第二章 第5話 増築(本業?)
直人君の訓練は続きますが、どうすればLv上げる事が出来るのか気になります。そして魔王の「本業」?に挑むことに。
訓練部屋は今日も相変わらず遊び場だった。
スライムが跳ね、ゴブリンが木剣を振り回し、
角のある何かが壁に激突して弾まれている。
相変わらず火を吹く魔獣。
直人は一歩だけ中に入り、深呼吸した。
「シズク、『異界の』という二つ名やめてくれないか?」
「考慮いたします」
「考慮かよ」
シズクは手を叩いた。
「終わり。今日は増築してください。」
直人は眉を寄せる。
「増築?」
「階層を増やします」
ミリアが嬉しそうに言う。
「階層を増やすと魔王さまのレベルが上がります」
「魔王さまの本業♡」
直人は肩を落とした。
「本業が増築って」
玉座の間。
相変わらず豪華で、相変わらず座りたくない。
直人は渋々座り、UIを開く。
【管理】の中に、見慣れない項目が増えていた。
【ダンジョン】
・階層管理
・迷宮化(ルート編集)
・侵入者導線(推奨)
直人は【階層管理】を開いた。
【現在階層:1】
【増築:+1階層】
注意:1日あたりの増築上限:1階層
直人はそこで止まった。
「……“1日あたり1階層”?」
ミリアが頷く。
「はい♡ 造るの、重いので♡」
直人は眉を寄せる。
「“日”って、こっちの一日だよな」
「はい♡」
直人は舌打ちを飲み込む。
(ミュート5分=1日。つまり……)
直人は現実の癖で、頭の中に簡易計算表を出した。
ミュート5分=異界1日
異界1日=階層1つ増築できる
つまり現実で5分黙れれば、階層が1つ増やせる
直人は目を細めた。
「……会議で黙ってる時間、建築」
ミリアが嬉しそうに言う。
「はい♡ 会議がダンジョンを育てます♡」
直人はもう一つ、嫌な計算をする。
復活。
「俺が死んだら、復活は一年……だったな」
ミリアが頷く。
「いまは♡」
直人が続ける。
「レベルが上がると、復活は伸びる」
ミリアは笑うだけで、答えない。
その笑いが答えだ。
直人は低い声で結論を出す。
「……死ねないな」
シズクが背後で即答する。
「はい。ですので壊さないでください」
「壊すのと話違わないか?」
直人は視線をUIに戻した。
結局、やることは単純だ。
「階層を増やせば、レベルが上がる」
ミリアが指を一本立てる。
「はい♡ ただし、最初は分かりやすく上がりますが、だんだん重くなります♡」
「重く?」
「ゲームなので♡」
(うっ、こいつ自分のゲーム時代の仕様の事言ってる)
直人は【増築:+1階層】にカーソルを合わせた。
押せば増える。
押せば現場が増える。
押せば仕事が増える。
「……増やす」
ミリアが拍手しそうになり、直人の視線で止まる。
ミリアは口を尖らせたまま、囁く。
「偉い♡」
「本業・・・なのか?」
直人はクリックした。
床が震える。
遠くで岩が削れる音。
空気が一瞬だけ重くなる。
そして、UIが更新される。
【増築進行:開始】
必要時間:1日
上限:本日は残り0回
直人は目を細めた。
「……今日の分、使い切り」
シズクが頷く。
「はい。1日1階層縛りです」
「縛りって嫌な言葉だな。色々と」
「仕様です」
「仕様だともっと嫌だ」
「魔界は仕様です」
ミリアが嬉しそうに言う。
「明日は迷宮化しましょう♡」
「一本道を、嫌にします♡」
「言い方」
ミリアが笑顔で
「侵入者が疲れます♡」
直人は即答する。
「帰還推奨は同意だな」
直人は【迷宮化(ルート編集)】を開いた。
画面に、簡単な地図が出る。
今はほぼ一本道。
直人は現実の仕事モードで考える。
迷宮化=最適化。
侵入者導線=動線設計。
「……これは楽すぎる。ダンジョンじゃない」
ミリアが頷く。
「はい♡ だから抜かれます♡」
直人は歯を食いしばる。
ミノタウロス案件だ。門だ。
直人は“迷宮度”のスライダーを見つけた。
低/中/高。
「高にしたら?」
シズクが即答する。
「異界の魔王さまが迷います」
ミリアが吹き出す。
「魔王さま、自分で迷子♡」
「うるさい」
直人は中にした。
現実でもそうだ。急に全部は変えない。段階的に行く。
次に、導線。
直人は眉を寄せる。
「殺すと面倒が増える」
ミリアがにこっとする。
「魔王さま優しい」
「これは合理的判断だ」
直人は、コマンドで遠回り設定にした。
疲れる。だが安全。
そして、追い込みすぎない。
直人は小さく息を吐いた。
「……これでいい。まずは事故を減らす」
シズクが淡々と評価する。
「合格です。魔王さまにしては」
「余計な一言が入ってる」
「必要です」
増築が進む間、直人は現実の時間を思い出す。
現実で黙れば、こちらが進む。
なら、現実の会議を建築資材にするしかない。
「……明日から、会議が怖いな」
ミリアが囁く。
「黙るほど進みます♡」
「言ってくれるな」
「言いました♡」
直人は玉座の間の端に立ったまま、次の手を考えた。
階層を増やすだけでは、侵入者が来たらまた崩れる。
迷宮化で時間を稼いでも、根本は“守り”だ。
必要なのは――現場を任せられる人材。
直人は、ふとデーモンロードの顔を思い出した。
支配力。統治。撤退の誘導。
あいつなら、やれる。
直人は【雇用】を開きかけて、手を止めた。
まだ早い。
まずは相談だ。現場の経験者に。
直人は低い声で言った。
「……デーモンロード」
気配が揺れる。
あの“統治する圧”が近づく。
「呼んだか、魔王」
声が落ち着いている。余裕がある。
直人は短く要件だけ。
「次の階層、増やした。迷宮化も入れる。――フロアボスを増やしたい」
デーモンロードは一拍置いた。
「ほう。人材が欲しいか」
「そうだ。お前の方で、使えるのはいるか」
デーモンロードが笑う。
「“使える”の定義が雑だな」
直人は睨む。
「定義は必要ない」
ミリアが横で小さく笑った。
「成長♡」
直人が睨む。
ミリアはいたずらっ子のような眼で見る。
デーモンロードは肩をすくめるように言った。
「候補はいる。ただし――」
「ただし?」
「面接は必要だ。魔王としてな」
直人は息を吐いた。
面接。
現実でも嫌いな単語だ。
でも、逃げられない。
「……分かった。候補を出せ」
デーモンロードの目が細くなる。
「明日、連れてくる」
直人は玉座の間のUIを見る。
増築進行はまだ続いている。
現実の時計は進んでいない。
それでも、仕事は増える。
直人は低い声で言った。
「……次は雇用だ」
ミリアが、にやりと笑った。
「面接♡」
「本業だ」
(つづく)
増築と魔王のLvアップに挑む直人。当然フロアボス雇用もセットとなる。魔王の現場仕事が忙しい。魔王ってそうなのか???




