表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…  作者: 遠藤 世羅須
第三章 魔界でも社畜でした

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/58

第三章 第1話 定期報告

本話より第三章となります。

タイトル改変致します。新タイトル

『「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…』となります。

直人君、いよいよ魔界という巨大な世界に立ち向かうこととなります。

まずは、魔王協会からのメール対応となります。

玉座の間は、静かだった。

直人は玉座に座っている。

座ると決めて座る。

それだけで、背中が少しだけ真っ直ぐになる。

目の前に浮かぶ文面は短い。


【要件】定期報告

【期限】至急

【差出】魔王協会 担当ナンシー


直人は息をひとつだけ吐いた。

現実のメールと同じ手触りがある。

「至急」「定期」「担当」——これが揃うと、詰む。


隣のミリアは、いつもの笑顔で立っている。

銀髪。青いダイヤ。煽りの顔。

だが今日は、笑顔の温度が少し低い。


「ミリア」


直人は努めて冷静に聞く。

「これは何だ」


ミリアは即答する。

「魔王さまのお仕事です♡」


直人はまず確認する。

「協会は何を要求している」

「報告書です♡」

「提出しないとどうなる」


ミリアは笑顔のまま言う。

「困ります♡」


直人は一拍置く。

「困る、の中身」


「補給が止まったり♡」


「……補給」


直人は低く繰り返した。




補給。

宝箱。資材。食料?

今やっと“回り始めた”現場の血液だ。


直人は声を絞り出す。

「ここだけで回ってるんじゃないんだな」


ミリアはにっこり

「はい♡」


直人は結論を出す。

「提出が義務だな」


ミリアが嬉しそうに言う。

「素直♡」


直人は淡々と続ける。

「こちらの主導権が残る形で、最小限で出す」


ミリアはにこにこ。

「魔王さまの好きな書類♡」


「好きなものか」


直人はミリアをじっと見つめる。

いたずらっ子の顔に戻ってる。

だが、さっき「補給が止まる」と言った時の彼女は、

明らかに“協会の仕様”を知っていた。


最初にPC画面に現れた時には驚いた。

”推し”が現れたと動転した。

幼稚園に現れた時も心底驚いた。


しかし、ここ迄来ると、

底知れない淀みを感じている。

一体こいつは何者なんだ?


どうせ聞いてもごまかされる。

考えていても仕方ない。

今はやるべき事をやる。


報告書のフォーマットは、目が痛い。

見慣れた“項目の圧”だ。


直人は流し読みしない。必要箇所だけ抜く。

「必要なのは、稼働状況、事故、門、階層の変更——」


直人は指を止めた。

「……在庫報告もあるな」


ミリアが笑顔で言う。

「あります♡」


直人は短く。

「宝箱と資材。食料。現場が止まるところを突かれてる」


シズクが、部屋の端にいつの間にか立っていた。

背筋が真っ直ぐで、声も真っ直ぐだ。


「魔王様。提出は必要です」

「分かってる」

「ただし、書きすぎると干渉が増えます」


直人は頷く。

「前魔王もこれを?」


シズクは一拍置く。

「はい。定期で」



直人は、最小限の文章に落とす。

稼働:安定

重大事故:なし(軽微は内規で処理)

門:不安定(対策中、詳細は保留)

階層:増設あり(稼働中)

補給:継続希望


書き終えた瞬間、直人は気づく。

これは“報告”ではなく、“存在証明”だ。

「魔王生きてるか?」という確認。

直人は小さく息を吐いて、送った。



しかし、

返事は速かった。

速すぎて、嫌な汗が出る。


【差出】担当ナンシー

【要件】差し戻し

【理由】不備あり


直人は目を細める。

「……不備」

「……早すぎる。自動チェック(bot)か?

 いや、手動だとしたら最悪のレスポンス速度だ」


ミリアが嬉しそうに言う。

「お仕事の手際がいいです♡」


直人はミリアを見ない。

見たら腹が立つ。八つ当たりしそうだ。


差し戻し理由は短い。

“軽微”の定義が曖昧

“階層増設あり”の範囲が不明

“門:不安定”は具体性不足

在庫報告の数値未記載


玉座の肘掛けに指を置き、壊さない程度にふっと力を抜いた。

現実のデスクなら、間違いなく叩き割っている。

ここでやったら玉座が死ぬ。


「……やり方が現実と同じだな」

直人の声は低い。怒鳴りではない。


ミリアがにこっとする。

「同じ社会♡」


直人は一拍置く。

「社会は嫌いじゃない」



直人は書き直しを始める。

“軽微”の定義を作る。

“階層増設”の範囲を明記する。

“門の不安定”は最低限だけ具体化する。

数字は最低限。


直人は言葉を選ぶ。

選びすぎない。選ばなさすぎない。

ちょうど相手の手が入らないラインを探す。

現実で培った、最悪な技術。


「ミリア。門はどこまで書くべきだ」


ミリアは即答しない。

一拍置いて、甘い声のまま言う。

「……書きすぎない方がいいです♡」


直人は頷く。

「なら、現象だけ。対策中。期限は書かない」


シズクが静かに言う。

「“期限”を書けば、期限で殴られます」


直人は短く返す。

「分かってる」


直人は再提出した。



直ぐにまた返事が来る。

今度は不備が減っている。

減っているが、ゼロではない。


【要件】追加提出

【内容】在庫報告(宝箱/資材)を別紙で提出


直人は目を閉じた。

別紙。

現実で言うところの「追加資料」だ。

この沼に入ると抜けない。


直人は目を開け、判断を出した。

「協会対応の前に、現場の実態を把握する」


直人は言った。

「宝箱と補給が“止まる”のが一番困る」


ミリアが嬉しそうに言う。

「魔王さま♡ 優先順位♡」


直人は、玉座の間で呼ぶ。

「宝箱隊」


すぐに、規則正しい足音が来た。

カタ、カタ、カタ。

仕事の足音。


マリオネットが一体、礼をして前に出る。

胸元の札に『隊長』。

「魔王様。宝箱運用、報告します」


直人は頷く。

「補給が止まると、何が起きる」


マリオネットは即答する。

「低位箱の循環が落ちます。中位以上が空箱になります」


直人は一拍置く。

「撤退率が落ちるな」


直人の胃が冷える。


直人は質問を続ける。

「在庫報告は出せるか」

「出せます」

「数字は?」


マリオネットは薄い紙を差し出した。

書式が整いすぎている。書類文化が浸透している。

カチャ、カチャと顎の関節だけを機械的に動かしながら、

抑揚のない声で報告を始める。


「直近一周期」

「侵入:三組」

「開封:低位十四、中位二、高位零」

「未回収:三」

「中位在庫:薄」

「高位在庫:なし」


直人は頭の中で整理する。

(高位ゼロは問題ではない。中位が枯れると誘導が弱まる。

 未回収三は回収で対処)


直人は結論だけ言う。

「未回収は回収。中位は必要最小限を維持。高位は今は要らない」


マリオネットが礼をする。

「了解しました。手動補充致します」


直人が頷く

「手動補充はこういう事だったか」



直人は次を聞く。

「補給を止められた時の代替は」


マリオネットは一拍置いて答える。

「コレクターカラスが採集しますが、現場で賄うには限界があります」



直人は頷く。

「つまり、報告を落とすと現場が詰む」

 

ミリアが嬉しそうに言う。

「魔王さま♡ 魔界でも上司が♡」


直人が

「ここでも社畜か」



直人は決めた。

「協会には出す。必要最低限。現場を止めないために」


そして、もう一つ。

「宝箱隊。今後、在庫数字は日次で上げろ。俺がまとめて出す」


マリオネットが即答する。

「承知しました」


シズクが静かに言う。

「魔王様。それが統治です」



直人は息を吐いた。

統治は、守るための仕事だ。

守るためには、面倒な手続きを飲み込む必要がある。

それが分かってしまうのが、現実の悪い癖だった。


直人は玉座の間で、もう一度“別紙”を開く。

担当ナンシーの名前が、画面の隅でこちらを見ている気がした。



直人は小さく言った。

「……やってやるよ。付き合ってやるよ」


ミリアが満面の笑みで言う。

「魔王さま♡ 新章、開幕♡」



直人はミリアの後ろに大きな世界を見た気がした。



手を止めると、何かを失う気がした。

だから、ただ指を動かした。


現場を止めないために。


そして何より、門を守るために。

挿絵(By みてみん)


(つづく)

早速社畜の匂いが露呈してしまいました。

今後の憂鬱が確定してしまった感じです。

直人君、腹を決めないといけないですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ