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リモート会議してたらダンジョン管理者になって、改善してたら魔王に定義されました。略称「リモート魔王」  作者: 遠藤 世羅須
第二章 魔王編 通勤魔王

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第二章 第24話 覚悟のB6へ

宝箱隊の存在を知り、さらにダンジョン運営を進めたが、やはり門が最大の関心事。

直人君、次なる一手を。

おっと、その前に、現実です。

朝、直人は「言葉」でつまずいた。

zoom会議。

画面の向こう関連先の顔と、自社の同僚の顔。

いつも通りの議題。いつも通りの進行。

いつも通りのはずだった。


「では、先方の——」

直人はそこで止まった。

出てこない。

“いつも使っていたはずの単語”が、舌の上に乗らない。

喉の奥に引っかかって、空気だけが漏れる。

(何だっけ……)

キーボードを叩く指先から血の気が引き、

異界の石床のように冷え切っていくのを感じた。


沈黙が、会議の空気を一段冷やす。

直人はすぐに回避策を取った。

別の言い方。遠回り。言い換え。

「……要は、リスクの見える化です。影響範囲を先に押さえます」


その場は流れた。

流れてしまったから余計に怖い。

会議が終わり、Slackの通知も捌き終え、直人は椅子に深く沈んだ。

胸の奥に、穴が空いている。


記憶が欠ける。

それは「大事な思い出」だけじゃない。

日常の仕事道具――言葉すら、抜ける。

(俺、また欠けたのか)

怖くて確認できない。

何が欠けたのか探す行為自体が、崩落チェックみたいだ。


直人は呼吸を整え、家の音を聞いた。


ひなの笑い声が一瞬だけ聞こえて、また遠のく気がした。

実際は誰もいないのに。

その声は、現実に繋ぐ錨のようだった。


直人はスマホを見る。

妻からの短いメッセージ。

妻:無理しないでね。

無理しているのは分かっている。

でも、これ以上“欠ける”のも無理だ。


Lv5。

ミュート5分で、向こうは6日。

つまり、自分が黙っていれば、魔界で“長く”居られる。


直人はその事実に、嫌な感慨を抱いた。

長く居られる。

長く居られる、ということは。

「……長く、会えない」


美沙と。

ひなと。


現実の五分が、魔界の6日になる。

現実の“今日”が、魔界で何度も暮れていく。

向こうの方が濃くなる。向こうの方が「生活」になっていく。

それが怖かった。


直人は小さく息を吐く。

「俺は……現実に居たいんだよ」

誰に聞かせるでもなく。

自分の意思を、言葉にして固定するように。

それでも現実は守れない。


門は揺れる。

運用は重くなる。

「居たい」と「守れる」は別だ。

直人は立ち上がった。

椅子を引く音を殺し、PCの前で指を動かす。


個人ミーティングルームを開始し、ミュートを入れた。

これで準備はできた。


【コマンド】

・魔王


一瞬ためらった後、

「魔王」コマンドを押す。


現実の音が消える。

視界が反転する。

部屋の空気が剥がれ、玉座の間が立ち上がる。

同時に、異界の空気が――薄い膜みたいに重なってくる。


ミリアが、いつもの顔でそこにいる。

「お帰りなさい♡」


直人は短く言った。

「B6を作る」

迷いがある時ほど、現実の言葉で仕事をする。

自分でも嫌になる癖だ。


だが癖がなければ、今の自分は崩れる。

杖のUIで、増設コマンド。

B6。

進捗バーが伸びる。

空間が“深く”なる感覚。重力が増える感覚。


その後、いつものように訓練。

いつにも増して力が入り、時間を忘れる。


そして魔界の次の日。

【増設:完了】B6

直人は息を吐いた。

そして、画面を見て固まる。

【魔王Lv】Lv:5(変動なし)


「……上がらない?」

声が、思ったより掠れた。

ミリアは涼しい顔のまま、首を傾げる。

「上がりません♡」

直人の喉が鳴る。

「なんで。今まで階層作ったら上がってただろ」

ミリアは笑顔を崩さない。

「”今までは”です♡」


直人は拳を握った。

(何かが変わった。運用が重くなる、ってこういうことか)

「……条件が変わったのか」

ミリアは、ここだけ少しだけ真面目になる。

「Lvが上がるほど、世界が“重く”なります♡」

直人は目を細める。

「重く?」

「フロアを一つ作るだけで上がるのは、初期だけ♡」

「じゃあ、今は」

ミリアは軽い声で言う。

「もう少し、手間が必要です♡」


直人は、声を荒げない。

「……つまり、これからは、一つ作っただけじゃダメってことか」

ミリアはにっこりする。

「はい♡」

その答えが、現実の会議より重い。


階層を増やせば上がる。

その単純さが終わる。

門の強化が遠のく……


直人は、視線を床に落とした。

ひなの寝顔が脳裏に浮かぶ。

妻の「無理しないでね」が刺さる。

(俺は、強くなりたいんじゃない)

(守りたいだけだ)

守るために強くなる。

その矛盾を飲み込むしかない。


「訓練室」

直人が言うと、シズクが無音で現れた。

現れるというか、最初からいたように立っている。

「異界の魔王様」

「……訓練する。今日も」

シズクは即答する。

「はい。遅いです」

直人は頷くだけにした。


訓練室の空気は、遊び場の匂いが混じっている。

魔物たちが散っていく気配。

直人が命じたわけでもないのに、道が空く。

シズクの統治が染みている。


シズクが短剣を抜く。

動きは小さく、刃は真っ直ぐ。

直人は角が天井に当たらないか気にしながら構える。

その時点で、もう負けている。

「目線」

シズクが言う。

「相手の手を見ない。腰を見てください」

直人は従う。


従った瞬間、床が滑る。

――転ぶ。

直人は受け身を取り切れず、肩から落ちた。

痛みは軽い。

魔王装備がある所は防御効果がある。


シズクが見下ろす。

「装備に助けられました」

直人は息を整えながら立ち上がる。

「……助けられてる間に、動けるようになる」


シズクは一拍置いて、頷いた。

それが“評価”だった。


そこから先は、言葉が減った。

直人は必死に動き、必死に呼吸し、必死に倒れた。

倒れるたびに、立ち上がり方だけは上手くなる。

情けない成長。でも、成長だ。

汗が落ちる。

魔界の夜が濃くなる。

現実の五分が減っていく。

挿絵(By みてみん)


直人は、ふと我に返った。

(いま、ひなは何してる)

(妻は、俺が黙ってることに気づくか)


その瞬間、胸が痛んだ。

痛いからこそ、足が止まりそうになって、止めない。

足の感覚が慣れてきたようだ。

一瞬、コントロールが上手くいく。

シズクが短く言う。

「……今のは、避けました」

直人は肩で息をしながら、頷く。

言葉にすると崩れる気がして、頷きだけで返した。


そこに、報告が割り込んだ。


通知が割り込む。


【取得】高マナ素材:確保

【取得者】狩猟休暇班



別報告で「狩猟休暇」も確認する。

トロールとワーウルフから出されていた。

昨日の日付で提出されていた。


直人は一拍止まる。

「……高マナ素材?」

ミリアがニコニコする。

「魔王さま♡ レベル上げたいなら♡ こういうの♡」


訓練部屋の隣の“物資集積所”。

そこに、ワーウルフ数体と、筋肉担当のトロルが並んでいた。

足元には、布で包まれた大きな何か。

包まれているのに、脈を打っている。


直人は立ち止まった。

「……それ、生きてない?」

ワーウルフが胸を張る。

「生きてる。鮮度だ」

(この世界、鮮度の概念が怖い)


トロルが布を持ち上げる。

中身が見えた瞬間、直人は水棲爬虫類を思い出した。


黒い。ぬめる。

表面に、目玉みたいな粒が並んでいる。

粒が、瞬きした気がした。


「……目、ある?」

ミリアが嬉しそうに言う。

「あります♡」

「嬉しそうに言うな」


それ以外にも、脈打つ”臓器”のようなもの。


ワーウルフが真面目に報告する。

「狩猟休暇の成果だ。高マナ材料。魔王の糧」

直人は冷や汗を拭く。

「成果は評価する」


理屈より先に、体が「欲しい」と言う。


「……いつ食べられる」

ミリアが横から、楽しそうに囁く。

「欲しがる魔王さま♡」

「……早く。なるべく早く」

声が、自分でも意外なほど切実だった。

シズクは素材を一瞥した。

「……高マナ素材は、そのままですと、異界の魔王さまには毒になります。

 私が時間をかけ、毒素を抜きます」


シズクが直人を見る。

「異界の魔王さま。これを摂取すれば、マナが少しだけ安定します」

直人は眉を寄せる。

「すこしだけ?」

「はい。完全ではありません」

ミリアがにこにこする。

「魔王さま♡ ドーピング♡」

直人は視線だけで止める。

「無いよりマシということか」


シズクが淡々と結論を出す。

「では、訓練を続けてください」

直人は頷く。


直人は息を整え、もう一度構え直した。

「……次」

シズクの刃が、静かに上がる。


そして直人は思った。

(B6は作れた。Lvは上がらない)

(でも、俺は上げるしかない)


現実を守るために。

次の一歩を、必死に踏み出す。


(つづく)

門の強化が出来なかったB6、もう次へ進めるしかないです。

しかし、同時に、自分も鍛えなければなりません。

次回、きっかけが来ます。

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