した。

「誰の下にもつかにゃい」

直人は確認する。

「理由は」

「首輪が嫌い」

直人は判断する。

雇用は不可。だが協力は欲しい。


「じゃあ請負」

ケットシーの目が少しだけ柔らかくなる。

「それならいいにゃ」

「成功報酬」

ケットシーが尻尾を揺らす。

「それ。おやつ欲しいにゃ」


直人は口では処理する。

「分かった。成果が出た分だけ渡す」

ケットシーが満足そうに頷く。

「傭兵にゃ」


直人は表情を変えない。

内心でだけ呟く。

(コンビニだけどな)


直人は最後に確認する。

「門に触るな。これだけは許さない」

「触らないにゃ。匂いだけ嗅ぐにゃ」


直人は一拍置く。

「頼む時はどうすれば」

「これをわたすにゃ」


ケットシーは、”ベル”を直人に渡す。

ハンドベルのような小型の形状、

振ってみると、風鈴のような涼やかな音色。

不思議な音が脳に直接問いかける。


「こんなもので大丈夫か?」

「問題ないにゃ。どこにいても聞こえるにゃ」

「預かる」


「シュレにゃ。よろしくにゃ」


(シュレか…、ここにも不確実性があるな)

直人は一言

「シュレ。働け」


玉座の間の空気が、少しだけ動いた。

部下ではない。雇用でもない。リスクはある。

だが必要な“耳”が繋がった。

協会の情報は貴重だ。


直人は淡々と言った。


「……次はナンシーに返す。形式で勝つ」


直人はポケットの中のスティックを触りながら、

——現実の投げ銭が、魔界の切り札になるとは思わなかった。

次からは買い置きか。

その発想に自分で呆れながら、妙に納得していた。


ミリアが小さく笑った。

今日は、その笑いが少しだけ心強かった。


(つづく)

目と耳を手に入れた直人、

この後、硬軟、色々物語が動きます。

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