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「リモート魔王」――改善してたら魔王に定義されました。家族との絆が削られる魔王に…  作者: 遠藤 世羅須
第二章 魔王編 通勤魔王

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23/83

第二章 第1話 魔王LV1

いよいよ第二章「魔王編」開始です。直人は魔王になり、「門」を閉じたはずだったが・・・

封印処理:62% … 79% … 93% … 100%

【結果】接続遮断:完了

【警告】“残留”が発生する可能性があります。

直人は唇だけで動かした。

「……やめろ。続きを出すな」

「それわたしです♡」

早い。即答すぎる。


直人は深呼吸を一つだけして、モニター右下を見る。

そこに、見慣れないボタンが増えていた。

【コマンド】

・管理

・修繕

・雇用

・封印(実行済)

・――魔王


直人は目を細める。

「魔王」コマンド

「……押したらどうなる」

ミリアが涼しい顔。

「押したら、魔王です♡」

「もう魔王だろ」


直人は一瞬迷い――クリックした。


視界が“反転”した。

PCの画面が部屋になり、部屋の空気が現実から剥がれる。

次の瞬間、直人は立っていた。

豪華すぎる玉座の間。

「……やりすぎだろ」

天井が高い。無駄に高い。

赤い絨毯が敷かれ、柱が並び、照明が「陰影」を作る気満々だ。


ミリアが隣で当然のように立つ。

異界衣装。青いダイヤ。煽り顔。

「ようこそ♡ 魔王さま♡」

「俺が来る場所なのか」

「玉座、どうぞ♡」

「指定席か」

「映えます♡」

「座るのは、判断が揃ってから」

直人の正面、玉座の上に薄いUIが浮かぶ。


【魔王室:起動ウィザード】

STEP1:魔王装備(身体)を適用してください

推奨:フル装備(標準)

※未適用の場合、機能が使用できません

直人は目を閉じた。

「コスプレか!」


直人は渋々スクロールした。

【魔王装備(身体)】

角:魔術(系統選択)

衣装:防御(耐性/属性)

靴:敏捷(移動/回避)

マント:時間・場所移動(制限あり)

手袋:怪力(作業/拘束)

オプション:

牙:魔素吸収(※倫理注意)

髪色:属性強化(炎/水/土/魅了 等)

眼:魔力増大/相手魔力減衰(片目ずつ可)


直人は玉座を見た。

玉座が「はやく座れ」と言っている気がする。

言ってない。言ってる気がする。

嫌だ。


「……角って、いる?」

ミリアが即答。

「必要です♡ 魔王なので♡」

「論理が死んでる」


直人は“角”にカーソルを合わせた。

【角:未展開】

展開しますか?

YES / NO

直人は小声でYESを押した。

瞬間、頭が少し重くなった。

そして“空間が取られる感覚”。

直人は思わず姿勢を低くする。

ミリアが満足そうに頷く。

「立派な魔王らしい角あります♡」

「魔王らしいの定義して」


次に衣装。

直人は“フル装備(標準)”にチェックを入れかけ――止めた。

「標準って何だよ。魔王の標準って」

ミリアが胸を張る。

「直人さま、標準化大好き♡」

「大好きじゃない。必要に迫られてるだけだ」

直人は最低限にしようとして、結局“標準”を押した。

弱い。俺が弱い。

その瞬間、全身に“重み”が乗る。

服の感触が変わる。

背中に何かが追加される。


「……マントまで?」

ミリアが即答。

「移動です♡」

「移動って、どこに」

「逃げるために♡」

「正直だな」

ミリアが肩を揺らして笑っている。

直人は睨む。

「笑うな」

「だって♡ 魔王さま、社会人♡」

「社会人は仕様確認するんだ」


直人は手袋の項目を見て眉をひそめた。

怪力。

「ガントレット?」

「腕が強くなります♡」

「雑な説明だな」


直人が手袋をYESにした瞬間、肘から先に力が満ちる。

重いのに軽い。

矛盾した感覚。

直人は反射で、玉座の肘掛けを握った。

――ミシ。

肘掛けが壊れる。

「ちょ、待て」

ミリアが目を輝かせる。

「直人さま怪力♡」

「壊すな、玉座を! ……って俺か!」


靴を適用すると、足裏が妙に落ち着かなくなる。

“走れる”感じがする。

走るな。きっと良くない事になる。


直人は歯を食いしばりながら、最後にオプション欄を見た。

牙:魔素吸収(※倫理注意)

直人は即座にNOを押した。


髪色。

候補に“銀(魅了強化)”があって、直人はミリアを見た。

「……お前の色じゃん」

ミリアがにこっとする。

「お揃い♡」

「リンクコーデ。遠慮する」

直人は意地で“茶(土)”にしようとした。

だが説明が出る。

【茶:安定/保守/安全】

【銀:認識誘導/対人最適化】

直人は指を止めた。

(対人最適化って何だよ。ミリアがこれだと?)

結局、直人は“茶”を選んだ。

現場は安定が命。魔王も同じだ。たぶん。


最後に、眼。

紫(魔力増大)と水色(相手魔力減衰)。

直人は顔をしかめる。

「オッドアイまでやるのか」

ミリアが即答。

「素敵♡ 魔王さま♡」

「魔王を理由にするな」

直人は、片目だけ水色にした。

“減衰”は安全装置だ。たぶん。

たぶんばっかりだな。


【魔王装備:適用完了】

・魔術:解放(初級)

・防御:解放

・移動:制限付きで解放

・怪力:解放(※破壊注意)

・敏捷:解放


直人は、そっと息を吐いた。

豪華な玉座の間で、自分の体が“別仕様”になっている。

「……コスプレじゃない」

ミリアが満足そうに頷く。

「素敵なお姿です♡」

「最悪だ」

「最高です♡」



そのとき、控えめなノック音がした。

玉座の間に似合わない、丁寧すぎる音。

コンコン、と二回。


扉が、音もなく開いた。

そこに立っていたのは――メイドだった。

黒と白の正統派。姿勢も呼吸も、無駄がない。

……なのに背中に長物、腰に短剣。袖口には小瓶。

手には銀のトレー。


直人は虚ろな眼差しで言った。

「武装してるけど」

ミリアが小声で囁く。

「当然♡ 戦闘メイドです♡」

「当然のラインがおかしい」


メイドは深々と頭を下げた。

「異界の魔王さま。魔王室付・戦闘メイド、シズクです」

声は柔らかいのに、内容が硬い。


直人は目を細める。

「戦闘メイドって何だよ」

シズクは即答した。

「役割です。家事と殺意の両立です」

「……両立の方向性を間違えてるな」


ミリアが肩を揺らして笑う。

「直人さま♡ 家事できる魔王さまどうですか♡」

直人は一拍だけ真顔で頷いた。

「魅力的だが、今それ言うと俺が調子に乗る。後で」


シズクはトレーを差し出した。

湯気の立つ椀。

「初期配布です。魔王化直後は、判断力が落ちます」

「判断力って、今の俺に残ってた?」

シズクは目も逸らさず。

「ありません」

「容赦ないな」

挿絵(By みてみん)


直人が覗くと、椀の中で丸い具が浮いていた。

ぷかぷか。

ぴくぴく。

直人は無表情で言う。

「……生きてる?」

「はい。鮮度です」

「鮮度の概念が違う」

「魔界の料理は“制圧してから食べる”が基本です」

「制圧?」


シズクは腕だけを滑らせた。

次の瞬間、椀の具がピタリと止まる。

「今の何だよ」

「厨房制圧術式(弱)です」

「魔法?」

「厨房は戦場ですから」

「魔界概念!」


直人は一口飲んだ。

――うまい。普通に。

悔しい。

「……味はちゃんとしてる」


シズクは淡々と頷く。

「当然です。味が悪いと士気が落ちます」

「魔王室が軍隊運用になってる」


シズクは視線を直人の手元に落とした。

魔王装備――手袋(怪力)が適用済みになっている。

「異界の魔王さま。忠告です」

「何」

「厨房に入り、その手で料理をすると、鍋が殉職します」

「鍋が労災?」

「道具が先に折れます。次に器が割れます。最後にキッチンが死にます」

「インシデント」

ミリアが吹き出した。

「魔王さま、キッチンブレイカー♡」

「やめろ。響きが最悪だ」


シズクは一礼。

「よって、調理は私が担当します。異界の魔王さまは味見のみ許可します」

直人は即答。

「味見は許可制なのかよ」

「はい。安全のため」

「おれは危険物か」


シズクは淡々と続けた。

「それと、玉座の肘掛けが破損しています」

直人は目を逸らす。

「……事故だ」

「承知しました。再発防止だけ実施します」

直人の目が死んだ。

「仕事だ……」

ミリアが楽しそうに言う。

「直人さま♡ 仕事モード♡」

「やめろ.。戻れなくなる」


シズクは、背中の長物に指を添えた。

添えただけで、空気が変わる。

玉座の間の影が、ほんの少し“正される”。


直人は喉が鳴った。

(……こいつ、強い)


「シズク」

直人が呼ぶと、シズクは即座に顔を上げた。

「はい」

「お前、どれくらい強い」

シズクは一拍も置かずに言った。

「異界よりお越しの魔王さま(Lv1)よりは強いです」

直人は眉を寄せる。

「異界……つまり、こっちの世界の異物は俺か」

「現状分析です」

「……やめてくれ、刃が刺さる。」


シズクは淡々と追撃する。

「異界の魔王さまは“装備”を得ました。ですが、使えません」

直人は反射で言い返す。

「使えるだろ。いま角も――」

「天井を気にしている時点で、使えていません」

「冒険者が装備揃えただけでお強いですか?」

「論破確定」

ミリアが、嬉しそうに頷く。

「教育♡」

「うるさい」


シズクは、まっすぐに言った。

「私が初期訓練を担当します」

直人は即答する。

「いやだ」

「拒否権はありません」

「あるだろ」

「ありません。魔王室規定です」

「規定って俺が作るんじゃ・・・」


シズクは直人に有無を言わせず指示し、最後に、椀を指した。

「飲み干してください。訓練は明日です」

直人は口の中だけで呟く。

「……明日って。現実の明日なのか、こっちの明日なのか」

シズクは微笑まないまま言った。

「どちらでも対応してください」

「……雑だな」


玉座の間に、戦闘メイドが配属された時点で――

もう、戻れない気がした。


直人は、豪華すぎる玉座の間で、静かに拳を握った。

そして思い出した。

封印はした。

だが、終わっていない。


“残留”は、笑っていた。

ミリアが満面の笑みで言う


「ようこそ魔王さま♡ 可能性って、だいたい起きます♡」


(第二章 第2話に続く)

魔王になり、門を閉じて肩の荷が降りたと思っていたら、魔王の「指南役」まで登場し、ますます直人の苦難は続いてゆくことに。魔王編も受難街道の模様。

一章は“巻き込まれと定義”中心、二章から“運用と統治”が本格化します。

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― 新着の感想 ―
服装から入って、メイドが登場して、魔王の部下としては超優秀なのではないかと思わされますが。ミリアではない、誘導役が現れて、面白かったです。どんどんと整えられて、お堀が埋まってきていますね。今回も楽しく…
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