朝は弱いんです
ふわあぁぁぁぁ。
おはようございます、藤峰織花です。朝は苦手な令嬢なのれす。
だからこそ、朝練とか無理だなって思って帰宅部にしてるわけだし。
余裕を持って登校…あふぁぁぁ。
ここまで送ってくれた家の運転手さんにお礼を言う。多くの生徒は寮を利用しているが、私は通える範囲だったのでこうして車で登校している。
朝練をしている人にとっては遅刻、帰宅部にしては早い時間に学校へ着いた。そのためか、周囲に人はいなかった。誰も見ていないことをいいことにあくびしながら、靴箱に靴を入れようとする。すると、靴箱兼ロッカーから何かが飛び出してきた。
緑色で、ピョンピョン跳ねている…その名はカエル。一体何匹入っているのか、次から次へと出てくる出てくる。
ふあぁぁ、カエルねぇ…また、#いつもの__・__#嫌がらせだろうなぁ。ぶっちゃけ、前世で男勝りな子供だったからカエルも虫も平気なんだけどなー。
が、ここはエリート校である。カエルが苦手な令嬢も多いだろう。一応、私の靴箱から出てきたものだし、責任を持って自然に返してあげよう。
「あふ…ほーら、家に帰りましょー」
飛び跳ねるカエル君達を持っていた大きめのハンカチに包む。
あらかた回収したかなと思っていたら、一際活きのいいやつが「へっ、捕まるかよっ!」とばかりに大ジャンプして逃げていく。
「こら、待ちなさ…ふぁ」
ついつい、あくびに襲われ私の行動が鈍る。ただでさえ、鈍臭いのだ。カエルはどんどん手元から遠ざかり、学校内へ侵入していく。
まずい、もう私の手に負えない…。カエルも私の限界を嘲笑うかのように、よりスピードを上げて距離を引き離していく。
カエルの逃げた先を諦めの目で見つめていると、何と向こうから人がやって来た。これは…チャンス!かもしれない。背丈、服装的に男子生徒だから問題ないはず。
勝手な判断の元、私は救援を要請した。
「すみませんー!その逃亡犯をっ、捕まえて下さい!」
「は!?カエル…っ…!?」
当然謎の救援要請を受けた相手は驚いている。驚きはしつつも、しっかりカエルをキャッチしてくれるあたりできる人だ。カエルもどことなく悔しそうな顔をしている気がするよ!
その人はカエルを片手に私の元へ近づいてくる。姿がはっきりと分かるにつれて、私はぎょっとした。何を隠そう、彼は攻略対象者の一人だったからだ。
派手な金髪に相応しい甘いマスクのイケメン。2年の桂雅人その人だ。
こんなイケメンにカエル持たせてる私もどうかとは思う…。
「あの、ありがとうございます。そちらのブツをこちらへ引き渡して頂けませんか?」
私の両手は捕らえたカエルズに使っているので、どうしようもないのだ。大人しく待っていると、彼はカエルをそっとハンカチの中に入れてくれた。
「ご協力に感謝致します。では私はこの子達を返してきますので…これにて失礼します!」
返事を聞かずに外へ飛び出す。なるべく接点を持たないようにしなければ!の想いである。それに、カエルを持ったまま学校にいるわけにもいかないし。
私は一生懸命走った。運動音痴なりに走った。そして、しばらく走った後に自分の失態に気がついた。
…靴箱のところに鞄を置き忘れてしまった。
後でクラスに帰ると、鞄は桂によって無事届けられていたという。うわぁ、かっこつかないなー私…。この抜けっぷりのせいで、接点持ちたくないと思ったのにお礼に行くはめになった。
冷静な心臓と頭を…誰かくれませんか?