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「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…  作者: 遠藤 世羅須
第一章 定義してください

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第2話 定義未実施のゴブリンたち(ゴブリン編)

「ダンジョン管理者」になった直人が次にやるのは、剣を振ることじゃない。

仕様の確認と、現場の整理——つまり、仕事だ。

直人が最初に整えるべきものがある。

「ゴブリンの“巡回」だ。


直人は“玉座っぽい椅子”の背に、ゆっくり体重を預けた。

妙にフィットする。腹立たしい。


画面右上、ISSUE-002が点滅している。

ISSUE-002:ゴブリン巡回怠慢(定例未実施)

「……巡回怠慢の定義して下さい」

直人が言うと、ミリアは推しの顔で当然のように頷いた。

「定義、承りました♡」

「軽いな」


ミリアが指先を滑らせると、ダンジョン監視映像が切り替わる。

“休憩室”みたいな薄暗い部屋。

そこに、ゴブリンが三体。床に座って、何かを食べている。

そして――寝ている。


「寝てるね」

「寝てますね」

「巡回は?」

「してませんね」

ミリアが微笑む。煽る目だ。

「直人さま。初日から“現場を動かせない”んですか?」

挿絵(By みてみん)


直人の目が乾く。仕事スイッチが入った。

「現場が動かないのは、動けない理由があるか、動く理由がないかだ」

「かっこいい。S、出します♡」

「出さなくていい。まず現状把握」


直人はコンソールの「ゴブリン隊:管理」を開く。

なぜかプロフィールがある。なぜか個体名もある。

ゴブリンA:グブ(勤続3年・現場リーダー)

ゴブリンB:ボゴ(勤続1年・槍担当)

ゴブリンC:ニョ(勤続2ヶ月・新人)

「……勤続年数あるんだ」

「あります♡ 退職もあります♡」

「怖いこと言うな」


直人は、ため息を飲み込んでから言った。

「ミリア。1on1の場を設定」

「はい、魔王さま」

「魔王って言うな」

ミリアが指を鳴らす。

パチン。

すると監視映像のゴブリンたちの頭上に、勝手にUIが浮かぶ。

《1on1 招待:出席必須》

《議題:巡回の目的と障害》


ゴブリンA――グブが、ぱちっと目を開けた。

やたら“社会人”っぽい反応で、周囲を見回す。

「……おい、通知来たぞ」

「新人、議事録係な」

「えっ、オレ!?」

直人は思わず口を押さえた。

(議事録文化がある……!?)

ミリアが嬉しそうに囁く。

「直人さま、あなたの匂いがします」

「俺じゃない。俺は今日が初日だ」


――ピロン。

現実側のSlackが鳴る。

「佐倉さん、顧客から“また落ちた”って連絡です」

直人は一瞬だけ目を閉じる。

現実もダンジョンも、落ちる。落ちすぎる。

「了解。原因切り分けします」

直人は現実に返信しながら、ダンジョン側の会議を開始する。

二重定例。地獄。


ゴブリン1on1(会議室B:通路の角)

ミリアが会議用の“演出”を足した。

通路の角に、なぜかテーブルが出現する。


「勝手に備品を増やすな」

「雰囲気が大事です♡」

ゴブリンたちが座る。


挿絵(By みてみん)


直人は淡々と進める。

「巡回、してない理由を出して」

「えっと……」グブが指を折る。

「疲れる」

「暗い」

「怖い」

「腹減る」

「あと……侵入者、来ないし」

直人は頷いた。正しい情報だ。

そして、容赦なく切る。

「来ないからやらないは、巡回の目的が共有されてない」

ミリアが小声で煽る。

「刺さってますね♡」


直人は続ける。

「巡回の目的を定義する」

ゴブリンBボゴが首を傾げる。

「目的って……歩くことじゃないの?」

「違う。巡回は“異常の早期発見”と“抑止”だ」

ミリアが、わざとらしく感心した声を出す。

「わあ、上司だ♡」

直人は無視して、ホワイトボードを出した。

なぜか通路の壁に“ホワイトボード”が生える。やめてほしい。


直人は書く。

巡回:異常(侵入・罠破損)の早期発見

抑止:侵入者に“見られている感”を与える


ゴブリンCニョが手を挙げた。

新人のくせに礼儀だけは良い。

「しつもんです! 抑止って、なにをすれば抑止ですか!」

直人は即答する。

「見えるところを歩く。足音を出す。」

「なるほど!」

ニョが議事録に必死で書く。

グブが、おそるおそる言った。

「でも、暗いのは本当に暗いです……松明、少ないです」


直人が頷く。

「暗いは“障害”。じゃあ改善する。松明を増やす――ただし」

ミリアが口を挟む。

「侵入者に優しくしすぎると、つまらないですよ?」

「つまらないの定義して」


ミリアが少しだけ悔しそうに笑った。

推しが悔しがると、直人の承認欲求が危険に揺れる。


直人は冷静を装い、条件を付ける。

「松明は“巡回ルート上だけ”増やす。侵入者の導線全体は照らさない」

グブが感動している。

「管理者さま、すごい……!」

ミリアのUIが勝手に出る。

承認欲求:+12

直人は眉間を押さえた。

「余計な数値を出すな」


ゴブリンが“有能化”しすぎる

直人は次の一手を打つ。

最適化の鉄板――“仕組み化”。

「巡回を“気合”でやるな。仕組みで回す」

ミリアが拍手する。

「そのセリフ、刺さる〜♡」


直人はコンソールに設定を追加する。

巡回ルート:3本(A/B/C)

シフト:2時間ごと交代

チェックポイント:6箇所(通過で自動ログ)

“さぼり検知”:チェックポイント未通過でアラート

インセンティブ:達成で「干し肉」支給

「干し肉……」


ゴブリンたちの目が、露骨に変わった。

動機は大事だ。たいてい腹だ。

グブが立ち上がる。

「よし! やるぞ!」

ボゴも槍を構える。

「干し肉のために!」

ニョが議事録を抱えて叫ぶ。

「巡回、がんばります!」

ミリアが直人に耳打ちする。

「ほら、現場動きました。褒めてあげます?」

「褒めなくていい。結果でいい」

直人は冷たく言ったつもりだった。

だが、ミリアが小さく笑う。

「ドライ〜♡ 最高」


Zoom側の地獄も進行中

――ピコン。

Zoomのチャットが光る。

リーダー:佐倉さん、今週のリリース、巻けます?

営業:顧客が今日中って…

直人:要件を定義して下さい

送ったあと、直人は小さく呻いた。

家でも職場でも異世界でも、同じことを言っている。

ミリアが楽しそうに言う。

「直人さま、二世界同時に“定義”してますね」

「誰が望んだんだ、そんなマルチタスク」

挿絵(By みてみん)


そして“副作用”が出る

仕組みは動き始めた。

ゴブリンたちは巡回し、チェックポイントを通過し、ログが溜まる。

だが――彼らは“学習”した。

グブが言う。

「管理者さま、巡回ログ、週次でまとめました」


直人は嫌な予感を覚えた。

予感は当たる。

ニョが元気に読み上げる。

「提案1! 巡回の成果を見える化するために、毎朝30分の“定例”を実施します!」

「やめろ」

「提案2!二重チェックにします!」

「……それは、ちょっと良いけど」


ミリアが、口元を押さえて笑っている。

推しが笑う。最悪に可愛い。最悪。

「直人さま。現場が“あなた”になってます」

「俺の悪いところまでコピーするな!」


ゴブリンたちはやる気満々だ。

良いことだ。良いことのはずだ。

だが、直人は思った。

(現場が有能になると、世界は回る)

(でも、会議が増える)

(会議が増えると、世界は遅くなる)


そのとき、ダンジョン側のセンサーが小さく鳴った。

まだ遠い。

外周の入口に、微かな反応。

ミリアが指先でログを拡大する。

侵入者反応:あり(小)

種別:不明


ミリアが、嬉しそうに囁いた。

「来ますよ。外の人が」

「……勇者か?」

「まだ“冒険者”です」


ミリアが微笑む。煽る目だ。

「直人さま。S、欲しいですよね?」

直人は一瞬だけ黙って、そして言った。

「……まず、Sの定義して」

ミリアが笑った。

それが“開始の合図”みたいに。


(第3話に続く)

巻き込まれた人間が、まだ逃げ腰のまま状況確認している段階です。

ただ、このままでは終わりません。

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― 新着の感想 ―
ゴブリンのプロフィールがかわいく、おもしろくて! ミリアとの掛け合いと推しに見られている緊張感! いつの間にか次の物語のボタンまできちゃいます!!
この物語、タイトルが「リモート魔王」って斬新でいいですね。在宅勤務の日常とダンジョン管理が自然に混ざっていて、笑えるところが多いです。特に直人の「定義して下さい」や仕組み化の癖が、リアルに刺さります。…
Xからお邪魔しました ミリアちゃんが可愛いし、めちゃ面白い! ゴブリンの定例とZoom会議の同時進行をこなす姿に笑いました(笑) ブクマをさせて頂きましたので、じっくり読み進めていきます
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